BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――素晴らしき匠らしさ

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 遅めの時間帯の整備室。本体整備用のテーブルが大盛況なのであった。まずはプロペラ、というのがSGなどでは主流であるが、調整の経験も山ほど積んでいる達人たちは本体を割る判断も早い。まして機力に差があると言われる出力低減モーター。その差を詰めるべく、初日から本体に手をつける匠は少なくないというわけだ。

 ざっとメモした名前は、山﨑昭生、西田靖、岡孝、山崎義明。レースを終えてモーター格納作業をしている選手もいるから、整備室は満員御礼状態である。気配がどう変わるかは水面でチェックするとして、ボートマスターたちはこうしてとことん、勝利への渇望を整備というかたちで表現していることを強調しておきたい。

 

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 壁際のテーブルでは、小畑実成がリードバルブ調整。本体を割らない調整に励む選手だってもちろんいる。小畑は、前検日には泣きまくっていたし、開会式でも「優勝するつもりで来た。しかし感触が悪かった。気持ちをリセットして頑張る」という旨を語っていたものだが、7Rは見事に1着。レース後には「回り足が良くなった」と語っている。選手班長としての作業のかたわらで、しっかりと足色をアップさせた! 児島を知り尽くした男らしい前進っぷりだった。そしてさらにリードバルブ調整で気配を上向かせようとしている。絶対に優勝するのだという決意は、さらに強まっていると判断するべきだろう。

 12R発売中に、その小畑が整備室の整頓を始めている。以前、ある関係者がマスターズのピットでしみじみこう語っていたことがある。「ベテランの人たちは、整理整頓を本当にしっかりとやる。その姿、整備室やプロペラ小屋の様子を、若い選手にも見せたいよ」。新鋭王座とかヤングダービーとか、もちろんSGだって、12Rあたりの時間帯にはペラ小屋も整備室もきれいになっているものだが、マスターズのピットはさらにその上をいく、というのである。小畑の動きも実にキビキビと素早く、瞬く間に工具などが揃えられていく。つい我が家の状態を思い出し、背中が丸まってしまう。

 

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 そこに矢後剛が登場し、お手伝いを始めている。矢後もサクサクと動き、テーブルをぴかぴかに磨き上げる作業を担当した。先ほどまで本体整備が行なわれまくっていたテーブルが、やはり瞬く間にきれいになっていく。つい我が家のテーブルを思い出し、さらに背中が丸まる……というのはどうでもいいか。その後、渡邊哲也が整備室にやってきて、整頓作業を行なおうとしたのだが、すでに小畑と矢後がやっちゃいました。矢後に「終わったよ」と言われて渡邊は、目を丸くしつつ恐縮しているのだった。

 こうした作業を小畑も矢後も、現在はほぼ行なっていないはずだ。やはり若手、新兵の仕事であり、通常のレースでは小畑も矢後も後輩に任せればいい。小畑も矢後もマスターズ初参戦で、便宜上は若手扱いだから自分たちのなすべき作業だと心得ているわけだろう。ようするに、こういう仕事は久しぶり、それこそ10年単位の久しぶりのはずである。だというのに、テキパキテキパキピカピカピカピカ。まったくもって、感服するしかないのである。

 

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 そう、敬愛すべき先輩たちの姿には、ただただ唸らされるというものだ。たとえば、レースが終わると、関忠志が真っ先にボートリフトに駆けつけるシーンとか。エンジン吊りでも前付けですか!? 今節、登番が上から2番目の関である。ゆっくりと重役出勤であらわれたとしても、誰も何も思うまい。それでも、関はスイスイとやって来るのである。

 

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 加藤峻二も同様。シャキシャキと動く加藤に、いつも心のなかでひれ伏している。11R後、加藤はモーター架台を準備して、平石和男の帰還を待った。それを見つけた長岡茂一が駆け寄って、課題を受け取ろうとしたのだが、加藤は課題の取っ手を握る手を離さなかった。長岡としては、偉大なる加藤先輩を動かすわけにはいかないと思ったのだろうが、加藤からすれば同支部の後輩の面倒を見るのは当然。まるで特別扱いを拒むかのように、頑としてエンジン吊り&モーター運搬の仕事を手放そうとしないのである。

 マスターズはまず、水面の戦いぶりが大好きだ。進入から目が離せず、道中も熱いマスターズは、本当に素晴らしいレースだと思う。そして、陸での彼らの姿にはただただ尊敬の念しかない。水の上でも陸の上でも、彼らは僕を唸らせてくれる。そうして僕は、明日もまた力いっぱい舟券を買おうと強く思うのであります。資金が続けば……いや、続かせるぞ、明日も!と決意させてくれる匠たち、なのだ。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)