BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――泣くな光ちゃん!

 

 

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 ピットに声があがりまくった。1周1マーク、2周2マーク、3周1マーク、3周2マーク、そしてゴール。それぞれに声の質は違っていたが、見る者誰もが声をあげていた。「ああっ……」「おおおっ!」「うわっ……」「ああっ!」「おーっ!」

 そんな感じか。声をあげさせていたのは今垣光太郎だ。今日の準優は、今垣に尽きると言うしかない。

 今垣と川﨑智幸が並んでゴールを駆け抜けた瞬間、ピットで観戦していた報道陣は「どっち!?」と声をあげている。中島孝平は人差し指を立て、「1? 1?」と聞いている。茅原悠紀は人差し指と中指を立て、「2? 2?」と聞いていた。それぞれの立場を物語る反応だ。

 選手たちがちょうどピット前に戻ってきた頃、写真判定の結果が出た。2着には「2」。ピット内のモニターが、大きくそれを映し出す。今垣は地元ピットの構造を知り尽くしている。ボートの上から、そのモニターに目をやったのだろう。2着に「2」とあがったのをその両目でしっかりと確認した。その瞬間、今垣は両手でカウリングをバンッと叩き、がっくりとうなだれた。ボートリフトに乗っても、視線が上を向くことはない。リフトが上り、中島ら近畿地区の面々がボートを装着場に運び出す。それでも今垣はうつむいたまま。仲間たちがボートを運ぶスピードに追いつけないくらい、今垣の歩みはとぼとぼと遅い。その今垣を、一瞬だけ、松井繁がちらりと見やったように見えた。気のせいかもしれないが……。

 

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 それからの今垣は、正視するのがためらわれるほどに、落胆をあらわにしていた。顔は激しくゆがみ、やはり視線は下を向いたまま。泣きだすのではないかと思われるような、悲嘆にくれた表情だった。少なくとも、報道陣を振り切るようにして控室へと入っていたその背中は泣いていた。

 それからやや時間が経って整備室を覗いたが、今垣の姿はない。ずっと整備室前に張り付いていた池上カメラマンに聞いても、今垣の姿を見ていないという。やはりショックのあまり動けないか。と思ったまさにそのとき、背後から今垣があらわれた。今垣は艇庫にいたのだ。レース後にボートの水滴を丁寧に丁寧にふき取るのは今垣のルーティン。それを欠かしたところを見たことがない。あの敗戦の後でも、今垣はルーティンを崩さなかった。ただし、今日はそこでただ一人、悔しさに浸っていただろう。誰にも邪魔されることなく、誰の存在も意識することなく、この失敗を悔やんでいただろう。今垣は、こちらに気づくと軽く会釈したが、ちょっと声をかけられる雰囲気ではなかった。今垣もそれだけで整備室へと歩を進めた。辛すぎる空気感をまとっていた。

 

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 やがて、11Rの発走時刻となった。ピットにいた報道陣がふたたびモニターの前に集まってくる。今垣は、ピット内の喫煙所に移動していた。室内には今垣ただ一人。今垣は椅子に腰かけて、室内のモニターを見つめていた。

 そのとき、である。ペラ室で調整作業をしていた松井が、喫煙所に入っていった。えっ、松井が!? 松井は煙草を吸わないはずである。少なくとも、喫煙所で見かけたことは一度もない。その松井が喫煙所に入ったのだ。松井は、今垣の隣に腰かけ、笑みを投げかけた。そして、ともにモニターを見つめた。喫煙所には今垣と松井のみになった。二人はそのまま、11Rに見入っていた。

 きっと、多くの言葉をかけ合わなくても、二人はお互いの気持ちを理解しあっていただろう。いや、間違いなく思いは伝わり合っていた。正直に言って、松井と今垣の絡みというのは、ピットではほとんど見かけないものである。それが今日、この時、最大限に濃密な絡みを見せていた。深いツーショットだった。僕はピットのモニターで11Rのゆくえに目を凝らしながら、ちょっと目が潤んでしまっていた。

 

