BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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準優ダイジェスト

激差し!

 

9R 並び順

①中里優子(埼玉)06

②平高奈菜(香川)14

③寺田千恵(岡山)13

⑤谷川里江(愛知)19

④三浦永理(静岡)18

⑥西村 歩(大阪)07

 

 

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 レースを作ったのは、浪花のまくり姫・西村だった。アウト6コースからコンマ07まで踏み込み、一気の絞りまくり。中凹みの隊形だっただけに、絞りながらぐんぐん加速して行くように見えた。

 5艇をぜんぶ呑み込むっ???

 そんな勢いではあったが、インの中里もコンマ06。最内からしっかり伸びる姿を見て取った西村は、レバーを放ってまくり差しに構えた。見た目には1-6か6-1という展開である。ところがところが、バックの入り口で力強く抜け出したのは、西村でも中里でもなく2コースから差した平高だった。1ミリのターン漏れもない見事な旋回、そして回ってからの加速も凄まじかった。

 

 

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 今日、平高は何度も何度も水面に出てきたのだが、どこをどう調整していたのか、見るたびに足が強化されている気がした。そして、あの完璧すぎるターンである。天性のターンセンス、「ドリームに乗ることだけを考えて走ってきた」(開会式)という心持ち、直前までパワーアップを目指した執念、それらがギッシリと詰め込まれた美しい2コース差しだった。

 

 

 

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 2着・中里の足も文句の付けようがないだろう。1マークは西村のまくりを牽制するため、ターンマークを外しながら握って回った。そのロスがなければ、平高と舳先を並べる一騎打ちになっていたと思う(そのマッチアップも見たかったなぁ)。2周1マーク、西村を一撃のツケマイで沈めた足も「さすが46号機」と唸らせるものだった。明日は5号艇、6コースもありえる苦しい立場になったが、パワー的には展開一本(または自力)でファンをあっと驚かせるシーンもありえると思う。

 

盤上、この一手

 

10R

①松本晶恵(群馬) 08

②細川裕子(愛知) 07

③大瀧明日香(愛知)02

④川野芽唯(福岡) 05

⑤日高逸子(福岡) 08

⑥山下友貴(静岡) 06

 

 

 

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 大瀧明日香って、こんなド根性のある選手だったのか。私はいささか驚きながら、バックで先頭に踊り出た大瀧を見ていた。スリットは電撃のコンマ02(後で知ったことだが)、ほとんど隙間がなかった松本と細川の間に舳先を捩じ込んだまくり差し……おそらく、大瀧は2コースの細川しか見えていなかったはずだ。細川の伸び返しが強烈で、ほぼ舳先が並んでいたから。イン松本のポジションが見えないまま、とりあえず細川を全速のツケマイで沈めに行った。同県の後輩を。

 

 

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 その激辛の強襲が決まったのと、松本のポジションに気付いたのは、ほぼ同時だったろう。松本は細川の真横にいた。勢い、艇が接触して松本の艇はほぼ真横にぶっ飛んだ。そして、大瀧の舳先だけが力強く前に突き進んだ。人並み外れた勝負根性がなければ、あんなまくり差しは打てない。そして、大瀧が先頭に突き抜けるには、この強襲しかなかった。2番差しでも、上をぶん回しても、松本-細川の超抜ラインには届かなかったと私は断言する。大瀧もその彼我の差を痛感していたからこそ、スタートを張り込み、心を鬼にしてもっとも過激な戦法を選んだのだ、きっと。

 

 

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 視点を変えよう。どれほど細川と松本の足が超抜だったか。それは、わずか十数秒後の2マークで証明される。4番手の細川と5番手の松本がくるり回ると、それだけで2、3番手に浮上した。特に細川のパワー旋回は、昨日のそれと酷似していた。回った瞬間に山下、川野の内に舳先が届き、並び、抜き去っていた。松本も、同じような足色で3番手を完全に獲りきった。ふたりとも、1マークで致命的なダメージを食ったというのに……。うん、やはり思う。大瀧があの強襲以外の戦法を選んでいたら、ふたりだけが別次元のパワーで大瀧以下をぶっちぎっていた、と思う。

 さてさて、「盤上この一手」という勝負手を成功させた大瀧には、明日の1号艇という最高の“報酬”が与えられた。近代ボートレースにおいて、1号艇の利はとてつもなくでかい。が、私は「大瀧=優勝の最有力候補」とは呼ばない。今日の段階では、それに値するパワーだとは思っていないから。4号艇・細川の機力を考えれば、ちょうどいいハンデというか、勝機は五分五分だとお伝えしておく。

 

恐るべき女傑

 

11R 並び順

①香川素子(滋賀) 11

②山川美由紀(香川)09

③平山智加(香川) 11

④滝川真由子(長崎)10

⑥竹井奈美(福岡) 14

⑤魚谷香織(福岡) 14

 

 

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 勝負根性と言えば、この女傑の代名詞だろう。山川美由紀。今日もやっぱり凄かった。まずは、スリットほぼ同体からのジカまくり。予選トップ香川を力任せに叩き潰しに行った。一応、予想欄でも「握るのでは」と記していたが、いざ眼前に現れたその光景は、脳内レースよりもはるかに激烈だった。獲物に喰らい付く猛禽のような……。

 もちろん、これは香川コンビの「あたしが握るから、あんたは差し。で、ワンツーフィニッシュ」みたいなライン作戦ではない。そんな甘っちょろいコンビではない。平山もまた、握る気満々だった。握ろうとして山川の強攻に気づき、差しに切り替えた。そう見えた。逆に、4コース滝川の2番差しに迷いはなかった。その初動の差が、ターン出口での加速度の差だった。滝川だけが2艇身、スーーッと突き抜けた。この時点で、ほぼ決まり手は「差し」になるはずなのだが、実際の決まり手は「抜き」だった。なぜか。

 

 

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 2マーク、先マイ必至の態勢だった滝川の内フトコロに、平山・山川が舳先を揃えて突っ込んだのである。2艇同時の切り返し。あまり見慣れない光景ということもあったが、このW突っ込みのド迫力は私を戦慄させた。もちろん、これもライン作戦なんかではない。ふたりとも、「自分が勝つにはこの切返ししかない!」と同時に考え、同時に行動したのだ(断定)。この凄まじいツープラトン攻撃は、さぞや滝川を驚かせたことだろう。よく冷静に差し抜けたものだ。Wで切り返した地元コンビは、それがやや競りのような形になって大きく流れた。滝川の「抜き」での勝利がほぼ約束された。そして、先に態勢を立て直した平山がこれに続き、山川は3艇身ほども引き離された。

 

 

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 が、これで話は終わらない。「智加ちゃんが2着でとりあえず良かった」などと思う山川美由紀ではないのだ。2周1マーク、凄まじい全速差しで平山の内に舳先を捩じ込む。そしてぐいぐい平山を内から煽って、大逆転の2着をもぎ取った。何と言うド根性。断言してもいいが、今日のこの逆転劇はパワーの差ではなく、ド根性の差だった。どっちの根性、執念も凄まじかったが、何十年も女子界の頂点に君臨し続けた山川に1日の長があった。平山は心の中で悔し涙を流しつつ、またひとつ大きなものを学んだに違いない。こうして平山はさらに強くなっていくのである。

 明日は6号艇の山川。「インまで奪うかも」というコメントもあったそうだが、明日こそが持ち前のド根性を発揮する真の舞台だ。パワーはやや劣勢だと思うのだが、名人世代に到達した女傑が何をやらかしてくれるのか、脳内レースの段階からたっぷりと楽しみたい。(photos/シギー中尾、text/畠山)