勝負駆けの選手たちは、やはり気持ちが入っている。いつもニコニコと柔和な表情を見せる平本真之にしても、顔がぐぐっと引き締まっている。まあ、話しかければいつもの笑顔を向けてくるのだが、それでも顔つきがいつもより力強いように思えるものだ。
昨日はやはり、一度は諦めかけたそうだ。しかし、勝負の機会は残った。もう一度、自力当確に挑めることで、平本のテンションはむしろ上がっている。
「どうなるか楽しみですよ」
と平本は言った。優出を逃して明日の結果を待つことになるのか。勝ち上がって晴れてグランプリ戦士となるのか。何時間か後の自分を見るのが楽しみだ、という心境はきっとプラスに働く。
市橋卓士も、表情の変化はあまり読み取れなかったが、朝から精力的な動きを見せており、ここが勝負どころと認識している気配がありありだ。12Ｒは地上波放送で中継されるので、出場選手はピットでインタビュー収録を行なっている。聞くと、市橋卓士が最後までつかまらないという。プロペラ室にこもっているのだ。市橋は試運転とペラ調整のループに入っており、完全にそちらに集中している様子。他の選手だって同様の動きをしているにも関わらず、市橋だけがつかまりにくいというのだから、その集中度は大変なものだ。
吉田拡郎は明らかに表情が険しくなった。ピット内を移動するときなど、うつむく場面が増えた。つまり、脳みそがフル回転しているのだ。もちろん気持ちも高めている。だというのに、すれ違いざまにおはよっすと笑顔を向けるのが好青年カクロー。しかし、コンマ15くらいで笑顔はすっと消え、ふたたび勝負師フェイスに戻っていくのだった。昨年、たとえばオーシャンカップのときの拡郎を思い出す。あの大活躍モードに完全に入ったと言える。
すでにグランプリ当確を決めている選手が、それでは力が入っていないのか、といえばもちろんそんなことはない。たとえば池田浩二は、本体整備をしたようだ。ようだ、というのは、整備室を覗きこんだときには姿が見えなかったからだ。死角の位置で作業をしていたのだろう。２Ｒ発売中にモーターを課題に載せてあらわれて、ボートに装着している。池田の本体整備はなかなかレア。基本はペラ室ごもりなだけに、何か思うところがあったのだろう。準優２号艇、ベスト６入りを充分狙えると判断したか。10Ｒ、どんなかたちで予選トップ男に襲い掛かるかが楽しみだ。
他にも、今垣光太郎や太田和美も、表情がますます力強くなっている。賞金トップ独走の山崎智也にしたって同様だ。まあ、守田俊介はリラックスした雰囲気だが。もっとも、この雰囲気でダービーを勝ったのだから、これが勝負モードとも言える。
女子１Ｒで、複数フライングが出てしまった。金田幸子と滝川真由子。滝川はクイーンズクライマックス当確だが、金田は勝負駆け。そして金田は優出勝負駆けでもあった。ふわふわほのぼのの金ちゃんだが、水面では獰猛な勝負師。その闘志が、勇み足となってしまった。うーん残念！
スリット写真の前には、選手たちが群がっていた。覗き込んでみると、金田の舳先が相当スリットラインから出ていた。これはまさか……。同支部の後輩である茅原悠紀も覗き込んで、顔をしかめる。そのうちに、当の金田自身と寺田千恵、吉田拡郎の岡山軍団がまとめてやって来て、同じように顔をしかめた。金田の顔もさすがにひきつる。うーん……。
結果、コンマ04でセーフ！ いや、セーフというのもおかしいが、金田は明日も走ります。優出もクイクラもなくなってしまったけれども、元気な走りを見せてくれ！（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 池上一摩 ＴＥＸＴ／黒須田）
