BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――あまりにも濃密な準優!

 とにかくアツかった準優3バトル。いずれもが実に濃い戦いとなった。それだけに、ピットの様子もまた濃いものとなった。レースを追ってお伝えしよう。

 

●10R

 

 

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 ピット内が騒然としたのは、やはり辻栄蔵の猛追だった。2番手を走る毒島誠を執拗に追いかけた辻。毒島がリードして迎えた3周1マーク、ここでピット内に悲鳴があがった。声の主は桐生順平だ。同じ関東地区のニュージェネレーション同士。いわば盟友である毒島が、まさかのミスターンをしてしまったのだ。開いた内を辻がくるりと小回り。これで辻は毒島に完全に追いついた。3周2マークで辻が毒島を捌いた瞬間、桐生の叫びは溜め息に変わっていた。

 ピットに戻った毒島は、天を仰いだ。ヘルメットのなかではきっとうめいていたことだろう。池上カメラマンが「ニュージェネって抜かれたことあるんですかね?」と言った。たしかに。ニュージェネレーション、というか特に毒島は、これまで何度そのスピードターンで前を抜き去ってきたか。その毒島が、ターンが流れたとはいえ、逆転されたのだ。これは屈辱だろう。もちろん、ほぼ手中にしていた優出を逃した悔しさはもっと大きい。毒島にとって、もしかしたら最近もっとも後悔が残るレースだったのではないか。

 

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 一方、辻は歓喜をあらわすというよりは、苦笑いを浮かべていた。翻訳するなら「疲れたぁ~」か。あるいは、「危なかったぁ~」かも。1号艇を活かせずに優出を逃すという、もっとも悔しい事態になるところだったのだ。普通のSGでもこれは悔しいわけだが、それが待ちに待った地元SGともなれば、悔しいだけでは済まない。大逆転の会心に酔うよりは、まずは安堵の思いが前面に出るのが自然というものだろう。

 カポック着脱場で顔を合わせた辻と毒島。毒島は開口一番、「まいりました!」と脱帽してみせた。辻は笑顔を返して、いやいやと手を振る。大バトルを繰り広げた二人だから、感想戦の段階ともなれば、素直な言葉の応酬となる。お互いに相手の健闘を称える気持ちもあっただろうし、お互いの力を認め合った瞬間でもあろう。胸の内に残る思いは正反対でも、そこは共通の思いもあったはずだと思う。

 

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 ただただ歓喜していたのは、勝った松井繁だ。スタ展は3コース主張だったが、本番は4カド選択から一気のまくり! 90%はそれでいこうと考えていたと松井は言うが、ものの見事に作戦がハマった会心の勝利だ。

 ピットに戻った瞬間、出迎えた仲間たちにガッツポーズ! 田中信一郎と吉田俊彦が同じポーズで返す。とにかく笑顔にあふれたエンジン吊りの作業となり、松井は充実感あふれた表情を崩さなかった。

 共同会見での饒舌も、松井の気分の良さをあらわすものだった。まだ未制覇のグラチャン、「獲りたいSGではありますけど、3500万じゃないから(笑)」とリップサービスまで飛び出すのだから驚いた。予選と準優や優勝戦との違いに言及したのも興味深かった(これが予選だったら3コースを獲っていた、という)。つまり、一発勝負かそうでないかとの差だ。松井が会見でここまで突っ込んで話すケースは珍しい。王者の気分をも高揚させる、会心の勝利だったのだ。

 明日も同じ3号艇。明日の戦略は果たして。3号艇なら3コース、とも言っていたが、まさかの3カドがあったりして!?

 

●11R

 

 

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 これもまた熱い一戦だった。今村豊が4コースから伸びてまくり差しを放った瞬間、報道陣が沸いた。今村の軽快なレースは、いつだって心ときめくものだ。

 ところが、回った後の山崎智也の足が凄かった。あれは紛れもない足の差だろう。というわけで、今村は当然、愚痴るわけである(笑)。

今村「あれは入ってただろ!?」

山崎「完全に入ってましたよ」

今村「だろ? そしたら、ウッソ~ンって」

山崎「フフフフフ」

今村「先回らしてくれーって思ったけど、行かれちまった」

 実際、智也も差されたと思ったようである。しかし、それは一瞬だけだった。今村はカポック着脱場でも、他の選手たちになんだかんだと話しかけており、今村の声だけが響く状況(笑)。つまり、それだけ悔しいのだ、と思った。

 今村の悔しさはこれだけに留まらない。3周2マークで中島孝平に逆転され、優出まで逃したのである。そりゃあ愚痴も多くなる(笑)。今村のもとに駆け寄った中島は、ヘルメットをかぶったまま頭を下げる。今村は、もちろん称えながらも、愚痴をこぼしまくるものだから、中島は恐縮そうに頭をペコペコペコと何度も下げるのだった。

 

