BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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蒲郡メモリアル 優勝戦私的回顧

泣くな、竜太。

 

12R優勝戦

①峰 竜太(佐賀) 05

②篠崎元志(福岡) 06

③市橋卓士(徳島) 11

④下條雄太郎(長崎)08

⑤中島孝平(福井) 08

⑥坪井康晴(静岡) 07

 

 

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 書きたいことと、書きたくないことがある。書きたいことは、2人の若者のデッドヒート。素晴らしい名勝負だった。スリットは、5艇がゼロ台でほぼ横一線。やや凹んだ市橋も自慢の行き足で伸び返し、6艇の舳先が並ぶ。そこから、峰と元志の艇だけが力強く前に出た。「全速でした」と元志が言うから、峰も全速だったろう。

 

 

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 1マーク、「元志が差すか握るか、それでレースの質が決まる」と見ていたのだが、元志の選択は差しだった。こうなると、外4艇の出番はない。峰が3晩連続の豪快なインモンキーでぶん回す。ただ、気持ちが入りすぎたか、そのターンは昨日までよりわずかに漏れた。すかさず、元志の差しが襲い掛かる。舳先が入った。今節の峰の自慢は「ターンの出口の足」だから、ここで舳先を突っ込まれてしまうと、直線勝負では振りほどけない。三国オーシャンカップの石野33号機とは、この部分が違う。バック直線、元志が圧倒的に有利な立場になった。

 

 

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 が、凄まじかったのが2マークだ。先頭の元志は、後方から切り返してきた中島を警戒し、握って回った。一方の峰は、外に開いてから中島を目標にし、これにツケマイを浴びせる形のまくり差しを放った。単純な差しより、誰かを目標にしたまくり差しは艇に活を入れる。そして、それを完璧にできるレーサーは限られている。そのひとりが峰竜太だ。恐るべき勢いで、一気に元志を追い抜いた。あっという間に2艇身差。一世一代のV差し!! だったはずだし、私もここにそう書きたかった。

 

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 だがしかし、まだ決着は付いていなかったのだ。2周1マーク、勝利をほぼ確信したであろう峰は、ターンマークを外さない旋回をした。ターン漏れした1周前のそれが脳裏をよぎったかもしれない。角度的には申し分のない旋回ではあったが、スピードがやや乏しかった。いつもの豪快なモンキーではなかった。そこに、元志の渾身の全速差しが突き刺さった。これこそが、一世一代のV差しだった。逆転、逆転、また逆転。95期と96期のこの天才レーサーふたりが描いた激しくも美しい航跡は、後世に語り継がれるだろう。そして、近い将来のグランプリファイナルでも、この再戦を見られることだろう。

 2周2マーク、峰は必死に追いすがったが、もはや再々々逆転するだけの余力はなかった。徐々に徐々に、2艇の艇間は開いていく。書きたくないのは、ここから先の敗者の姿だ。

 

 

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「泣くんじゃねーぞ、竜太のバカヤローー!!」

 レース直後、東京から蒲郡に旅打ちに来た友人の敬ちゃんが、大声で叫んだ。

「これからまた泣くんだろ、ビービー泣いちまうんだろ、だから駄目なんだって、泣くからSGを勝てねーんだよ、男と男の勝負だろ、男が真剣勝負で負けて泣いてちゃいけねーんだ、そんなんじゃ次もその次も勝てねーんだ、泣くんじゃねえっての!」

 敬ちゃんは吼え続けた。おいおい、やめなさい、口が悪すぎるぞ。そう諭しつつ、敬ちゃんの言葉を反芻する。

 泣くな、竜太、か。

 勝って豪快に笑い、負けて号泣する人間臭い峰竜太が私は大好きだ。「涙の数だけ強くなる」という言葉も好きだ。が、確かに真の勝負師としては、それではいけないのかも知れない。悔しさ悲しさ情けなさを涙で洗い流すことなく、己の胸に秘める。全身に嫌というほど染み込ませる。そうして、ぐっと目を見開いて前だけを見る。それが、今の峰に必要なことなのかも知れない。そう思った。

 峰竜太よ、今日の“屈辱”を忘れずに、明日からのリベンジだけに心血を注いでほしい。そして、それを果たしたときに、溜めに溜めた涙を垂れ流してほしい。負けて泣かずに、勝って泣け。(photos/シギー中尾、text/畠山)