１Ｒの展示が終わって、ふとピットの中を見回すと、山口剛と吉田拡郎が談笑していた。吉田はプロペラを外しており、ボートの後部でしゃがんでいる。山口は吉田を見下ろすようなかたちで、笑顔を浮かべつつ話しかける。時折、吉田の「ハハハハ」という笑い声が聞こえてきて、リラックスしている様子がうかがえた。二人とも準優まではまだ時間があるからか、まだ余裕で過ごしているようだ。
もしかしたら山口は今日になって雰囲気が変わるかな、と想像していた。今日は大きな大きな関門である。優勝戦が最大の大勝負に決まっているが、今日をクリアしなければ先へは進めない。２着条件という勝負駆けは、簡単ではない。だから、一気にピリピリ感が増して、闘志の塊になっているのではないかと思ったのだ。だが、朝の時点ではそうではなかった。昨日までも落ち着きがあり、穏やかに微笑む場面が多かった。今日もそれは変わっていないということだ。それ自体が、山口の変化だと思うのだが、どうだろう。
地元勢でもう一人の準優組は辻栄蔵。１Ｒ展示前から、ペラ室にその姿があった。ギリギリまでペラ調整を行なう妥協なき男は、動き出しもまた早い。ということは必然的に、ペラ室にいる時間がもっとも長い一人、ということにもなってくる。
ペラ調整をしている選手は、大半が一般戦組だった。レースの時間帯が早い選手たちだ。服部幸男、平尾崇典、濱野谷憲吾などなど。準優組が本格的に動き出すのはまだ先のことだろう。それだけに、辻の姿はペラ室でよく目立っていた。ボートは陸にあったから、みっちりペラを叩いたのちに、試運転に出ていく心づもりだろう。
もう一人、重成一人もペラ調整していた。最初、その姿が見えず、準優組は辻だけかあ、とそんなメモをしたのだが、装着場からは死角になるペラ室の隅っこに重成がいるのに、あとで気づいたのだった。昨日までは、ペラ室の中心から少し右（装着場から見て）で叩いていたはずなのだが、今日はなぜ移動したのか？ 選手仲間との会話を避けて、ペラ叩きに没頭したかった、と裏読みしたのだが、果たして。
整備室をのぞくと、篠崎仁志がいた。ゲージ擦りだ。まず、いつも書いていることだが、急ぎの整備をする必要がないということなので、足的には余裕があると見ていいだろう。ゲージ擦りはいわば、次の戦いへの準備。今の戦いを疎かにしているのではなく、レースに集中できる状態にあるからこそ、次の戦いにも目を向けられるのだ。さらに、なんか表情が明るく見えるなあ。オールスターでは、やや元気がないように見えた。覇気を感じなかった。だが、今日は違う。あるいは今節はオールスターと様子が違っているのは確かなことだ。準優で競り負けてがっくりと肩を落としていたオールスター。あの日のリベンジの機会がやってきた。今日のレース後は笑顔になれるよう、奮起を！
準優組で目立った動きはこんなところか。あ、桐生順平が早々に着水していたな。調整用のペラを手にしており、係留所での回転調整に向かうところだった。１Ｒ発売中の大半の時間を係留所で過ごし、２Ｒ発売中に２周ほど試運転をして、再びボートを陸にあげている。そのほかは、序盤の時間帯は特に動きは見えず。エンジン吊りで準優組を見かけるのみで、それも特筆するようなものはなかった。峰竜太がちょっと緊張しているように見えたくらいかな。でもこれはいつもの峰竜太。つまり好気配、である。
本格的に動き出すのはこれから！ 時間を追うごとにピットの空気の質がぐいぐいと変わっていくことだろう。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 ＴＥＸＴ／黒須田）
