BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット@シリーズ――負けず嫌い!

 

 

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 前半に爽やかジローの記事を書いたが、9R後にピットで出会った中野次郎は、顔がゆがんでいた。爽やかジローの面影がないのだ。理由はひとつ。8Rだろう。1周2マークで寺田千恵と秋山直之の間の狭いところに差しをこじ入れようとして、寺田に追突。3人がもつれ合って、3人ともが失速してしまったのだ。なにしろ、①②④で先頭争いをしていたのに、一瞬で③⑤⑥が前方を走る事態になったのだから、何の手品かと思った。次郎はこれで不良航法をとられ、得点率順位を大きく下げるハメになってしまっている。

 爽やかな男だからといって、敗戦にも常に爽やかさを保てるわけではない。まして減点をとられたなら、なおさら。次郎はしっかりと悔恨を表現して、骨太の勝負師の顔を見せたのである。9R後だから、裁定がくだってからはそれなりに時間が経っている。にもかかわらず、渋面が消えていなかったのだから、その心中は想像できる。10R後には原田篤志が肩を抱いて慰める姿も。二人は86期生の同期生である。誰よりも、胸の内を想像し合える間柄だ。

 

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 関東にはもう一人、中田竜太という爽やか男がいる。艇界屈指のベビーフェイスで、新鋭王座で初めて会ったときには子供が紛れ込んでいるかと思ったくらいだ。インタビューをしたこともあるからか、ピットで顔を合わせたときには彼のほうから言葉をかけてくれることもあって、そのときの笑顔はまさしくキュート。話をしてみると、芯のしっかりしたところのある男だが、ルックスは次郎同様、爽やかボーイである。

 そんな竜太ももちろん、勝負師の男である。10Rで5着に敗れたあとは、やはり爽やかさは消え去り、顔をひきつらせているのであった。師匠である須藤博倫が寄り添い、アドバイス的な言葉を向ける。その間も、中田はうなずきながら、しかし悔恨を顔に貼りつかせているのであった。当たり前のことだが、こういう者たちの痛恨の表情を見せつけられると、このピットには負けず嫌いの勝負師たちばかりが集っているのだと実感させられる。

 

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 10Rでは危険なシーンがあった。ピット内のモニターでいつものように観戦していると、井口佳典がそこにやってきた。さらには下條雄太郎。珍しい組み合わせだな、とも思ったが、6号艇の新田雄史とのつながりを思い出せば、なるほどと納得できる。事実、道中は新田に声援を飛ばしつつの観戦。3番手争いに夢中で見入っていた。そのとき、井口と下條が口をそろえて「アブねえっ!」と叫ぶ。やはり3番手争いに加わっていた市橋卓士の舳先がバックストレッチで大きく煽られたのだ。そのままボートはタテにひっくり返り、市橋は落水。スピードが出る直線での事故だけに、そこにいた誰もが肝を冷やしていた。

 

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 事故艇が戻ってきて、転覆整備が始まろうとしても市橋はあらわれなかったので、容体がおおいに心配されたが、やがて顔をゆがませた市橋が整備室にやってきて、まずは一安心。ただし、その表情が事故を悔やんだものか、身体が痛んでのものかは、そのときには判断できなかった。それから時間が経って声をかけると「大丈夫です!」と力のこもった返答があったので、これまた一安心。ではあるものの、今日のつまずきは身体も心も痛むものだったはずである。まだ勝負は終わったわけではないのだから、明日はその痛みを吹き飛ばす快走に期待しよう。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)