BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――初制覇の感動か、強すぎる大阪か

 

 

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 さあ、その時がやって来た。隣でそわそわしている畠山のレポートをしたい気分だが、そうもいかないので、そわそわさせている男のことを書くとしよう。

 守田俊介、SG優勝戦のポールポジションにすわる。

 12Rの展示を終えて戻ってきた守田と目が合ったとき、正直少し心配になった。緊張してるんじゃない? そりゃまあ緊張していて当たり前の局面だが、なにしろ感情が表にあらわれづらい男である。今日一日、あんまり普段と変わらんなあ、飄々としてるなあ、と彼を見ていたのである。展示を終えてもそのたたずまいは変わらないが、しかし目が合って僕に会釈をしてきた姿が、妙にそわそわして見えた。今まさに隣で畠山がそうしているように。

 もちろん、それが結果に影響を及ぼすということにはならない。実際、しっかり逃げ切った。ただ、やっぱり表にあらわれづらいかもしれないけど、しっかり重圧は感じているんだなあ、と僕は勝手に想像する次第だ。実は昨日、予選トップ通過が決まってメディアに囲まれたとき、俊介は五郎丸ポーズを披露している。ピットでの敬礼のあと、それをやりたいというのだ。だが、カメラマンがそれを撮影すると、掲載しないでと懇願した。その流れから、準優後にカメラマンが五郎丸ポーズをリクエストすると、やはり拒否。すなわち「勝てばいいけど、負けたら何を言われるかわからん。そんなことしてるから負けるんやって」。それこそ今までのSGでもっともいい足で、優勝戦1号艇の人が、そこまで負けることを想定するだろうか。やっぱり緊張してるんだなあ、と僕は思う。

 きもりやんが、SGレーサーらしくヒリヒリの緊張感のなかでピットインし、全力で戦う。ブログやらフェイスブックやらでコミカルな姿を見せてばかりの守田俊介が、真の姿=天才肌のトップレーサーを見せてくれるであろう明日を、おおいに堪能しようではないか。僕は畠山のそわそわもプププと笑いながら楽しもう。畠山が泣いたら、そのことは必ずレポートします(笑)。

 

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 というわけで、おそらく守田も実は気合は入っているはずだが、それを上回ってパンパンなのは、原田篤志だ。会見での一言は痺れたね。

「明日は原田篤志を全国にしっかり売りたい」

 一般戦を主戦場としてきた原田は、常に上を見ながら、実力を蓄えてきた。プロとなった以上は日の当たる場所で戦いたいと願いながら、しかしその機会にめぐまれてきたわけではなかった。今回、自力でダービー出場の権利をもぎ取った。幸運にもエース機を引いた。それが、積み上げてきた原田篤志を全開にさせた。そこに充実感を覚えるのは、当然のことだ。

 朝のピットで書いたとおり、レース前の原田は闘志あふれていた。そして、準優を突破したあとも、それは変わらない。それがストレートに伝わってくるあたりは守田との違いということになるが、明日もたぶん、好対照な守田と原田が見られることだろう。優勝戦のエンジン2強と言っていい二人が、優勝戦を味わい深くさせてくれるのは間違いない。

 

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 大阪支部から3人が優出を果たした。惜しかったのは田中信一郎で、1マークでしっかり差しながら、石野貴之との競り合いの間に山田雄太に差されてしまった。5日目のレース後というのはボート洗浄が行なわれるのが通例(場によって例外あり)。選手が協力し合ってボートの汚れを落とす。その間じゅう、田中はシールドを下ろしたままのヘルメットを脱がなかった。その奥の表情は想像するしかないのだが、ひたすら悔しい3着だったのは間違いないだろう。

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 勝ち抜いたのは、松井繁、太田和美、石野貴之。グランプリへの勝負がかかる時期にきっちり勝ち上がってくる王者はさすがと言うしかないし、太田の高すぎるレベルでの安定感にはひれ伏すしかないし、ここ一番での石野の勝負強さにも敬服する。レース直後は、松井は微笑を浮かべ、太田は淡々とし、石野はニコニコしていた。11Rのワンツーである松井と太田は、やや窮屈となった1マークの局面を冷静に乗り切っての優出で、勝った松井は笑い、敗れた太田はひとまず優出に安堵するといった感じか。石野は1マーク攻め、2マークは田中をしりぞけ、激戦の末の優出に、2着とはいえ喜びがあったか。

 これは田中も含めてだが、やっぱり大阪の強さは並大抵ではないな。今年はグランプリが住之江に帰る。その意味合いを意識せざるをえない、大阪の分厚さ、である。

 

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 一方、地元静岡勢は、4人の準優進出者のうち、3人が敗退してしまった。

 菊地孝平の勝負駆けは素晴らしかった。持ち味のスタート攻勢で攻める、というシーンに、菊地がこの準優に懸けた思いを誰もが強く感じたことだろう。残念ながら機力劣勢は覆せず、伸び返されて万事休すだったが、その思いが伝わるレースぶりは尊いと思う。レース後は、悔しさを押し隠すように戦った選手に言葉をかけていた菊地。吉川元浩が背中をポンポンと叩くシーンもあった。ちょっとせつない光景ではあった。

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 笠原亮と坪井康晴は、12Rのバックで2番手を争った。どちらかが優出、ではなく、俺が優出というレーサーの本能を感じずにはいられないシーンだった。2マークでは原田のパワーのすさまじさを改めて痛感することになるわけだが、その後もあきらめずに笠原も坪井も追った。ともに優出を逃したことは残念だが、やはり気持ちの伝わるレースに拍手を送りたい。

 レース後、坪井はすぐに競技本部に呼ばれているが、笠原は逆に最も長くボート洗浄に関わった。それを終えて、他の5名より遅れて控室に戻る際の笠原は、誰をも寄せ付けるつもりがないかのように、超早足。その顔は真っ赤に染まり、そしてひきつっていた。勝って喜び、負けて悔しがる。ピュアに感情をあらわすのが笠原という男。そんな笠原とは今日は違った。この敗戦には特別な思いがあったとしか思えない。

 

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 SGウイナー3名が敗れて、地元の期待を一身に背負うことになったのが、SG初出場の山田雄太! 原田ともども、今節最大のシンデレラボーイだ。原田同様、一般戦主体のなかで、ここまで辿り着いた。なにしろ静岡支部はSGウイナー多数、層が非常に厚いので、なかなか記念斡旋は回ってこない。そんななかで自力で地元SGの切符を得て、ついに優勝戦にまで駒を進めた。それだけで、称えられて然るべきだ。

 しかも山田は、SG初出場にあってもおかしくない位負けとか物怖じとかを少しも感じさせない。「地元なので、いつも通り緊張もほとんどせずにレースできた」と言い切るあたり、気持ちの強さも感じさせる。唯一、会見で「最後に一言」と振られて、決意を語った後「応援よろしくお願いします」と言ったあたりに初々しさがあった。JLCとか公開とかでのインタビューでよくある「ファンに一言」っぽいでしょ(笑)。まあ、こんなのはご愛嬌である。

 明日はさらに、先輩たちが心強く背中を押してくれるだろう。今日よりは緊張するだろうが、それが山田の手足を縛るものにはならないと思う。

 あ、そうか。強すぎる大阪軍団vsSG初優勝を狙う新勢力(守田にはふさわしくない言葉だろうけど)という構図の優勝戦ですね。大阪が「やっぱり強ぇなぁ」と唸らせるのか、他の3人が水神祭の感動を与えてくれるのか。実に興味深い優勝戦になったぞ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)