BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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王者が1R!

 

 

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 事件である。松井繁が1Rに登場。96年以降、SGも含めて1回もなかったという、オープニングへの登場。昨日の夕刻に前夜版が出て、報道陣はやはり騒然としていたし、20年もなかった事態が起こるということはどう考えたって、歴史のなかのひとつの出来事である。

 サマータイムで1Rの発走時刻が遅いとはいえ、しかし1Rにはやはり“格下感”がある。長きにわたって全国の番組マンがここに松井を据えなかったのは、誰もが松井の“圧倒的格上”を認めていたからであろう。もちろん、大村の番組マンが松井を格下と捉えたわけではないだろう。大村の1Rといえば、通常は企画番組で1号艇に格上の選手が入る。松井は1号艇に組まれたのだから、一般戦に倣うなら、今節の主役の一人と認められたことになる。しかし、SGにいわゆるシード番組はありえないし、どれだけ這った節でもここに組まれたことのない松井の名前が1Rにあることは、やはり何らかの意味を見出したくなるというもの。まあ、そんなふうに重く捉えなかったとしても、実に珍しいものが大村オールスター3日目に見られたというわけである。めっちゃレアなレースなのだ。

 

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 というわけで、勇んでピットに向かった次第なのだが、レース前は特に変わった雰囲気は皆無。他の選手たちも、昨日番組を見たときには話題になったはずだが、今日を迎えれば自分の戦いが最優先。特に興味を抱いている様子はなかった。まあ、当たり前だ。展示もまったくいつも通り。淡々と終わり、松井も淡々と引き揚げている。そりゃそうだよなあ。僕もひとまず松井のことは忘れて、他の取材に動いた。

 レースはアリーナの隅で観戦。山口剛の前付けにも、今垣光太郎の3カドにもまったく動じず、鋭いスタートをびしっと決めて、松井は逃げ切っている。平本真之がアウトから勢いよく伸びていたが、レース後に畠山と「松井にまくらせないオーラが出てたんじゃないの?」なんて笑い合ったくらい、1マークでは戦法を迷っていたように見えた。ようするに、王者完勝、である。

 

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 ピットに戻った松井は、早々にヘルメットを脱いで、険しい表情を見せている。大筋で、いつものレース後とは変わりはない。ただ、本来は平本のエンジン吊りに参加するはずであろう服部幸男が、リフトの柵にもたれながら、松井を待ち構えていた。松井は服部と目を合わせ、右手を大きく振った。動きとしては「ちょっと裏で話をしよう」というような腕の振り方だった。先頭を走ったので、エンジンもボートもほとんど水をもらっていないから、エンジン吊りは早々に終了。松井は服部と肩を並べて、控室に消えて行っている。ほんとに裏で何かを話そうとしていたのか? ちょいと深読みが過ぎるかもしれないが、ここでの二人の動きには、何か意味があるように思えてならなかった。

 次に松井がピットに姿をあらわしたのは、3R発売中。それも発走がわりと近づいたタイミングである。1Rのスリット写真を見ながら、その周囲で4Rの展示準備をしていた白井英治や江崎一雄に叫ぶように話しかけている。SG初出場の江崎は、やや苦笑い混じりの笑みを浮かべて、聞いていた。

 

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 松井のボートには、「試」のプレートが装着されていた。よく考えれば、あまり見ない光景である。後半レースが指定席(2回乗りで1走目は前半でも2走目は終盤が普通だろう)とも言える松井は、その日のレースを終えたあとに試運転をする時間がほとんど残されていない。09年の多摩川クラシックで、10Rを終えるや速攻で試運転に飛び出したのを目撃したことがあって、その素早さには感服させられたのだが、それは稀なケース。「試」のプレートが松井のボートにつくことがまず珍しいことだ。

 そのボートのもとに歩み寄って、松井はまずプロペラを外し、続いてギアケースを外し始めた。あらかじめ、あくまでも僕の感覚だと断わっておく。不機嫌に見えた。JLC解説者の青山登さんが声をかけていたが、それに応える様子にも朗らかさがない(青山さんは松井のヘルメットのサイズを訊ねていた)。雑談に近い会話だったはずだが、松井には気持ちがほぐれているような様子が少しも見当たらなかった。

 ギアケースを外し、整備室を向かう途上に、ちょうど僕はいた。もちろん松井を見ていたのだが、王者にはそうは見えなかったかもしれない。松井は、「おはよっす」とこちらにひと声かけて、調整に向かった。その言い方は不機嫌そうではまったくなかったのだが、ああ、僕はかえって松井に声をかけることができなかった……。やっぱり、普段とはちょっと違うオーラを感じたのである。

 ギアケース調整はあっという間に終わり、その後はふたたび控室に消えている。このあとはペラを外したままだったので、ペラ調整と試運転を繰り返すことになるだろう。

 王者にとっては、ちょっとした非日常となった大村オールスター3日目。これが歴史の重大なひと節になるのかどうかは、これから決まる……。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)