BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

芦屋チャレカW優勝戦 私的回顧

究極の同期競り

 

12Rチャレカ優勝戦

①笠原 亮(静岡)16

②太田和美(大阪)16

③石野貴之(大阪)13

④守田俊介(滋賀)15

⑤辻 栄蔵(広島)14

⑥吉田拡郎(岡山)10

 

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171220142538j:plain

 ダービー=俊介Vは私が死ぬほど歓喜した。今日は黒須田の番だ。昨晩、黒崎の『エビス屋昼夜食堂』のカウンターで、黒須田が「もう頭の中に、明日の予定稿が浮かんでます」と嬉しそうに言った。私も俊介がSG連覇したときの予定稿をつらつら考えていたが、黒須田の脳内の勝者は“亮くん”だ。10年前、このブログの前身『NIFTY SPORTS』で競艇の取材をはじめたとき、笠原は絶好調だった。総理大臣杯を制した勢いで、さまざまなSGで活躍していた。で、ピット取材の右も左もわからぬ黒須田が、一等最初に親しくなったのが笠原だった。あ、このあたりの事情は黒須田の記事(ボートボーイ含む)と重なりそうなので端折ろう。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171220142550j:plain

 

「今日は亮くんがね」

「なんだか今日の亮くんは元気がなくて」

「実は亮くんって」

 当時、笠原のいるシリーズは、夜の酒に必ず亮くんが登場した。笠原も黒須田もかなりシャイだから、それで気が合ったのかもしれない。博愛主義というか、ほとんど特定の選手にのめり込むことがない黒須田にとって、“亮くん”は特別な存在だった。笠原が出るレースは、ほぼ必ず頭から買い続けた。いや、今も買い続けている。今日も、今まで見たことがないくらい張り込んだ。本命筋から本気で帯封を狙いに行った。そりゃそうだ。SG優勝戦の1号艇なのだ。その結果については、触れないでおこう。

 まあ、私が書きすぎるのもなんなので、亮くん話はこれくらいにしておこう。私の何十倍も熱い原稿が、別のコーナーで踊ることだろう。おめでとう亮くん、おめでとう黒須田。私の予定稿は、グランプリ最終日まで心のポケットに突っ込んでおこう(笑)。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171220142603j:plain

 

で、レースだ。チャレンジカップという意味合いで、私がいちばん感動したのは吉田拡郎のレースっぷりだった。2着でグランプリ、3着ならアウト。この天国と地獄の境目を、拡郎は必死に懸命にガムシャラに駆け続けた。眼前に立ちはだかる敵は、同期の石野貴之。このやまと学校時代からの盟友にして最強のライバルを競り落とせば、2年連続のグランプリ入りが決まる。拡郎は石野に何度もツケマイを浴びせた。それは、これまで見た拡郎のターンの中でも、とびっきりの迫力を感じさせた。掛け値なしに鬼気迫るツケマイだった。拡郎の思いが、そのままターンに乗り移っていた。

 決まるか、決まるか、決まるか……!?

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171220142615j:plain

 

 スタンドの観衆も、拡郎がツケマイを放つたびにドッと沸いた。が、決まりそうで、決まらない。石野の応対は激辛だった。身体を張って、盟友のツケマイをブロックした。石野にとって、2着か3着かはグランプリにとってさほど大きな意味をなさない。わずか1万6000円差!の俊介に競り勝った時点で、2着でも3着でも賞金ランク3位への浮上は約束されていた(もちろん、そんな細かい計算はしていなかったと思うが)。それでも、石野は拡郎の猛アタックを全力で突っぱねる。そして、拡郎が再びアタックする。かつて見た「同期競り」の中で、今日のそれはもっとも残酷で、もっとも崇高なものだったかもしれない。

