BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――残った! 落ちた…… トップに立った!

 

 

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 10R、峰竜太がフライング。5コースから豪快にまくり切ったものの、わずかにスリットオーバーしていた。気配良好だっただけにこれは痛い。真っ先にピットに戻った峰は、さすがに引きつった表情をしていた。

 ただし、その後は実にサバサバしていた。やっちゃったねえ……と痛々しく振ると、峰は「いや、ぜんぜん、ぜんぜんです。これはもう仕方ない。期初めに切ったのが痛くはありますけどね」と明るい表情を見せていた。この時期のフライングは、SGにはかからない。峰のあっせんを考えると2月あたりが休みとなるので、その意味での痛手が少ないこともあるだろう。これでベスト6でのグランプリ行きはなくなってしまったが、前向きに次に進もうとしているのは悪くないと思う。

 

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 このフライングが、ボーダー争いに影響を与えた。8Rのイン戦をまさかの5着で得点率を4・83まで下げていた平本真之に、再浮上の目が出てきたのだ。それまではボーダーは5・00あたりに落ち着きそうな気配になっていただけに、平本のなかには諦めの境地もあったかもしれないが、10R終了時点で18位。12Rの濱野谷憲吾が3着以内なら予選突破という状況になったのだ。賞金ランク18位の平本が、得点率でもボーダーにいる。今後の展開を考えれば、準優に残れるのは非常に大きい。

 そうした状況を平本はわかっていたかどうか……といえば、絶対にわかっていた。なぜなら、次から次へと報道陣が話を聞きに寄って行っていたから(笑)。何度も何度も同じ話をするのも大変かと思い、僕は遠目で眺めるだけにしておいたが、予選突破の目が出てきたことにテンションを高めていたのではないかと見られた。

 残った! 12Rで濱野谷が後方を走った時点で、平本の準優進出が決まった。結果的に原田幸哉が大敗したので、濱野谷が2着だったとしても浮上していたことになるが、とにかくグランプリ自力当確の目が残ったのである。

 12Rのエンジン吊りを終えた平本に寄っていくと、平本は力強く「もう1回!」と言った。もちろん、もう1回チャレンジだ!である。もう1回チャンス!でもいい。一度は諦めかけたのだから、失うものは何もない。6号艇からのビッグアプセットを期待しよう。

 

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 一方、原田幸哉は5着大敗で、予選落ちとなってしまった。レース前、原田が10R終了後の状況を訊ねてきたので、平本が18位で原田が17位ということは伝えていた(賞金ランクとまるっきり同じだ)。だから原田は、大敗が許されないことはわかっていただろう。ちなみに、4着なら18位に残っていた。03年のチャレンジカップ優勝戦、5着以上でグランプリ行きという条件で6着に敗れたことを思い出す。あのときも2号艇だった……。同じような負け方で、幸哉は明日以降の結果を待つ身となってしまった。

 レース後は当然、溜め息の連発だ。掲示されたスリット写真を覗き込んだときには、大きな大きな苦笑いも出た。コンマ24というスタートは原田らしくない。大事なところでスタート行き切れなかったことも、大きな後悔の種だろう。今日は宿舎に戻っても、溜め息は続くのではないかと思われる。きっと今頃も……。

 

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 12Rでは、予選トップも確定している。笠原亮だ。報道陣に配られた得点率の資料によると、前半の1着で笠原はすでにトップに立っていた。10R発売中、笠原にそのことを伝えると、「おぉっ、これは12R、デカいですねえ」と笑った。本当は一瞬ためらったのだ。伝えることで余計なプレッシャーなり気合なりを生むことにはなりはしないか、と。しかし、笠原はこういうことをまるで意に介さない。優勝戦1号艇でも大丈夫でしょ、と問うと、「ぜーんぜん」と笑うのが笠原だ。超抜機を引いた蒲郡周年は、グランプリのことも考えて力が入ったという。結果、予選で転覆。今回はグランプリのことはいったん棚上げして、単純に「SG勝ちたい」と思いながら芦屋入りしたそうである。それが、パワー的には上がいるというのに、予選トップ。もちろん、「すごく乗りやすくてターンマークを回れる」という機力的なものもあるけれども、メンタル的なものも左右しての好成績だろう。

