BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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三国オーシャン準優 私的回顧

悲鳴

 

10R

①今垣光太郎(福井)11

②川﨑智幸(岡山) 13

③須藤博倫(埼玉) 16

④前田将太(福岡) 13

⑤重成一人(香川) 14

⑥吉田拡郎(岡山) 10

 

 これほど歓声と悲鳴が交互に、何度も湧き上がったレースを私は知らない。17年ぶりのSG。1号艇はオラが国のエース光太郎。今日の三国のスタンドは、この男のために存在していた。

 

 

 

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 まずはスリットで大歓声。ほぼ横並びで、インの今垣光太郎にとって絶好の隊形だ。たまにポカをやらかすことがある男だけに、多くの地元のファンはこの時点で安堵し、今垣の勝利を確信したに違いない。

 が、その大歓声が、10秒後に悲鳴に変わる。今垣がわずかにターンマークを外し、内水域に前田将太と川﨑智幸の舳先が食い込んだのだ。まさかまさかのバック3番手。2マークを回って、将太が力強く抜け出した。それはいい。準優なのだ。2番手を川﨑が取りきり、2艇身差で今垣。2周1マーク、今垣が外から内へ切り返す。昨日まで、我慢に我慢を重ねて封印してきた得意の勝負手を、ここで採用した。二度目の大歓声。それは、祈りにも似た声の渦だった。が、川﨑はすぐにその気配を察知し、握ったまま抱いて交わした。空振り。2艇の差がさらに広がり、スタンドのあちこちから「ああっ!」という溜息と悲鳴が入り混じったような声が漏れた。

 万事休したか……。

 

 

 

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 沈痛な声を聞きつつ、私も今垣の姿だけを追っていた。2周2マーク、3艇身遅れの今垣が次に選んだ戦法は、じっと我慢しての小回りだった。連続の切り返しを警戒していであろう川崎は、やや意表を突かれたかも知れない。落として回った内側に、今垣の小回りターンがグサリ突き刺さった。同時にスタンドの色が一変する。地鳴りのような大歓声。お祭り騒ぎ。多くのファンは舟券を外していたはずだ。今垣のアタマ決め撃ちだったろう。それでも、声を出さずにはいられなかったに違いない。

 今シリーズで、いや、おそらく過去16年の三国ボートの中でブッチギリの大歓声を浴びながら、今垣は3周1マークに向かった。その大歓声が、また10秒後に凄まじい悲鳴に変わる。変わってしまう。外にいた川崎が、わずかな間隙を突いて鋭く内に切り返した。今垣は、その奇襲に気づかず安全に落としてターンしていた。川﨑の艇がものの見事に今垣の艇を捕えた。コツンと小さく艇が当たって、川崎の艇だけが前に進んだ。非の打ち所のない“ダンプ”。同時に、悲鳴、悲鳴、悲鳴……「キャーーー!」という露骨な女性の叫び声も聞こえた。人間がわずか1分ほどの間に、これほどの“喜”と“哀”を断続的に爆発させることって他にあるだろうか。

 

 

 

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 激しい明暗、浮沈を繰り返すスタンドの声は、まだ終わらない。つまり、今垣はまだまだ諦めていない。最終ターンマーク、2艇身後方の今垣は内から外に開いて差した。それは、凄まじいターンだった。大げさでもなんでもなく、17年間の思いがすべて詰まったターンだった。その舳先が、再び川﨑の内をえぐる。最後は悲鳴と歓声がゴッタになってぐっちゃぐちゃに聞こえてきた気がするのだが、そこからゴールまでの記憶はない。私も興奮して何事かを叫んでいたから。

 

 

 

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2着と3着を決する写真判定は、かなり短いものだった。モニターに421の数字が並んだとき、何人かの奇声、驚声、嘆息の声が漏れ聞こえたが、ほとんどの人々は言葉を発することなくじっとモニターを見つめていた。誰もが覚悟していたし、目の前の現実を受け入れようとしているように見えた。今垣光太郎の戦いと地元ファンの悲願は、この瞬間に潰えたのだ。その思いがどれほど長く切実なものであったか……1分49秒間の歓声と悲鳴が、残酷なほど正確に精緻に物語っていた。(photos/シギー中尾、text/畠山)

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