BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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尼崎ヤンダビTOPICS 4日目

THE勝負駆け①予選トップ争い

まさか……

 

 

 

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 これは、かつて観てきたすべての勝負駆けの中で、もっともありえない番狂わせだったかもしれない。昨日の段階で、茅原悠紀は準優当確だった。ボーダー当確どころか、勝率9・50の断然トップでこのまま優勝まで突っ走る勢いだった。それが、まさか……。

 暗雲がたちこめたのは前半の6Rだった。1マークで後手を踏んだ茅原は、それでも持ち前の旋回力でバック6番手から3番手まで押し上げた。このまま3着フィニッシュなら、一時的に岡崎恭裕(5R1着)にトップの座を譲るものの、再逆転の可能性は大いにあった。ところが、3周1マークをシャープに回った直後、いきなり茅原のボートが横転した。何があったのか、まったくわからない。選手責任転覆でマイナス5点。この時点で、とりあえず茅原のトップの可能性は消えた。私は目の前でスッ転んだ茅原の艇を呆然と眺めていたが、このアクシデントはまだ序の口に過ぎなかった(つづきは後述)。

 

 

 

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 ライバル茅原の脱落で、圧倒的に有利な立場になったのが岡崎だ。9Rで岡崎が2着を獲りきれば、その時点でトップ確定。この欄の記事も、岡崎の奮闘を讃えるだけでよかった。だが、その岡崎がスタートで後手を踏み5着大敗。トップ確定どころか、絶体絶命のピンチに立たされた。とりあえず、11R1号艇の西山貴浩が逃げきれば、それでトップの目は消滅する。

 

 

 

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 さあ、こうなってしまえば11Rのニッシーニャが燃えないわけがない。勝てば岡崎を超えて準優1号艇が確定する。ただし、勝利=トップ確定でもなかった。たとえ勝っても、

「12Rの6号艇・松田祐季が2着以内か5号艇・松田大志郎が1着ならアウト」という状況だ。まあ、他力の相手待ちであっても、西山にできることはひとつしかない。西山はその唯一のミッションを鮮やかに完遂した。影も踏ませぬイン逃げ。岡崎を超えて、12Rの成り行き次第で1~3位という身の上になった。

 その雌雄を決する12Rについては、ボーダー争いにも絡むので後に書かせてもらう。

 

THE勝負駆け②準優ボーダー争い

不動の6・00

 

 

 

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 一方、ボーダー争いは比較的穏やかだった。11R終了時点までは。昨日のボーダー圏外から高野哲史、平高奈菜、海野康志郎の3人が浮上し、塩田北斗、青木玄太、後藤翔之の3人が陥落した。ボーダーは昨日から6・00のまま動かない。10Rで篠崎仁志が逃げて初白星を挙げたが、次点の5・67。わずか1ランク差だが、12Rの勝負駆け状況を考えればかなり厳しい1ランク差に思えた。だが、その12Rで……

 

THE勝負駆け③トップ&ボーダー争い

魔の最終レース

 

 今日の尼崎の12Rの水面下には、魔物が潜んでいたとしか思えない。まずは、6人の勝負駆け状況を記しておこう。

 

12R

①秦 英悟…ボーダー当確

②黒井達矢…③着確定

③茅原悠紀…⑤着確定

④前田将太…①着で黒井が④着以下か茅原⑥着で当確

⑤松田大志郎…①着で祐季が③着以下ならトップ。祐季②着ならタイム差。

⑥松田祐季…①着でトップ確定。②着で大志郎①だった場合はタイム差。

 

 

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 前田は仁志同様1着でも厳しい条件ではあったが、予選突破の可能性を残していた。一縷の可能性に賭けてしたであろうその前田が、あろうことか展示航走の2マークでブイに接触。舳先を大きく天に突き上げてから、ザブンとひっくり返った。信じられない、展示段階での欠場。このアクシデントで黒井と茅原の勝負駆けが緩和され、茅原は“無事故完走”、黒井は④着で当確となった。5艇立ての4着だから、最下位にならなければOKだ(最下位なら仁志と入れ替わり)。

 

 

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 一方のトップ争いは、結果待ちの西山&W松田の三つ巴。で、このW松田の直接対決は双方に自力トップの目があった。祐季は1着で文句なし、大志郎は祐季の持ちタイムを超える時計で勝てばトップに立てる。もちろん、私の視線はこの混戦のトップ争いに集中していた。西山か、祐季か、大志郎か。5艇立てになったことは、もちろんW松田にとって大きなメリットだ。

 あの信じられない将太の転覆は、今節のV争いに大きく影響するかもしれないぞ。

 なんて思いながら、5艇立てのファンファーレを聴いていた。そして、1マークを回った直後に、またしても信じられない出来事が起こる。先頭に立つ勢いだったのは、トップ争いともボーダー争いとも無縁になった茅原だ。艇団を切り裂くようなまくり差しで、グイッと前に突き進んだ。そのまま突き抜けるか、と思った瞬間、左横にいた黒井の艇と接触した。もんどりうって黒井の艇が反転する。茅原の艇もぐらりよろけた。前半の茅原の転覆同様、何がどうなったのかはよくわからない。わからないが、黒井はこの転覆でボーダー圏外へと散り、代わって仁志が18位に浮上した。

 

 

 

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 バック直線は、秦のひとり旅。問題は2着争いだが、事故の間隙を突いて松田祐季ががっちりと番手をキープした。3番手も大きく離れて大志郎。この瞬間、祐季のトップが確定したと言いだろう。縦長になった2マーク、秦、祐季、大志郎の順に回った直後、真っ赤な物体が矢のように飛んできた。態勢を立て直した茅原だ。あれもまた、ありえない出来事というか、ありえないターンスピードではあったな。

 

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 サプライズは、まだ終わらない。レース後、茅原はあの接触の罪を問われて不良航法-7点の減点を喰らった。これまたわからない。茅原は峻烈なまくり差しを決めてから、直進していたように見えた。内に締めたようには見えなかった。まあ、あの接触の原因がよくわからないのだから、この裁決の正否がわかるはずもないのだが。

 とにかく、前半5点+後半7点=12点のWパンチを食って、茅原はボーダー圏外へと吹き飛ばされ、代わって本多宏和が準優のチケットを手にした。本多本人もビックリしたことだろう。私もいまだに信じられない。やはり、水中に魔物がいたのか。本当に魔物がいたとして、そいつは前田や茅原、黒井らを貶めつつ何を画策しているのか。茅原の減点を知った後、混乱した頭の中で具にもつかないことを考えた。いくつかの「たられば」が浮沈した。

 前田が普通に展示を回って6艇立てだったら、誰が予選トップだったのか。

 茅原があのまま先頭に突き抜けていたら、誰が2着で誰が予選トップだったのか。

 茅原が不良航法をとられなければ、今後の優勝争いはどうなったか。

 このありえない魔の12Rが、今後のV戦線にもたらす影響は計り知れないほどでかいと思う。魔物はいまも眼前の暗い水中に潜み、ケタケタと嗤っているような気がしてならない。(photos/シギー中尾、text/畠山)