BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――“いつも通り”

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171220123327j:plain

 レース前、たぶんもっとも“いつも通り”だったのは、守田俊介だったと思う。

 8R発売中頃には、太田和美の自然体に震えたのだ。この大舞台でも、己を見失わず、大きくも見せず、普段の太田和美でいることの強さ。やはりこの人の底力はただ事ではない。そんなふうに思わされた。その後、時間が経つごとにじわじわと気合が入っていくさまにも、唸るしかなかった。

 

f:id:boatrace-g-report:20171220123337j:plain

 石野貴之の凛々しさにだって、やはり唸った。勝負どころで見せる、険しさと力強さとほとばしる気合。たとえば昨年のチャレンジカップ最終日にはひたすら感動したし、先のオーシャンカップでももちろん、目を見開くしかなかった。その石野が今日もいた。枠番など関係なく、ここぞというところでの石野の雰囲気はただただ強烈だ。

 

f:id:boatrace-g-report:20171220123349j:plain

 松井繁の貫録は、もう言うまでもないでしょう。聞くところによれば、今日になって吹いた強めの追い風に、松井は意を強くしていたという。追い風の浜名湖といえば差し水面。またインの信頼度が低くなる。一日の結果を見ていただいたら、おわかりいただけるだろう。チャンスが来たと思えば、獰猛に獲りにいくのが王者。その意識が強かったのかどうかはわからないが、レース前の松井の表情は怖いくらいに研ぎ澄まされていた。

f:id:boatrace-g-report:20171220123359j:plain

f:id:boatrace-g-report:20171220123409j:plain

 SG初出場の山田雄太、またSG初優出の原田篤志も、その雰囲気に呑みこまれているふうはまるでなかった。舞台の大きさに怯んでいる様子はまったくなかった。むしろ、獲ってやるという気合が強く感じられる雰囲気だった。とりわけ、原田がすごかったな。足に自信があれば、揺るぎなくレースができる。もちろんそれは原田が培ってきた実力であり、初優出とはいえ、すでにここで勝負できる力が彼にはあったということである。

 

f:id:boatrace-g-report:20171220123425j:plain

 そんななかでも、守田俊介がもっとも“いつも通り”だったとやっぱり思うのだ。

 展示から戻ってきた守田と目が合ったとき、守田は素通りすればいいのに、小さく会釈を返してきた。優勝戦1号艇の展示直後、である。先輩の優勝戦が終わるのを待っている予選落ちの男ではないのである。いつでもどこでも、ピットで顔を合わせれば、守田は同じことをする。まさか優勝戦直前にそんな守田俊介が見られるとは思わなかった。思い切り結果論になっちゃうけど、守田は負けないと思った。

 レース後の守田も、まったく“いつも通り”だった。ウイニングランも笑顔、テレビのインタビューでも笑顔、表彰式でも笑顔。間近で見ても、守田の目に光るものはまったく見えない。高揚感も伝わってこない。まだ水面にいる頃、ピットの手前でバンザイは見せているけれども、ヒーローの凱旋がここまで淡々と見えたことは記憶にない。

 川北浩貴が言う。

「やっと、ですよ。遅いんですよ。滋賀支部では中村有裕以来?(06年メモリアル) というか、あいつがいちばん早く獲らなきゃいけないんだから。ほんっと、欲がなくてねえ」

 ウイニングランに出ていくのを見送りながら、しみじみと苦笑していた。そう、レース後の様子は「ほんっと欲がない」男のものであり、だから今まで獲れなかったというふうにも言えるかもしれないけれども、それよりなにより、確固たる守田俊介のキャラである。実際はそれだけの男とも思えないけれども、それでも守田はこんなふうに、守田俊介を貫いてきた。大仕事を果たしてなお、“いつも通り”の守田俊介でいたということ。それがきっと、この男ならではの強さの証しなのだろう。

 

f:id:boatrace-g-report:20171220123442j:plain

 というわけで、やっぱり隣で畠山の様子は“いつも通り”じゃないようにしか見えないのだけれど、まあ、それはそれだろう。その畠山も駆けつけて、レース後は水神祭が行なわれている。

 なにしろ、表彰式も長かったし、記者会見も長ったしで、ピットでは川北や菊地孝平、今坂勝広、笠原亮が待ちぼうけ状態。JLCのヒーローインタビューが終わって、菊地の「さっさとやって、さっさと帰ろ!」の合図で水神祭は始まった。参加者は4人で、俊介の巨体を考えたら……とか思ったが、今日はしっかり50kgで出走している。軽やかに漆黒の水面に放り投げられ、笑顔を見せていた。で、陸に上がってのインタビューがまた長くて、「もう、誰か止めて! 調子に乗せたらいつまでもしゃべるんだから!」と川北(笑)。これも含めて、今日の俊介は“いつも通り”だった。

 

f:id:boatrace-g-report:20171220123455j:plain

 守田俊介おめでとう。畠山は本当に喜んでいます。グランプリでも“いつも通り”が見られることを楽しみにしています!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)