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 どんなときでも淡々としている中島。6コース勝利のあとも、表情を変えていなかったほどだ。ところが、共同会見場にあらわれた中島は、椅子に座るなり「はぁ~、疲れた……」と呟いたのだ。そりゃあ、あれだけの激戦だから疲労度も高いだろう。それを中島が素直に口にするとは思わなかった。つまり、充実感でいっぱいなのである。あの今村豊を逆転したのだから、そりゃ気持ちいいよね。いい気分で優勝戦に向かう中島、6号艇といえども怖い存在だと思う。もっとも力が入るのは、もちろん次の地元SGだと思うが、大穴叩き出してタイトルもって地元SGに凱旋、なんてことだってないとはいえないぞ。

 

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 で、勝った山崎智也。ボートリフトに辿り着いたとき、出迎えていた毒島誠らに向かって、右手でピストルを作ってバッキューン。どうだ、勝ったぜ、ってな感じか。そしたら毒島は両手を水平に広げて「セーーーーーフ」(笑)。1マーク、危なかったですから。

 会見では、次のレースで深川真二が勝つことを想定し、2コースならツケマイに行くかどうかの質問が出ている。智也の2コースといえば、ツケマイだ。果たしてSG初Vを狙う同期をジカまくりで潰しにいくのか。これが優勝戦の展開予想のキモになるのは間違いない。智也もなんとなく口を濁している感じだった。「同期だから、もうバレてるし」とか。

 ところが、12Rで深川は敗れる。こうなると、この言葉に注目したい。「足合わせはしてないけど、1回競ったときに、伸びは深川、ターン回りや出足は自分、という感じでした」。1号艇の智也と4号艇の深川、と考えるとこの言葉は興味深いですよね。

 同期対決となるインvsカドの攻防。ワクワクするよなあ。

 

●12R

 

 

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 そう、深川真二は2着に敗れた。外から一気に叩かれたのだから、仕方ない。一気に締めてきたのは、4カドの峰竜太。かわいい後輩にまくり切られたわけである。池上カメラマンによれば、「明日は俺が締める番だな」と峰に言ったとか。実に男らしい後輩への祝福だし、宣戦布告でもある。

 レースが終わり、ボートリフト前まで戻ってスピードダウンしたとき、後ろから来た深川に、峰は振り返って両手を合わせている。まくっちゃってすみません、であろう。そこで深川は、親指をぐっと立てて見せた。まくられた悔しさもある。だが、佐賀でワンツーを決めたのだ。やったな、竜太。男気である。

 リフトから上がってヘルメットを取ったとき、峰の瞳が濡れていた。あら? 泣いてる? なんで? いや、汗かな。それとも気のせいか。いや、泣いていたのだ、峰竜太はやっぱり。涙が出たのは、まさに深川が男気の親指を立ててみせたときだという。「いろんな思い出が頭に浮かんで、たぶんバレてないと思うけど、嬉し泣きしました」。残念、私にはバレてました(笑)。

 いや~、深川、カッコいいなあ。明日は「4カドだと思います」とハッキリ言った。初日のような伸び寄りの足にするかも、とも。今でもかなりいい伸びだと思うが、さらに強化するかもしれないわけだ。というわけで、71期のインvsカド真っ向勝負。やっぱりワクワクしますよね。

 

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 で、嬉し泣きしたあとの峰は、ウキウキモードだった。まくって1着はやはり気持ちいいもの。しかも峰は、これが久々のSG優出なのである。13年オーシャンカップ以来。約2年ぶりだ。一時はSG優出ラッシュもあったのに、この2年間、SGでは目立てていなかったのだ。テンションが上がって当然である。

 で、13年オーシャンカップといえば、アレです。悔し涙にくれた、アレです。あのときも2号艇だった。峰もその意識はあるだろう。リベンジのチャンスである。悔し涙を嬉し涙にする大チャンスである。準優終わって泣いている場合ではない。明日、本物の嬉し涙を流すのだ。

 

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 最後に、山口剛。全身全霊を込めた地元SG、準優で終戦となった。峰のまくりについていき、上位進出を狙ったが、手前でボートが暴れたようになり、外に流れた。優出への道筋が一瞬見えていただけに、悔やんでも悔やみきれない1マークだ。

 ピットに戻ってきた山口は、完全に表情が固まっていた。エンジン吊りに参加しているのだが、動きが止まっていた瞬間もあった。茫然自失。頭が真っ白とはこのことだろう。

 結局、地元からは辻のみの優出となった。山口も、市川哲也も、前本泰和も、一節を通して素晴らしい気合を見せてくれた。いいものを見たと素直に思うし、戦いぶりに胸を張っていいと僕は真剣に思う。まだ明日1日残ってはいるが、健闘を称えよう。そして明日、辻栄蔵は彼らの思いを背負って戦うのである。そこに何らかのドラマが生まれないはずがない。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)