BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――ガチンコ!

 

 

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 よくよく考えてみれば、すごいことである。坪井康晴だ。坪井は今年、アタマから4つのSGに出られなかった。昨年のグランプリシリーズ準優Fのペナルティだ。GⅠも3カ月出られなかった。いや、4カ月目が周年などが組まれない8月だったから、年の3分の1は記念から離れた。坪井がSG&GⅠ戦線に復帰したのは8月メモリアルから。いわば、坪井のグランプリロードはそこから3カ月のみ、だったのだ。にもかかわらず、このチャレンジにはグランプリ当確、ベスト6の勝負駆けという条件で参戦している。強烈な追い上げである。

「新型エンジンのおかげかな(笑)」

 坪井はそう笑う。たしかに坪井は、いわゆる低出力といわれるモーターの調整に多くの選手が苦心する中、いち早く対応している。坪井は新プロペラ制度の導入直後も成績を伸ばしているし、周囲が慣れるのに時間を要するなかですぐに正解を見つけ出す。それがアドバンテージとなっているのはたしかだろう(前回グランプリ出場も新制度導入の12年)。それでも「僕も今年はグランプリは無理かなって諦めてたんですけどね」と彼自身が口にするだけのビハインドがあった。それを覆しているのだから、やはり驚異的なのである。

「だから今節は初戦の転覆がもったいないですよね。もちろんまだ諦めてないですけどね」

 坪井だったら初戦のビハインドを充分ひっくり返せるような気がしてくるというものである。

 

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 やはりグランプリ当確組の田中信一郎は、3走して4、6、6着。苦戦を強いられている。試運転や調整に励むものの、なかなか結果にはつながってくれない。グランプリ行きに関しての不安はないとはいえ、不本意なことには変わりないだろう。

 だから、レース後の目つきは実に険しい。敗れての帰還だから当然とはいえ、いわゆるグランプリ勝負駆けではないからお腹いっぱい、みたいな思いがかけらもないのだろうと推察される。やはりレースを戦うからには敗戦はただただ悔しいばかり。そんな真理も読み取れる。

 あとはやはり、ベスト6でグランプリに行くことへの思いだろうか。地元グランプリにアドバンテージを手にして臨む、というのは大きな意味があることだ。地元でなくてもそうだろうが、地元ならなおさら。実際、田中は開会式でもベスト6という言葉を口にしていた。その勝負駆けがはかばかしくないことへのいら立ちもまた、胸のなかにはあるだろうか。明日は文字通り一日早い勝負駆けとなる田中だが、レース前には闘志パンパンの様子が見られるに違いない。レース後は爽快な表情が見られるだろうか。

 

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 同県同期・太田和美は、実にゆっくりと時間を過ごしている。ピットに姿をあらわす回数は少なくないのだが、特に何をするわけでもなく、むしろヒマを持て余しているようにすら見える。そしてこれは、太田の好調モード。朝の時間帯には調整をしている姿も見かけるので、完全にノーハンマーということはないだろうが、足色に自分なりの確信を持てたときの太田はへたに手を加えることはしない。あとはレースで自分が合わせるだけだと腹を据えて、はた目には余裕綽々のような時間の使い方をするわけである。

 初戦1着の後6着5着と、決してピンを並べたりしているわけではない。むしろ大敗が続いて、明日からが勝負となってくる。しかし、それでも泰然としているのが太田の強さだ。だから、着順の数字に惑わされるべきではないとも思う。僕のほうが年上だけど、こういう大人になりたいなあ、なんて太田を見ていると思ったりして。とにかく、雰囲気は非常にいいと言っていいだろう。

 

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 チャレンジカップはグランプリ勝負駆け。モチベーションががつんと高まるのは、やはりいまだ切符を手に入れていない者たちであることは確かである。しかし、すでにグランプリ行きを決めている選手のモチベーションが下がるということはありえない。トライアル2層制となり、ベスト6の意味が大きくなったのだから、なおさらだ。すでに賞金トップでグランプリ出場が決まっている山崎智也だって、チャレンジカップはどうでもいいなどと少しも思っていない。10Rはカドから見事にまくり切って、勝負駆けの選手を沈めているのである。そしてレース後は嬉しそうに笑っているのである。状況にかかわらずに真っ向から切り合うガチンコ勝負。これもまたチャレンジカップの醍醐味である。

 

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 女子11Rは寺田千恵が逃げ切り。2番手争いが大激戦となって、平高奈菜が逆転で浮上している。このワンツーは、現時点での賞金2位-1位という2連単である。二人ともクイーンズクライマックス出場は当確。3位の遠藤エミは選手責任転覆で後退しており、4位の大瀧明日香と寺田千恵が500万円差。すでにトライアル初戦の1号艇は寺田と平高でほぼ間違いないという状況である。平高と寺田は約100万円差。今節の結果次第で1位と2位は入れ替わる。

 レース後、勝った寺田が平高に「ごめんなさい~~」と頭を下げていた。スタートを決めた平高が内を攻めようとしたとき、寺田は握り返して平高の進路を殺すかのように先マイ。平高は一瞬だけ行き場をなくしたかたちで、待って差さねばならなかった。その間に松本晶恵や香川素子に差し込まれたわけで、結果的に平高は2着をもぎ取ったものの、寺田としては平高の攻め筋を奪ったことを謝罪したのだろう。見る側からすれば、相手の攻め筋を殺すのは当然のこと、何の問題もないとしか思えないが、同様のレースではやはり内の選手が相手に頭を下げる場面は時折見かける。

 

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 平高はもちろん、「そんなそんな、何にもです~」。平高にあるのは、ただただ敗れた悔しさ。寺田に対しての禍根は何もない。また、2番手争いがとにかく疲れるレースだったから、その点に関して深く苦笑したりもしていた。

 お互い賞金トップうんぬんというのはあまり頭にないと思うが、現在のトップツーがやはり真っ向からガチンコ勝負を見せてくれた。レディチャレカも熱いぞ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)