BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――ガッチガチやぞ~

 

 

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 11R、整備室にはモニターでレース観戦する選手が10数名。その最前列に陣取っていたのは、峰竜太だ。10Rを逃げ切って、報道陣から「柳沢一が2着以上なら、峰が予選トップ」という情報を仕入れていた。相手の失敗を待つというわけではないだろうが、それを念頭に置いてのレース観戦である。

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 1マーク、柳沢は6コースから最内を差した。バックでは4~5番手争いだったが、前との差はそれほどなく、先マイも可能という位置取りだった。2マーク。しかし柳沢は展開を捉え切れず、後退する。その瞬間、やはり最前列でモニターを見上げていた原田幸哉が、苦笑いとともに「あぁぁぁ~~~……」と声を漏らし、上半身を反り返らせた。2周目ホームで、隊形は完全に①-②態勢。柳沢浮上の目はかなり厳しそうだ。

 それを峰も確認したか、表情がみるみるカタくなっていった。こういっては失礼だが、面白いくらいにわかりやすく、硬直していったのだ。隣で瓜生正義がにこやかに何か話している。瓜生はおそらく状況を把握していなかった。峰、やったな的な祝福ではなく、単にレースの感想か何かを峰に話しかけているふうだった。峰は、心ここにあらず、みたいな雰囲気で言葉を返す。顔つきは変わらずカタいまま。

 

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 柳沢は5着でのゴールで、峰竜太の予選トップ確定! エンジン吊りに向かう峰に、やったね!の意味を込めて、人差し指1本立てて見せる。峰は小さくぴょこんとうなずく。

「はい、なんとか」

 ん? どうしたどうした、その小声は。

「あと2回逃げるだけです」

 だからどうした、峰竜太! そのありきたりな言葉は! 会心のレースを見せれば、はしゃいで、ニッコニコで、時に軽口をたたくこともある峰竜太が、カタい表情のまま、やはり心ここにあらずみたいな受け答えをした。

 まあ、予想してましたけどね(笑)。レース観戦中の表情を見たときから、こうなるんだろうな、とは思ってました。これが峰竜太だ!

 言っておくが、このガッチガチやぞ~状態を、僕はまったくネガティブに捉えていない。

「いいレースをするために、緊張は必要なんです」

 かつて峰はそう言い切った。自分が緊張しやすい性格であることを認め、そこから逃げず、自分が好成績のときほど緊張が大きかったと分析し、緊張したほうが好レースができると達観して、峰自身が緊張することをポジティブに考えているのである。だから、峰竜太はメンタルが弱いと言われることもあるが、僕は逆だと思う。緊張しやすいのは間違いないが、それに呑まれたりする男ではないのだ。まあ、時にポカがあるのも確かですが(笑)。

 というわけで、僕は峰竜太が悲願達成モードに入ったと見る。明日もきっと緊張しているだろうが、それでいい。これまで経験のなかったほどの緊張にまみれて、残り2日を過ごせ!

 

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 一方、篠崎元志は実にハイテンションだ。11R3着で、準優1号艇をゲットしたことは理解していたと思われる。また、この3着が、前方で起きた接触の間隙を追い抜いて得たものであり、そのラッキーぶりも篠崎の気分を高揚させたか。着替えを終えて、装着場にあらわれた瞬間、両手の親指をピンと立ててニッカリ。ついてるねノッてるね、って感じ?

 今節の篠崎は、とにかく前向きなパワーを感じさせている。足がいいということが気分を良くさせてもいるだろうし、それもあって「今節はチャンスである」ということを自覚しているようにも見える。だから勝負に出ようという意気込みも感じるし、今日の外枠2走も気負いすぎることなく、しかしスキあらば1着まで奪おうという意欲も伝わってくる。その意味で、メンタル節イチは篠崎元志ではないか、と思っている。

 明日の準優、10Rと11Rが順当に逃げ切り決着なら、優勝戦は盟友同士の真っ向勝負となる。ガチガチ竜太とノリノリ元志、どちらに軍配が上がるのか。これは楽しみだぞ!

 

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 予選前半をリードした下條雄太郎は、結局5位通過で、準優は2号艇だ。大敗があるわけではなく、着はしっかりとまとめたが、4勝の峰や3勝の市橋卓士に得点率では先んじられた。逆に言えば、その安定感は準優でもかなり怖いわけだが。

 その下條、今節は毎日、終盤の時間帯に「ピット内の鉄くず拾い」を日課としている。マグネットを持ってピット内をくまなく歩き、鉄くずを見つければマグネットで拾いあげる、という、清掃作業だ。これ、当然、新兵の仕事である。だから、下條のパートナーは遠藤エミ。二人で分担して、ピット内をうろついているのだ。

 今節、下條の登番は下から5番目。まあ、新兵の枠に入るのかもしれない。しかし、つまり登番が自分より若い選手が遠藤含め4名いるわけで、下條が率先してやる必要があるかといえば微妙なところ。だから今日は、茅原悠紀が下條に歩み寄って、マグネットを奪おうとしていた。茅原としては、当然の動きだっただろう。

 ところが、下條、頑としてマグネットを渡さない。茅原は会話を交わしながら、下條の手のあたりをまさぐってマグネットをゲットしようとしているのだが、下條はやはり会話を交わしながら、さりげなく自分の手を茅原の手から離して、守り通そうとしているのだ。

 明日も下條がこの作業をしている姿を見かけるかもしれないが、明後日はどうだろう? 準優を突破すれば、明後日は12Rを走ることになるからだ。もし明日もその姿を見かけたら、見納めとして目に焼け付けておこう(笑)。

 

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 最後に、森高一真の憮然たる表情もやんわりと記しておきたい。12R発売中に競技本部に呼び出すアナウンスがあって、その後、モーター格納にあらわれた森高に「セーフでしょ?」と投げかけると、「とられたわ」と一言。思わず大声をあげてしまったこちらに、森高は「しゃーないわ」とだけ口にして、整備室へと消えていった。

 森高は、こんなときにああだこうだと言葉を並べる男ではない。言い訳をすることもない。だが、森高の口調には、いつもと違うものがあると僕は感じた。不良航法による減点で予選落ち。それは本当にしゃーないのか。勝負駆けを(すなわち選手の思いを)否定するようなルールは、ボートレースの醍醐味を確実に減退させると思うのだが、どうだろう?

 ちなみに、森高はレース後すぐに辻栄蔵に頭を下げて、辻も気にするそぶりもなく、手をあげて応えている。禍根はまったく残っていないのだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)