11Ｒ発売中にプロペラ調整室を覗き込むと、大半が予選落ちの選手だった。
準優行きを決めた選手たちは、足的にもそれなりの手応えがあるわけで、レース後にあえてペラ調整をする必要がない、ということかもしれない。一方で、予選突破に失敗した選手たちは、明日からの一般戦を消化試合とは考えていない、ということも言える。
あるいは、違和感はすぐにでも解消しなければ気が済まない、ということか。その11Ｒ発売中には、毒島誠が険しい表情でペラを見つめる姿があった。レース後すぐに、ここに駆け込んだようだ。10Ｒの敗戦は、足うんぬんというよりも、吉田拡郎の６コースまくりを真っ先に浴びたことではないかという気がするが、毒島はそうは考えていないのか。まさかの予選落ちを喫してしまった、プロペラに問題があるのではないか、とレース直後にペラ室に飛び込む。その姿勢が、毒島をここまでに押し上げたのかもしれない。
11Ｒ後には、田中信一郎も同じ動きを見せている。レース後いったん控室のほうに消え、ものの数分で着替えを終えてピットに現れると、整備室に早足で駆け込んでモーターからペラを外し、また早足でペラ室へと向かったのだった。こういう動きができなければ、あるいはこういうメンタルがなければ、この大舞台に立ち続けることはできない。そんな、強者の真理を見たように思う。
11Ｒ後＝12Ｒ発売中のペラ室では興味深いシーンも目撃している。やはりレースを終えてペラ室に入った濱野谷憲吾の向かいに、茅原悠紀が座っていたのだ。茅原はペラを叩いておらず、ゲージを当ててペラを見つめる濱野谷に視線を送っている。これ、どう見ても濱野谷が茅原にアドバイスを求めている図、なのである。あるいは、超絶ターン男の茅原に何らかの意見を求めたか。いずれにしても、今まで見たことのない組み合わせであり、濱野谷の“本気度”が伝わる光景であった。ファンタジスタが明日、ニュージェネターンで大暴れ!? そんな妄想をしたくなった。
なお、整備室を覗いたら、平高奈菜の姿があった。本体整備だ。ここまで記してきた選手は、濱野谷以外は予選敗退組。平高もそうである。準優勝戦と一般戦では、モチベーションが違って当然だが、しかし勝負の場がある以上、彼らは絶対に勝ちたいと願い、その舞台が何であれ最善を尽くそうとする。負けず嫌いがどうのこうのと何日目かに書いたが、こういう光景にもそれはあらわれる。ＳＧというのは、言うまでもなく技術やスピードに関して最高峰の舞台だが、メンタルに関しても最高峰なのだなと改めて痛感させられるわけである。
さて、４日目の今日は、終盤の時間帯に「トレイ掃除」が行なわれた。モーター架台にセットされているトレイを若手がきれいに磨き上げるのだ。すべての架台からトレイを外し、整備室の片隅に積み上げ、江崎一雄、前田将太がこれを始めた。いわゆる新兵のお仕事である。
そこに加わったのが、峰竜太。ちょっと先輩の世代ですね。峰がやらなければならない仕事ではないが、時間があるからお手伝い、といったところか。それを見たのか、ちょうど小野生奈の転覆整備を見守っていた福岡の若手たちがその輪に加わっていった。岡崎恭裕、篠崎元志。さらには竹井奈美が参戦。地元の下條雄太郎も遅れて参加している。それにしても九州、特に福岡の若手の層はほんとに厚いな。あまり意識してなかったけど、登番が大きい選手に福岡勢がやけに多いわけである。
岡崎さんや峰さんや元志さんがやってるのに素通りはできない、と思ったのか、たまたま整備室にいた桐生順平もここに加わった。さらに桐生と同期の鎌倉涼も。江崎と前田の２人で始めたトレイ掃除は、すっかり大きな輪になった。こうした作業はみんなで助け合って！ それがボートレーサーの性質である。
そこにもう一人、参戦してきたのですが、誰だと思います？
瓜生正義！
瓜生も小野の転覆整備を見守っていた一人なのだが、後輩たちが何かやってるのに気づいたのか、小野の整備もほぼ終わりかけていたこともあったのか、当たり前のようにそこに近づいて行った。そして、ごくごく自然にトレイを拾い上げ、しゃがみ込んで拭き拭き。心のなかで「それはあなたの仕事じゃないっす！」と突っ込んだワタシです。大勢で取り組んだおかげで、ものの数分で終了したトレイ拭き。瓜生はやっぱり何事もなかったかのようにその輪を離れ、また小野のほうを気にかけ始めたのだった。
すごいなあ、この人。それでもやっぱり、こうした人柄がファン投票１位に直結したとはまったく思えないけれども、絶対的に言えるのは、「瓜生正義の生き方は間違っていない」。ファン投票１位うんぬんじゃなくて、もう僕が断言しちゃいます！ それでいてめちゃくちゃ強いのだから、ひたすら良い意味で“変人”である。そりゃあ福岡の強い若手たちにとことん慕われて当然なのであります。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 池上一摩 黒須田 ＴＥＸＴ／黒須田）