 12Rはいったん先頭に立ちながら競り負けたので、レース後はやはり悔しそうであった。しかも2番手争いで吉田拡郎ともつれるようなところもあったので、拡郎に気を遣ってもいた。それでも、僕の顔を見ると、笠原は両手を水平に広げて「セーフ!」。まあ、これはなんとか2着に残れた、というほどの意味だ。10Rの太田和美の1着で、予選1位は2着条件ということを笠原はわかっていない。というわけで、「1位!」と知らせると、笠原はおっ!と目を見開いて喜びをあらわにした。単純にSGを勝ちたいと考えた今節だ。予選トップ→優勝戦1号艇が単純にいちばん勝ちやすい。そこに近づいたのだから単純に嬉しい。きっと明日も、プレッシャーなどまるで感じさせない様子を見せるに違いない。勝って優勝戦へ、と単純に考えるだけだ。

 

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 それにしても、太田和美は強いっすね。10Rは1着、峰のフライングで繰り上がりと言われるかもしれないが、その場所にちゃんといたからこそ、1着を手にしているのである。これで太田は7・50まで得点率を引き上げた。笠原が3着以下なら、太田が、前年度覇者がトップだったのだ。ほんと、強い。

 ツキも味方していると思う。10Rは太田もコンマ01のスタートだったのだ。太田自身、早いという感覚はあったようだ。エンジン吊りが終わったあと、ヘルメットをボートに置きっぱなしのまま控室に戻ろうとしたのだ。石野貴之が追いかけて渡し、それを見ていた松井繁が大笑いしていた。太田は「まだ動揺してるから」と笑う。峰がFで太田は残った、こういうツキがその後に影響することはよくあることだ。準優の結果がどうなるかはともかく、今日の時点では太田vs笠原のムードが濃厚となったと見たが、どうだろう。

 

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 さて、女子は明日が勝負駆け。別項にもある通り、すでにクイーンズクライマックスへの出場がかなわなかった選手も出てきており、同時に当確組もかなり見えてきている。ピットにはあちこちに人だかりができており、クイクラ当確組がスポーツ紙の囲み取材を受けていた。小柄な選手の場合、囲まれているのが誰なのか、パッと見にはわからない(笑)。覗き込んでみたら、遠藤エミが人の輪の中心で笑みを浮かべていた……あ、ダジャレじゃないですよ。

 得点率1~4位は全員が賞金ランク12位以内。平高奈菜と寺田千恵は賞金トップ争いを演じていて当然クイクラ当確。大瀧明日香も当確だ。三浦永理は10位で、だから予選2位につけているのは大きい。で、予選6位の香川素子は優勝でも賞金ランク12位には届かない。というわけで、注目されるのは賞金ランク19位、予選5位の宇野弥生である。

 

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 宇野は優勝しなければ現在の12位である中里優子を超えられないから、何としても優出は果たしておかなければならない。明日は逃げ込みをはかる一日だ。宇野の気持ちはもう明日に向いているのか? 11R終了後、愛らしい笑顔で「前夜版、ないですか?」と尋ねられた。SGのほうは明日が準優、前夜版は全レース終了後にならないと出ない。でも、女子のほうは出ないんですか、と宇野はなおも粘る。たまたま近くにいた山川美由紀が「出ないよ」と後押し(?)してくれて、宇野はようやく諦め、さらに最高の笑顔で「すみませんでしたぁ」と言ってくれたが(内池記者、ザマミロ)、表情はキュートながら、気合が高まっていることが伝わるやり取りであったと思う。明日はどんな“私らしく”を見せてくれるだろうか。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)