BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット@グランプリ――強い思い!

 

 

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 グランプリはやはり特別なタイトルである。これまで10回、現場で取材してきた。そのたびに感じるのは「このタイトルを獲りたいと欲する思いが強い者が勝つ」ということ。勝つというのは、優勝だけを意味しない。トライアルを勝ち抜くことも含まれるだろう。その思いが強ければ強いほど、プレッシャーも大きくなる。緊張感も高まる。だからピリピリする。そういう選手のほうが、結果を出すケースが多いような気がする。逆に、もちろん全員が全員とは言わないが、グランプリ特有の緊張はあまり感じなかった、というようなコメントを残す選手が、トライアルで敗退するケースが多いのではないか。単なる自然体で勝ち抜けるほど、グランプリは甘くない。

 第1戦、第2戦のレース後の悔しがり方が強烈だった毒島誠は、当然、懸ける思いは強かったのだと思う。だから、昨日の枠番抽選で1号艇を引いた時、力のこもったガッツポーズも出た。そして1着勝負だった第3戦で、実に力強く逃げ切った。しかも毒島は、21点ではタイム差勝負になる可能性もあると考え、先頭に立ったあとはタイムアタックもはかっていたという。優出を己に課していたことは明らかだ。

 1着で戻ってきた毒島の表情は、実は昨日までと大差がなかった。昨日までの僕の見立てが間違っていたのか。それとも、勝ってもなおここがゴールではないという思いが強烈だったのか。この3日間のレース後の顔を3つ並べて、どれが第3戦だと問われても、正解する自信がないほどに毒島は、鬼の表情となっていたのである。

 

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 絶対に勝つという思いが強いのは、石野貴之も同様だ。もしかしたら、地元の分、別次元の上積みがあるかもしれない。石野は2着で21点に到達したが、それでは1着がない分、不利だった。実質的にはやはり1着勝負だった。その闘志が彼を後押しして、石野もまた勝負駆けを成功させている。

 石野の場合、印象的なのはやはりレース前の凛々しさだ。戦闘モードに入ったとき、石野はあまり話しかけられたくない、という。今日も、コメントを求める報道陣に短く言葉を返しながらも、早足で振り切るように控室へと消えていく石野を目撃している。それを石野は「態度悪くてすみません」というが、僕はそうは思わない。何より、その行動と表情が、石野の心中を雄弁に物語っている。

 結果的に、地元勢の優出は石野だけになった。11Rの結果で、太田和美に目がなくなったことを石野はわかっていたという。「先輩からもいろいろ頑張れって言ってもらって、それが力になりました」。そう言った石野の口調は、他とは違い、万感こもったものに聞こえた。明日、石野は自分の優勝したいという思いと、もうひとつ地元の思いの両方を抱えて戦う。それが、モーターパワーと同等に重要な、大きなパワーとなるはずだ。

 

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 というわけで、トライアル3走を終えて、僕がとりわけ気になっているのはこの2人。では、他の優出メンバーの優勝したいという思いが弱いかといえば、当たり前のことだが、そんなはずがない。特に、12月9日にお子さん誕生の山崎智也は、きっと毒島や石野と変わらぬ気合を胸に潜ませている。

「イベントごとに強いんで頑張ります」

 智也のその言葉通り、奏恵さんと結婚した直後にシリーズ戦(10年)、奏恵さんが引退した直後にグランプリ(12年)を優勝している。今回は、奏恵さんが智也の子を出産された直後。って、なんだよ、イベントごとっていうか、全部奏恵ちゃんのことじゃんか。ともかく、今回はそういうタイミングである。で、これは単にそういうときに強い、ということではないと思う。そういうタイミングで絶対に勝ってやる、カッコいいところ見せてやる、という気持ちが強いのだと思う。

 なにしろ、優勝戦は1号艇だ。もっとも勝利に近いところにいるのは間違いない。それを簡単に手放す智也ではあるまい。5着でも1号艇確定というレース後、智也は顔をしかめていた。1号艇だから5着でいい、なんてことは微塵も思っていないのだ。明日も、たとえば優勝しなくても賞金ランク1位に残る可能性はあるけれども、それでいいなんてことは智也はいっさい考えない。1号艇から、がむしゃらに勝利を掴みにいくだろう。

 

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「じゃじゃーん」

 智也と入れ替わりに会見場に入った池田浩二は、小さな声でそう言っている。たぶん、会見場のほとんどの人には聞こえなかっただろう。僕はたまたま入口付近にいたので、聞こえてしまった。そして笑ってしまった(笑)。

 なんだよ、ブスや石野と違ってずいぶん気楽じゃないかよ。と思われるかもしれないが、僕はそうは思わない。これは明らかに気分が乗っているのだ。2着条件と思い込んで走っての3着。池田のなかに諦めはあったはずだ。しかし、3着で届いた。残った。それが池田のテンションを上げた。すなわち、池田もまた、3度目のゴールデンヘルメットを思い切り欲しているのである。ちなみに、3着でもOKと察したのは「エンジン吊りで西山(貴浩)が笑ってたので、ああ、乗れるんだな、と」ということだそうです。西山とじゃれ合いながら控室に戻っていったので、西山も池田のテンションを上げた立役者である。

 

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「勝ったらランボルギーニを買い換えるって、嫁に言ってきました」

 おぉ、今年も優勝してランボルギーニ買うぞ宣言! しかも去年と同じ6号艇だから、ドキドキしちゃいますね。そう、茅原悠紀も去年の感動をふたたび味わってやろうと、真剣に狙っている。

 それにしても、外枠ばかり走って、よくぞファイナルに乗ってきたものだ。優勝戦もまた外枠だが、だからこそ怖い。

「外からでも勝てる選手、というのが自分の目指すスタイル。だから、明日も外から」

 そう腹を据えているあたりも心強い。これも、去年の経験があるからこそ、自信をもって言えること。平和島と住之江はまったく違うと、茅原自身もわかっている。そのうえで、去年の再現を頭に思い描いている茅原は、やはり連覇への思いが強いと評価するべきだ。

 

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 そうしたなかで、特筆すべき強烈な思いをあまり感じなかったのが、篠崎元志だ。それがない、ということではない。機力コメントでよくあるやつでいえば、「バランスが取れていて、いいと思います」というやつ。つまり、特別な何かはなくとも、篠崎元志の存在全体でグランプリを痛切に勝ちたいと欲している。これ、すなわち松井繁流である。

 もちろん、松井の放つ圧倒的なオーラは、まだ元志にはない。住之江に対する思い入れも、もちろん薄いだろう。それでも、そのあり方自体が王者らしくなってきたなあ、と元志に対しては思うのである。

 レース後、元志はまっすぐに前を向いて、淡々と控室へと戻っていった。口元あたりに悔しげなゆがみがわずかに見えるが、むしろ堂々としたふるまいですらあった。それもまた、王者っぽいなと思った。ひとり悔恨を噛み締め、感情を大きく表に出すこともなく、その辛い状況に耐え抜く。元志が意識してるかどうかはわからないが(たぶんしていないが)、そんな王者のたたずまいに類するものが、元志からは感じられるのである。

 というわけで、別の意味でまた気になっているのがこの男。僕が6人に対して感じたあれやこれやは明日、どんなドラマに昇華していくだろうか。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)