BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――智也、強すぎ!

 

 

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 きっと誰もが力を尽くしたはずだ。結果はどうであれ、勝つための準備を全員がしていた。

 たとえば、辻栄蔵は今日も「ギリペラ」だった。プロペラ調整室に、最後の最後まで残って、ペラと向き合った。もちろん、ペラ室にはほかに選手の姿はない。展示ピットを見れば、5号艇以外はすべて係留されていたのだから、調整をしていた選手が辻以外にいるはずがないのだ。10Rを終えた山口剛が、エンジン吊りの礼を言いにペラ室を訪れる。辻は、ペラの翼面を睨みつけながら、山口の言葉に応える。山口も辻のルーティンはよくわかっている。自分が話しかけても、それをきちんと耳に入れながら、ペラから目を離さないことを知っていて、辻にお礼と最後のエールを送ったのだろう。

 

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 松井繁も、万全の調整をしたようだ。優勝戦メンバーのなかでは足的にやや弱かったかもしれないが、そのなかでできる限りの調整をしたのだ。レース前は爽快な笑顔で軽口を飛ばす場面もあった。間違いなく、あとはレースに集中するだけ、という状態だった。

 

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 試運転をひたすら繰り返していた深川真二も、最後は4カドと腹を据えた。だが、レース間のスタート練習では、4本中1本だけ、100mを切る深い起こしを試している。万が一、前付けに動くことになった場合の準備も怠らなかったのだ。レースが近づくと、もともと男っぽい顔つきの深川は、ぐいぐいと険しい表情になっていった。完全に闘志が宿った表情だ。調整に抜かりなし。そんな表情だった。

 

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 中島孝平だって同じだろう。いきなり推測形になっているが、優勝戦を目前にしても、淡々とした様子だったのだ。もちろん緊張感には包まれていて、大一番前の雰囲気は醸し出されてはいた。それでも、おおよその様子はいつもと変わらないのだから、確実にやることはすべてやったのだと確信できたのである。次のオーシャンカップでもこうなのかな。17年ぶりの地元SGでもこの様子だったら、とてつもないハートの強さの持ち主である。

 

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 峰竜太は、どうやらプロペラにちょっと異常があって、早くから調整をしていたようだ。それでも、慌てた様子はまったくなかったし、9R発売中あたりに見かけたときは実に落ち着いた雰囲気となっていた。11R発売中にボートを展示ピットにつけて、ペラゲージを片付けて運んでいた峰と目が合った。「ベストを尽くします!」。やはり緊張気味ではあったが、笑顔を見せながら峰は言った。つまり、そこまでの準備にはベストを尽くした。あとはレースでベストを尽くすだけだ。実はその言葉にはちょっとした意味があったのだが、とにかく峰もいいかたちで優勝戦を迎えている。

 

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 足的なことを考えても、展開的なことを考えても、全員に勝機が充分ありそうに思えた優勝戦。しかも2~6号艇がしっかりとやれることをやり尽くして臨んだ一戦。それをあっさりと跳ね返した山崎智也は強すぎる!

 レース後のモーター格納作業が一段落ついて、峰をヘルプしていた岡崎恭裕が悔しそうに話しかけてきた。

「ツケマイ、読まれてましたね」

 思わずうなずいて、仕方ないっすと返したのだが、ちょっと想定外の言葉だった。峰は2コースからのツケマイを狙っていたのだ。

「SG初優勝を狙って一か八かの勝負に出るなら、ツケマイだろうなと思ってました」

 レース後の会見で、智也はそう言った。1マーク、峰は智也に寄っていくようなかたちで初動を入れる際に接触しているのだが、あれはツケマイを狙ったものだったのだ。僕は恥ずかしながら、差しが失敗したのだと思い込んでいた。しかし、智也はそれを読み切って、峰の航跡を消した。峰としては完全に行き場をなくし、狙っていたハンドルを入れられなかったわけである。岡崎は峰からその作戦を聞かされていたのか。不発に終わった瞬間、岡崎は溜め息をついたことだろう。もちろん峰もその瞬間に、敗北を自覚したはずである。

 智也、強すぎでしょ! 峰のツケマイが封じられたことで、外だって展開は消える。智也は「SG優勝戦1号艇は楽しい」と言うが、こうした駆け引きや腹の探り合いをも楽しんでいるのだろう。それを極限の緊張感のなかでできるのだから、何よりもハートが強い。そしてもちろん、レースぶりも強い。全員に勝機がありそう……なんて言ってたことが恥ずかしいくらいに智也は完勝劇を見せた。表彰式での「皆さんは美味しいお酒を呑んでください。僕は明日人間ドックなので呑めません」や、ピットに上がった直後、毒島誠にやけに丁寧に頭を下げたことなどのジョークも飛び出して当然だ。

 

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 さあ、次はオーシャンカップで艇界レコードタイのSG3連続優勝を狙ってもらおう。智也も「どんどん書いてください。その気になって頑張るから」と言った(やっぱりハートが強い!)。というわけで、もちろん煽らさえてもらう。17年ぶりSGの三国で、本気で狙え、3連覇! 今の智也には、それを事もなげにやってのけてもおかしくない雰囲気がある。41歳、本厄の山崎智也というのはどうにもピンと来ないのだが、不惑を超えて智也は以前よりもさらに強くなったのだと僕は思う。

 あ、最後に。レース後にもっとも憮然とした表情を見せていたのは松井繁だ。王者には悪いが、痺れた! この悔恨をきっかけにして、王者の進軍が始まると見た!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)