BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――男前たち!

 

 

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 服部幸男はカックイイっすね。その振る舞いを見ていて、改めて感じる。

 前半の王者記事に書いた、松井繁を出迎え、並んで消えていく様子は風格充分。エンジン吊りを待つ間、手すりにもたれて水面を眺めている姿は、ギリシャ彫刻を思わせる美しさである。もう、絵になりすぎなのだ。

 11Rは逃げ切り1着。悠然とピットに戻ってきた服部に、菊地孝平が敬礼! ようするに、菊地がじゃれついたというか、ジョークを投げかけたというか、そんな感じで出迎えたわけだが、それにさらりと敬礼で返す服部がまた素敵である。自分からことさらにおどけたりはしないが、後輩がそんなふうに慕ってきたなら決してスルーせずに受け止めて、軽いジョークを投げ返す。いや~、痺れる!

 気づけば服部も44歳。まもなく匠世代に突入である。一般的には、中年なのである。しかし、この人は渋みも加えてますます麗しく、またその人柄や哲学で後輩たちをも魅了して、大きな存在感を発揮する。比類なき存在なのだ。ひとまず準優当確で明日を迎えることになった服部。昨年、一昨年オールスターのリベンジを、期待したくなる雰囲気である。

 

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 現代における若き男前レーサーといえば、言わずと知れた、篠崎元志である。10Rは2コースまくりで快勝! ここまで苦戦が続いたが、なんとか明日につなげることができた。

 実はちょっとした経緯があって、今節の元志の様子に注目している。種明かしはBOATBoy7月号で! と宣伝をかましたところで、つまりは「元志に何らかの変化が起きてはいないか」ということを注視しているわけである。

 勝って淡々、は、一面ではまくり切った相手が盟友と言うべき峰竜太だったこともあるだろうか。仲がいいだけに、その心中もわかり切っている。その気遣いがあったであろうことは想像できる(峰は「2着に残れてラッキー」と言って笑いを振り撒いていたが、顔が明らかに引きつっていた)。一方で、以前と比べれば落ち着きが増したこともまた、否めないように思う。前半レースで4着に終わった元志は、残る2戦=今日10Rと明日のレースで18点が必要だった(ボーダー6・00として)。日またぎで1着2着という厳しい勝負駆けだったのだ。しかし、10R前も元志はキリッキリに尖った感じは見えなかった。これもまた、以前と比べれば落ち着いてるなあ、とも思うのである。

 この変化は果たして何か。今節にその答えが明らかになるかどうかはともかく、引き続き注目していかなければなるまい。

 

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 で、弟の篠崎仁志はなんか元気がないのである。気のせいということも充分ありうるが、たとえば昨年のオールスターを思い出せば、明らかに覇気が感じられなくなっている。昨年はバリバリの地元開催。ドリーム戦にも選ばれて、燃えるだけの理由があったのは確か。しかし、それを差し引いても、なんか元気がないぞ。どうした、仁志!

「お腹がすいていて、元気が出ないんですよ」

 仁志は言う。答えに心がこもっていないというか、はぐらかされているような気がした。

「減量?」「してはいるけど、みんなしてますからね。だから、普通のことです」「じゃあ成績は悪くないのに、なんで元気ないように見える?」「いやあ、そんなことないんですけどねえ……」。なんだか要領を得ない。顔つきがだんだんと不機嫌になっていくようにも見えた。簡単には話せない、もしかしたら仁志をもう一皮むけさせるであろう課題に直面しているのだろうか。

 結果が最高の良薬になるのは明らかなので、まずは予選突破を果たし、さらに準優も乗り越えて、自身最高の成果をあげてもらおう。そうなれば、元気がないように見える、なんてこともなくなるだろう。あと、少しは食べ物を口にしなけりゃもちませんよ。

 

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 さて、11Rの3周2マーク、アリーナ席に大歓声が巻き起こった。

 服部が逃げ切り、2番手争いは桐生順平がリード、3番手争いは激しくなって、いったんは小野生奈が浮上したが、2周2マークで捌いた山崎智也が逆転。隊形的には決着がついたように思われていた。3周2マーク、山崎は悠々と先マイする態勢に見え、やはり勝負アリにも見えたのだが、内からグイグイと小野が伸びてくるのにも、全員が気づいていた。山崎はターンマークをしっかり回り、大きなミスがないように見えた。小野は、やや遅れてターンマークを小回り。普通なら、やはり山崎が先んじるパターンである。ところが、小野は引き波のないところをスムーズに回り、智也に並びかけていったのだ。ここでまず、重成一人が「おーっ!」と声をあげている。

 あとは直線勝負。対岸のビジョンはまず先頭の服部を映し、そのままゴールラインに映像が固定された。次に通り過ぎる桐生。そして併走する智也と小野…………。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 そこで観戦していたのは10人ほどだっただろうか。全員が声をあげた。小野の舳先が明らかに智也より前にあったのだ。

 小野生奈が、山崎智也を大逆転した! ほとんどミスのないように見えた智也を、言葉は悪いけど“小娘”生奈が捌いてしまった! すげーーーっ! マジかーーーっ! 全員の顔に、唖然とした笑みが浮かぶ。エンジン吊りに向かいながらも、そのシーンを口々に語り合うオールスターたち。湯川浩司は、「オノナマすげー」とか言っていた。そんなふうに呼ばれてるのね。

 

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 3着なのにいちばん多くの視線を集め、報道陣に囲まれ、やや戸惑うような表情を見せてもいた小野の姿も印象的ではあった。だが、もっと印象に残ったのは、智也が岡崎恭裕に語りかけていた言葉だ。

「たいがいのことは平気だけど、今日は……」

 悔しいと続いたのかどうかは聞き取れなかった。恥ずかしいと言っていた説もある。だが、ちょっとやそっとでは動じない智也の心が、大きく揺れたのはたしかである。表情としては苦笑いの部類に入るものではあったが、その心中はまったく別だっただろう。智也、屈辱の逆転負け。それを言葉にもした智也は、実にカックイイのである。

 というわけで、明日の小野生奈と、対戦する選手にも注目! まず小野のモーターが噴いていることを、これで全員が強く心に刻んだだろう。そして「山崎智也を逆転した小野生奈」としても、強くてどうしようもないオールスターズに注目されることだろう。この包囲網を切り抜けられるかどうか。クリアできれば、準優戦線はさらに面白くなるぞ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)