BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

宮島グラチャン 準優私的回顧

準優の中の準優

 

10R 進入順

①辻 栄蔵(広島)11

②重成一人(香川)10

⑥石川真二(福岡)06

③松井 繁(大阪)04

④吉田拡郎(岡山)07

⑤毒島 誠(群馬)12

 

 

 

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 ふたりの勝負師を見た。王者・松井繁と忍者・辻栄蔵。まずは松井だ。意表の4カド。が、松井本人は「ほぼそうするつもりだった」、と。スタート展示では艇番を主張しつつ、心中では「4カドに引いてまくる」と決めていたのだ。今年の王者はSG準優をメイチの勝負処にしている節がある。尼崎クラシックの準優でも、3コースから火の出るような絞りまくりを見せた(元志に弾き飛ばされたが)。もちろん、真のターゲットは暮れのグランプリのTOP6。ここに食い込むには、賞金がバカ高いSG優出がなければ話にならない。だから、準優は多少のリスクを冒してでも攻める。そう心に決めているのだろう。

 

 

 

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 もちろん、スタートも迷いはなかった。コンマ04。「切っても仕方がない」という覚悟で行った。そして、すぐに締めはじめた。スリットではほぼ同体だったカド受けの石川真二に飛びつかれた。今節の松井のエンジンが伸びるのなら問題はないが、中堅レベル。石川の舳先を振り切れない。それでも松井はゴリゴリとハンドルを入れて、力ずくで石川を蹴散らした。ハンマーで脳天を叩き潰すようなド迫力だった。今年のグランプリ(さらにはグランドスラム)に懸ける王者の思いがどれほどのものか、このハンマーまくりに投影されていた。石川を蹴散らした瞬間、松井の1着はほぼ決した。

 

 

 

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 次は、辻栄蔵。インコースで松井の引き波をモロに食らった辻は、バック直線で5番手まで後退した。万事休すと思える位置だ。が、辻はそこから猛然と追い上げる。追って追って追って、ついに2番手・毒島誠に2艇身差まで接近した。ワンチャンスで逆転できる差ではあるが、相手は今をときめくニュージェネで、さらにその中でもターンの早さで知られる毒島なのだ。

 ちょっと相手が悪いか。

 そう思って観ていた。必死に追い上げる辻。得意の全速マイで交わす毒島。やはり、差は縮まらない。ただ、2周2マークで辻が切り返し気味に攻めたとき、毒島は握りマイではなく差しを選択した。冷静な戦法ではあるが、辻の気迫に押されているようにも見えた。3周1マークの手前、再び辻が内に艇を寄せた。毒島にプレッシャーをかけ続けるには、もっとも有効な戦法だ。毒島はケリを付けるべく、今度は迷わず握った。シャープに決まれば、そこでケリが付いただろう。

 

 

 

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 だが、このターンが大きく漏れる。毒島には珍しいミスターン。辻のジャブのようなプレッシャーが利いたのかも知れない。漏れて流れて膨らんでいる間に、小さく差した辻の舳先が突き刺さった。こうなってしまえば、パワーは断然辻に分がある。ぐいぐい舳先が食い込み、バック中間で並んだ。追って追って追って追って、ついに2着に手が届く位置まで辿り着いた。ただ、相手が毒島、桐生、茅原の場合、これでやっと五分五分程度のポジションなのだ。毒島がすっと腰を持ち上げた。あのターンの準備だ。もちろん、辻もその脅威を痛いほど知っている。最終ターンマークが近づいても、すぐに先マイには行かない。むしろ外の毒島に身を預けるようにもたれかかり、それから鋭角にハンドルを切った。毒島のターンは例によって強烈だったが、辻に煽られた分だけ出口からの加速に勢いがなかった。

 1着・松井、2着・辻。

 

 

 

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「このレースを生で観られただけでも、来て良かったよ~!」

 スタンドにいたオッサンが、上気した顔で言った。まったく同感だ。王者の覚悟と忍者の猛追、そして息を呑むラストチェイス。ピットアウトからゴールまで、ボートレースの魅力が余すところなく盛り込まれていた。まだボートレースを観たことのないすべての人々に観せたい。そう思わせる名勝負だった。

 

ぬか喜び×2

 

11R 進入順

①山崎智也(群馬)12

②今村暢孝(福岡)11

③中島孝平(福井)12

⑥今村 豊(山口)08

④深谷知博(静岡)09

⑤新田雄史(三重)11

 

 

 