 最終ターンマーク。最後の最後に、拡郎は差しハンドルを選択した。握って握って握って、最後に差し。この乾坤一擲のアタックにも、石野は冷徹なほどの落としマイで同期の野望を打ち砕いた。同期だからこそ、絶対に譲れないものがある。『モンキーターン』さながらの熱いドラマが、2周半に凝縮されていた。拡郎も、石野もあっぱれだった。「水上の格闘技」はボートの接触だけでなく、こころとこころのぶつかり合いでもある。そう思った。凄まじく、素晴らしい同期競りだった。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171220142629j:plain

 

 石野2着、拡郎3着。この結果、グランプリのラストチケットは原田幸哉の手に渡った。今節はまさかの予選落ち、茅原との競り負け……シリーズ後半からリズムが急下降した幸哉にとって、それはラッキー以外の何ものでもない当選だった。今晩の幸哉は、石野への感謝の思いを口ずさみながら美酒を煽るかもしれない。が、幸哉よ、今日の凄絶な同期競り(双方の思い)が、そのままグランプリという特別なレースの凄さヤバさであることを忘れちゃならないぞ。今節の自分は“敗者”だったと強く認識し、心にねじり鉢巻を巻きなおして住之江に向かってもらいたい。じゃなきゃ、拡郎に怒られるぞ~!!

 

f:id:boatrace-g-report:20171220142642j:plain

 

 

 あ、そうそう、超のつく余談だが笠原がゴールインした後のスタンドに、やたらと元気な軍団がいたっけ。後方を通りすぎると、その軍団のひとりが「シュー長さんですよね」と声をかけてきた。

「大村のオールスターで智也が勝ったとき“ヨコニシコール”をしたのが僕たちなんです。ブログで書いていただいて、ありがとうございました!」

 あ、あのときの!! 私も「いやいや、こちらこそ」と答えたのだが、その軍団(『本物長崎支部』、スローガンは『礼と節とYAJI』だとか)は笠原にどんなコールをしようか頭を悩ませている最中だった。私は彼らを助けるべく「だったら“クロスダコール”はいかがん。あのふたり、かなり仲いいっすよお」と煽ったのだが、コンマ1秒で却下された。チッ。結局、悩んだ挙句に選んだのが“カサハラコール”だった。うん、それがいちばん亮くんらしい、かも。

 

テラッチW1等賞!!

 

11R女子チャレカ優勝戦

①寺田千恵(岡山) 17

②三浦永理(静岡) 19

③大瀧明日香(愛知)25

④平高奈菜(香川) 23

⑤宇野弥生(愛知) 21

⑥川野芽唯(福岡) 38

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171220142656j:plain

 

 寺田千恵が極めて順当に優勝を飾った。女子の中では前検から噴いていたし、“実家”みたいな水面だったし、今年7Vという勢いもあったし、それまで1号艇が10連勝無敗のベタ凪水面だったし、インからトップスタートだったし、結果も含めてテラッチのために用意されたシリーズと言い切ってしまおう。この優勝で女子賞金ランクの1位と2位が入れ替わり、テラッチがトップ当選したことも明記しておく(2位は平高奈菜)。

 レースとしては他にあまり語るべき要素のない、逃げて差しての穏当なワンツースリー決着だった。ただひとり賞金女王・勝負駆けだった宇野弥生のアタックも不発に終わった。私らしく=スタート勝負だとするなら、大いに悔いの残るレースだったはずだ。12Rで「俺らしい」レースを全うした拡郎のレースを何度も観て、さらに悔しがってもらいたい。

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171220142711j:plain

 

 去年のチャレカでも感じたことだが、すべての面において男子のトップレーサーとレベルが違いすぎる(モーターが残り物だったという大きなハンデを加味しても、だ)と感じた一節でもあった。これ以上書くと、愚痴みたいになってしまうので、今日はここまで。別に女子を批判しているのではなく、強い女子レーサーを育てようとしていない業界そのものへの不満が募るんだよなぁ。このシリーズを観ていると。とにかく、テラッチの強さだけが目立ったシリーズだった。(photos/シギー中尾、text/畠山)