BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット@グランプリ――新時代!

 

 

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 茅原悠紀が突き抜けた瞬間、ピットでも大きなどよめきが起きた。ロクッ!? 茅原の超絶ターンは、多くの人の頭にこびりついていただろう。だが、6号艇である。6コースである。内には強くて強くてたまらない選手ばかりが揃っている。その壁を一気にぶち壊すシーンを目の当たりにして、誰もが驚愕の声をあげていたのだ。

 茅原悠紀が、グランプリの優勝戦で先頭を走った!

「普通のターンをしたんですけど、そしたら一番前にいたんですよ。エーッと思って、2コーナー回ったら、これって賞金王だよな、えーっ、どういうこと?って、パニック状態でした(笑)」

 ニュージェネレーション・ターンで見る者を興奮させた茅原自身もまた、興奮していたのだ。それほどまでに、衝撃的なシーンだった。何かを予感させるシーンだった。茅原の定義では、ニュー・ジェネレーション・スーパースターズとは「どのコースからでも勝てて、手のつけようもないくらいの新時代」だそうだ。その象徴的なシーンが今、目の前にあらわれた。茅原自身も含めて、全員が浮足立つのも当然である。

 

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 グランプリだから、賞金王だから、と言えばそれまでだが、こんなにも敗者の顔が憮然としていた優勝戦後のピットは、今までにあっただろうか。

 井口佳典は、いつまでも表情がカタかった。モーター返納の間にも、苦笑いでさえ、目撃できなかった。やるべきことをやったのなら仕方ない。時に井口はそんなふうに、レース後に目元を緩ませることがある。しかし、今日はそれが見えなかった。レース前の迫力ある表情にさらに敗戦の憤怒が貼りついたような表情だった。

 

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 やるべきことをやった、というなら、太田和美が一番それを実感していてもおかしくない。3カドに引き、強烈なスタートを決め、まくって攻めたのだ。太田のアタマから勝負していた人なら、あのレースを見せられたら外れても納得のはずである。だが、太田自身はまったく納得している様子はなかった。表情に太田らしい穏やかさが皆無だったのだ。数十分後、たまたまレース場を後にする太田と会った。挨拶をすると、丁寧に返してはくれたが、どこか不機嫌そうにも見えた。すぐに気持ちを切り替えられる敗戦ではなかった、ということだろうか。

 石野貴之については、井口や太田よりはまだ表情に穏やかさがあったように思う。ただ、もちろん笑みはない。石野が感じていたのは、悔恨よりも落胆か。見せ場のないシンガリに敗れて、そのことへのガッカリ感がより大きかった可能性はある。

 

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 落胆ぶりをあらわにしていたというなら、菊地孝平が凄かった。太田が攻めていったことで、展開は確実に菊地に向いた。菊地はもしかしたら、勝利を確信したかもしれない。ところが、その内からすさまじいスピードで突き抜けていく若者がいた。その気分の上下幅はとてつもなく大きい。菊地はメダル授与式に向かうため、茅原のウイニングランが終了するのを待たねばならなかった。その間、菊地はたまらずにしゃがみこんでしまっている。そして頭を大きく垂れた。明日、ボートレースの辞書が編纂されるなら、「うなだれる」の項目には「菊地孝平がグランプリ優勝戦後に見せていた姿」ときっと記される。菊地はひたすらに敗戦を悔やみ、コントロールできない感情を持て余すようにうなだれつづけた。

 

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 そうしたなかで、実はいちばんサバサバしていたのは、白井英治である。ピットに戻ると悔しげな表情を見せはしたが、勝負服を脱ぐ際にはすでに周囲に明るさを見せつつ、回顧を始めている。これまでのSG優勝戦で敗れた後は、白井は泣き顔に見えるほど顔をゆがめていた。それがまったくなかったのだ。

 スリット写真が貼り出され、覗き込んだ白井は「仕方ない」と言った。コンマ12というタイミングは、SG優勝戦1号艇のそれとしては完璧に近い。ただ、それよりもさらに踏み込んだ者がいたというだけだ。太田と菊地は03。ここまでこられたら仕方がない。その通りだ。

 大事なのは、白井がそれを即座に消化できたことだ。声をかけると、瞳の奥には明らかに悔恨があった。しかし、「やることはやれたと思います。うん、仕方ないですね。また来年。いい目標ができましたよ」と淡々と語った。さらに別れ際、「言いたいことはわかってますよ」という感じで目配せを送ってきている。タイトルを手にしたことで、白井英治は変わった。それはもちろん成長だし、白井はさらに強くなったのだと思う。15年の白井英治は、今までよりさらに強大な男になってくれるだろう。

 

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 ともあれ、敗者の憮然とした表情が目立ったレース後。それは「新時代の男が台頭してきたことへの危惧」だった、というのは考え過ぎだろうか。それほどまでに、茅原のターンは異次元だし、それを迎え撃つ強豪たちにとっては厄介すぎる敵だろう。

「ターンに完成形はないと思う。だから、もっともっと、ですね」

 この男がさらにターンを磨き上げたら、一気に時代を変えてしまうのではないか。新時代が一夜にして到来するのではないか。そんな想像も自然とできるし、相対する選手たちにとっては絶対に放置できない事態である。

 僕は、茅原の優勝が、15年のボートレース界をさらに面白くすると確信する!

 世代交代というものは、ジワジワと進むものである。だが、世代闘争はいつだって起こりうる。若き世代が台頭し、それを既存の強豪たちが「まだまだ早い!」とばかりに叩こうとする。どの世代も畢竟、闘志が高まるその状況は、生み出すシーンを必ずエキサイティングにするのである。

 その意味で、茅原の優勝はなんとも幸せだったと僕は思う。

 おめでとう、茅原。ありがとう茅原悠紀!

 

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 というわけで、水神祭なのであります。多くは語りません。写真を見てください。すでに真っ暗闇の平和島水面に、茅原はこんなふうに投げ込まれました。最後までピットを沸かせてくれてありがとう。来年もずーっと我々を沸かせ続けてくれ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)

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