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 1マーク、ミスター今村豊の差しが入った、と思った。いや、ターンの出口で確かに舳先がズッポリ食い込んでいた。6-1を買っていた私は、心の中で小躍りした。が、それは束の間のぬか喜びだった。外の智也だけが、伸びる伸びる。半艇身ほど食い込んでいたはずの舳先が1/3艇身、1/4艇身……1周2マークに辿り着く前に、それは抜け落ちていた。

「昨日はイマイチだったけど、今日はキッチリ合わせきれました」

 智也が自画自賛するのも頷ける素晴らしいパワーだった。

 

 

 

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 1-6で決まりか。まあ、優出できて良かったね、ミスター。

 同い年のミスターには特別な情が湧く。2着で善しと気を取り直し、54歳での優出を祝福したのだが……これもまたぬか喜びだった。3艇身ほど後方にいた中島孝平が追うわ追うわ追うわ、10Rの毒島VS辻を生き写しにしたようなチェイスがはじまった。あの手この手で中島が追い上げ、元祖・全速ターンの今村がシャープな旋回で突き放す。2周2マーク、今村が「行かせて差す」という選択をしたところまで10Rと酷似していたし、3周バックで舳先が並んだのも同じ。

 

 

 

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 ただ、最後の結末だけが違っていた。最終ターンマーク、中島の渾身のツケマイがギリギリ決まった。1周バック同様、ミスターの機力がわずかに足りなかった。そう、断じて年齢によるターンスピードの衰えなどではない。今日、ミスターが優出できなかったのは、間違いなくパワー差だ。とすると、「ミスターが抜群に見えた」(予想欄)という私の見立てがすっとこどっこいだったことになるのだが、その通り。もしも私の予想に乗って6-1を買った人がいるなら、とことん私を批難してください。でも、ミスターのことは嫌いにならないでください!!

 1着・智也、2着・中島。

 

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  ふたりの機力は……悪いわけがない。少なくとも、ミスターよりははるかに強いぞ(涙)。それにしても、10Rの松井といい辻といい、このレースの智也といいミスターといい中島といい、ふと気付けば花形スター、千両役者ばかり(毒島も間違いなくそうなる)。SGの中のSG、グラチャン。その準優に相応しい名勝負を、SGレーサーの中のSGレーサーたちが紡ぎあげた。単なる偶然ではあるが、生き残ったのはすべて「賞金王」だった。

 

佐賀藩の御家騒動??

 

12R 進入順

①深川真二(佐賀)11

②篠崎仁志(福岡)13

⑤井口佳典(三重)21

③峰 竜太(佐賀)08

④山口 剛(広島)15

⑥桐生順平(埼玉)16

 

 

 

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 まず、このレースもまた読者の皆さんとひとりの選手に侘びなければならない。予想欄で私は「気のいい峰リューはスリットで覗いても、まくり戦法はほとんど考えられない」などと記した。同郷の大先輩・深川真二がいるから。実に軽率な発想&推理でありました。ごめんなさいっ!!

 

 

 

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 そう、峰竜太はまくった。4カドから。「まったく想定になかった、スタート練習もしてなかった。わからないからテキトーに行きました」で、今日のスリットもコンマ08。これでシリーズ初戦から08、06、07、06、06、04、08……ギネス級のゼロ台行進だ。そして、カド受けの井口佳典がほぼ1艇身遅れのコンマ21。これだけのメリットがあって、まくりに行かない峰リューではない。一気に行った。怖い怖い?深川先輩まで豪快に飲み込んだ。

「絶対に残ってくれると信じながらまくっちゃいました(笑)」

 

 

 

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その判断は正しかった。深川はすぐに態勢を立て直し、桐生順平の猛追を蹴散らして軽々と2着を確定させた。相手はあの順平だと言うのに、前2レースのようなデッドヒートになるどころか、3~4~5艇身と周回ごとに千切り捨てて行ったのである。恐るべし21号機。あっという間に佐賀支部のワンツー態勢ができあがった。

 1着・峰、2着・深川。

 

 

 

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 深川の足は見たとおり、すべてが揃って特に伸びが怪物級の節イチパワー。で、峰もまた前検から噴いていたが、今日はさらに伸びがアップしていた。展示時計も深川と肩を並べたし、強烈な伸びがなければあんなに簡単に深川を飛び越えるはずもない(だから深川も助かったし、逆にギリギリのまくりになるようなら峰はまくり差しを選んだと思う)。1号艇の智也にとって、この伸びーーる佐賀コンビは少なからぬ脅威になるだろう。そして、節イチの深川が4号艇になったことで、優勝戦が俄然スリリングになったな。佐賀コンビの仕掛け次第で、6人全員にそれなりに高い勝機が与えられる番組だと思う。もちろん、一連の流れは智也のSG2連覇に向いているようにしか見えないのだが……。(photos/シギー中尾、text/畠山)