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 さすが今垣光太郎と思わされたのは、12R発売中にはギアケースの調整を始めていたことである。辛い思いを振り切って、あるいは抱えたまま、今垣は明日のための準備に取り掛かったのだ。優出はできなかった。だが、地元SGは明日も続く。残された2つのレースで三国を盛り上げるために、今垣はさらに力を尽くしているのである。

 あれだけのレースを見せられて、誰が今垣光太郎を責めようか。彼の思いは水面に確実に表現されていたし、ピットでの様子もまた同様だった。そして明日もまた、渾身の戦いを繰り広げてくれるだろう。いいものを見せてもらいました。今垣光太郎、あなたは最高だ。あと、王者も。

 

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 とまあ、今垣光太郎のことばかりを書いてしまうわけだが、優出メンバーにももちろん拍手を送るべきだ。

 前田将太、SG初優出おめでとう! 若松周年のトークショーで約束した「オーシャンで結果を出す」の約束を見事に果たしてくれた。優出会見場で僕の姿を見て、爽快に笑ってくれた前田。こっそり腰の高さくらいに右手を出すと、ハイタッチで応えてくれた。あ、ハイタッチではないか。ミドルタッチ!? ともかく、前田は初めてのSGベスト6を素直に喜んでいるようだった。現時点でもっとも登番の若い選手のSG優出! ということは勝てばもちろんSG優勝もそれを更新する。狙え、将太!

 

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 今垣と競り合った、川﨑智幸も素晴らしかった。相手が地元だからって遠慮などしない! これが勝負の粋だろう。「地元の雄を敵に回しちゃったけど(笑)、僕も後がないからね」と会見で言っていたが、いやいや、それこそがボートレースの真髄です!

「光太郎がものすごく残念そうにしているから、その分も僕が頑張らなきゃって気持ちになりますよね(笑)」

 明日、地元の期待を背負うのは川﨑智幸かも! このベテランが優勝戦にスパイスを利かせてくれるのは間違いない。

 

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 菊地孝平は超ハイテンションだった。「ここしばらくを振り返ってみても、久しぶりにいいターンができた。会心のターンです!」。2着とはいえ、自分が納得のいくターン、レースができたことが菊地の心を高ぶらせた。それがSG優出につながったことももちろん、歓喜をより大きくしたことだろう。井口佳典に称えられたときにも、菊地は興奮気味。この気分をもって臨む優勝戦。外枠でももちろん怖い存在だ。

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 優勝戦の3つのピットを占めた大阪勢も、いい雰囲気だ。田中信一郎も太田和美も、後輩の強烈パワーは認めつつも、それを除けば悪くないと、足的には満足していることを表明している。そしてもちろん、簡単に後輩に優勝を譲る気もないだろう。たとえば太田は「もし突き抜けられるなら、5号艇はいいポジション。センターが攻めてくれれば、スピードをつけてまくり差しに入れる」と、後輩にミスがあればという注釈がつきながらも、勝つイメージは描けているようだ。田中も、SG優勝戦だからスタートは早いのを行けないだろうといいながらも、「思い切りいけるかどうか」とも語っている。枠なりなら、後輩のすぐ外に構える存在なだけに、そのための戦略を思い描きつつ、明日は一日を過ごすことになるのだろう。

 

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 そして、石野貴之はもう文句なし! 今日も圧倒的なパワーを見せつけて、優勝戦ポールポジションをゲットした。「負けないスタートを行きたいです」「このエンジンで負けたら選手の責任」「不安はひとつひとつ潰していくので、プレッシャーはない」と、ひとつひとつの言葉が実に力強い。そして、覚悟と強靭さを感じさせるものだ。

 取材を終えてピットを出ようとしたとき、JLCの展望インタビューを待つ石野と顔を合わせた。すでにすべての仕事を終えて、インタビューを終えれば宿舎に帰るのみというタイミング。石野はこちらにすかーっと爽やかな夏空のような笑顔を向けてくれた。そう、戦いが済めば、完全にリラックスしているのである。このメリハリも、精神力の強さのなせる業だと思う。明日のピットではきっとまた凛々しい石野に戻っている。それでも敗れることがあるのがボートレースとはいえ、ここまで死角が見えづらい優勝戦1号艇もそうそうはないのではないか、と思う。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)