鷲掴みV
12R優勝戦
①松田祐季(福井)11
②西山貴浩(福岡)14
③岡崎恭裕(福岡)14
④渡邉和将(岡山)21
⑤篠崎元志(福岡)32
⑥宮地元輝(佐賀)13
激しい西陽が照りつける尼崎の水面で、インの松田祐季が鮮やかに逃げきった。昨日はコンマ10、今日はコンマ11でしかも全速。賞典レースの1号艇として完璧なスタートを切ったわけだ。敗者の中で、いちばん強く唇を噛み締めたのは岡崎だと思う。昨日まで平均コンマ08(ほとんど全速だろう)、自慢の行き足もフル稼働してスリットを支配し続けた。今日も、起こしからフルッ被りで握ったらコンマ04あたりで突き抜けていっただろう。内の西山が早起こしから極端に放ったのを感じて、身の危険を感じたか。西陽のハレーションで、大時計がやたらと見にくかったためか。端から見ていても、岡崎がスリットの50mほど手前でシュンと失速するのがわかった。本人にとって、まったくの想定外であったろう二番差し。「岡崎がコンマ05全速でまくりに行く」と予想していた私にも、それは想定外だった。今日のレースに限っていえば、この明暗がそのまま勝負の分かれ目だったと思う。コンマ11全速と、コンマ14アジャスト。今日のレースに短評を記すなら「祐季のスタート勝ち」ということになる。
で、こうして祐季の完璧なイン逃げ2連発を見届けて、いまさらながらに浮沈する光景がある。おとといの12R。あのとき、6号艇の祐季は「2着で予選トップ」という状況だった。かなり厳しいハードルか、と思っていたら、展示航走で前田将太が転覆して5艇立てになった。さらに1マークの出口で、鮮やかにまくり差した茅原悠紀と小回りで差した黒井達矢が接触。黒井は転覆し、茅原は大きく外によろけた。この不慮のアクシデントで、見た目には4、5番手だった祐季が2着に浮上した。予選トップ確定。
さらにさらに、レース後に茅原がかなり不透明な不良航法の裁定で準優の座を失った。予選前半の走りから「断然の優勝候補」と目されていた賞金王レーサーが戦線離脱したのだ。
私はこれらを「魔物の仕業」などと書いたが、勝負ごとに明暗を分ける流れは付き物だ。一連の流れは、すべて予選トップに立った祐季を後押ししているように思えた。同時に、そう結論付けるのは早計だ、とも。
ありえない出来事が重なって予選トップに立ったとしても、GI優勝経験のないレーサーが準優&優勝戦を2連続で逃げきるのは簡単ではない。
そう考えたからだ。あの夜、そんなこんなを黒須田と話しつつ、具にもつかない結論でお開きにしたのだった。
「誰のための流れか、優勝戦が終わればわかるさ。結局は優勝する選手が、いちばん強運なんだから」
そしてそれは、そのまま松田祐季だった。
「予選トップに立てるとは全然思ってなかったんで、めちゃめちゃ流れが来てると思いました」
優勝戦の後、こう言って祐季は少し照れくさそうに笑った。確かに、終わってみれば、すべての流れは祐季のためにあったことになる。が、もちろん「魔物に愛された男」なんて書くつもりはないぞ。夕陽の乱反射でほとんど大時計の針が見えない中での、コンマ11全速。千載一遇のチャンスを鷲掴みにし、勝つべくして勝った文句なしの自力優勝だった。おめでとう、そして節間を通じて強かったね、祐季!(photos/シギー中尾、text/畠山)