BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット@クライマックス――メイちゃんの誇るべき勝利!

 

 

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 仲間が勝てば、すぐに祝福に飛び出したい。そんな思いからだろう、優勝戦がピットアウトする前には、出走待機室やその周辺、あるいは水面際に選手たちが鈴なりとなっていた。僕の目の前には、長嶋万記。見つめる先には、もちろん三浦永理。長嶋は明らかにそわそわしていた。同県同期の親友が、優勝戦1号艇。もしかしたら本人よりドキドキしていたのかもしれない。

 枠なりに並んだ6艇がスリットを駆け抜ける。三浦が他の5人を出し抜いた隊形に見える。これは逃げ切り態勢だ。やっぱり三浦永理は強い。などと思っていると、長嶋が叫んだ。

「正常!」

 ああ、そうか。他より早いスタートなのだから、ひとつ心配しなければならないことがある。でも、まさかねえ……。

 次の瞬間、僕は思わず大声を出してしまっていた。1号艇、返還欠場のアナウンス。う、うそだろ……。僕が「ええっ!」と声をあげたと同時に、長嶋はそこにあったテーブルにばったりと伏し込んだ。まさかのフライング……。長嶋はしばらく動けないでいる。親友が最大の哀しい結末を迎えてしまったのだ。一つ心で見守っていた長嶋にとって、それは地獄のアナウンスだったはずである。長嶋はなおも動けず、西村歩に背中を叩かれて、ようやく我に返っている。真っ先にピットに帰還する三浦を出迎えなければならないのだ。暗い表情で駆け出す長嶋。それは三浦の心中をも代弁する苦悶の顔であった。

 ピットに戻った三浦が、何か大きなアクションを見せたわけではない。ヘルメット越しに見える目は、どこかうつろにも見える。昨日の二の轍は踏みたくなかった。だからスタートを決めてしっかりと先に回りたい。その思いが強かったあまりの勇み足。天国と地獄はまさに紙一重。わずかコンマ02の差で地獄のほうを味わわねばならなかった三浦が、すぐに感情を身体の動きに表せないほうが自然だと思った。

 ここでこうした場面に出くわすたび、「フライングを肯定はしない。しかし、選手の勝ちたいという思いを絶対に否定はしない」ということを書いてきている。今回も同じだ。指摘や避難などしなくても、事の重大さは本人がいちばんわかっている。この大きすぎる落胆を払拭して、また強いテクニカルエリーを見せてほしい。ただただ、そう願うのみである。

 

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 そういうわけで、決まり手は恵まれであったが、川野芽唯はそんなことを気にせず、この優勝を誇るべきだ! 何かがあったとき、その位置にいなければ恵まれも起こらない。その場所を必死に分捕らなければ、恵まれることなど永遠にないのだ。だから、これは見事な勝利! 2マークで寺田千恵を捌き切ったことも含めて、快勝である。

 いや、川野はそんなことはハナから気にしてなかっただろう。ピットに戻ってきた瞬間、川野は一瞬、涙ぐんでいる。こぼすのはグッと耐えて、すぐに平静に戻ってはいるが、本当は泣き出したいほど嬉しかったのだ。テレビ中継のインタビューを終えて、福岡支部の仲間たちに祝福されていた川野の瞳は、明らかにウルウルして見えていた。

 なにしろ、地元での優勝なのだ。福岡でクイーンズクライマックスが行なわれると決まり、もちろんなんとしてもベスト12に残りたいと願った。チャレンジカップでは胃の痛い思いをしながら、5日目にやっと当確。願いをかなえて臨んだ地元クライマックス。福岡勢がシリーズも含めて優勝戦に駒を進められなかったなか、自分が最後の砦となった。そんななかで先頭ゴールを果たしたことは、ただただ感動させられるものであって当然である。(写真は瓜生正義との握手!)

 

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 川野は優勝会見で、「同期の(鎌倉)涼ちゃんと(平高)奈菜ちゃんが、こういう舞台に先に出るようになって、遅れていった私は支えられている」と語っている。鎌倉涼がレディースチャンピオン初出場初優出の快挙を成し遂げたとき、川野はまだ優出自体が未経験であった。なにしろ、その期の勝率は2・82。レディチャンなど遠い先の話にしか見えなかったはずだ。実際は、その年の10月に初優勝を果たし、翌年のレディチャンには出場している。とはいえ、それは女子リーグ優勝一発で果たした出場で、その期でさえ勝率は3・68だった。さらに言うと、鎌倉がレディチャン初優出は2010年のこと、その年の最優秀新人は平高奈菜である。前年の平山智加につづく史上2人目の女子による最優秀新人受賞。同期の2人がそうした活躍を見せていた年に、川野は勝率2点3点をうろついていたのである。

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 そんな川野が、このクイーンズクライマックスで鎌倉、平高とともに出場を果たした。二人に支えられたと川野は言うが、その差を5年かけて詰めてみせたのは、間違いなく強い思いと、それを原動力とした川野自身の莫大なる努力である。そして、まだ鎌倉も平高もかなえていないGⅠ優勝を先に果たしたことは、手垢のついた言葉ではあるが「努力は裏切らない」が真理であることを証明したことでもある。もう、どう考えてもこれは素晴らしすぎる優勝なのだ。

 

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 そんな川野を間近で見てきた平高と鎌倉は、自身の敗戦にはもちろん悔しがりながらも、愛すべき同期の優勝を心から喜んでもいた。表彰式、会見などを終えてピットに凱旋した川野に真っ先に抱きついたのは平高! そのあとには当然、水神祭が待っているわけだが、平高も鎌倉もサンダルをはいており、飛び込む気マンマンだ。川野の水神祭、水が冷たかろうが何だろうが、一緒に落ちずにいられようか! シリーズに出場していたもう一人の同期、津田裕絵も同様の格好だった。

 

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 というわけで、水神祭! 実際一緒に落ちたのは同期のみではなく、福岡勢、遠藤エミなど、次々と水面にドボン! 今日は節イチの寒さだったから、落ちたそばから「さむーい!」「つめたーい!」の嬌声がピットに響いていた。急いで陸に上がると、全員から湯気がもわもわと立ち上る(笑)。うーん、見ているだけで寒かったぞ!

 

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 それを微笑ましげに見ていたのが、寺田千恵である。「田口節子が三国で勝ったときなんて、もっと水温低かったもんねえ」と、4年前のことを懐かしげに振り返るテラッチ。「こうして新しい風が吹いてくるってのは、ほんといいことよね」と、後輩の快挙を心から祝福しているようだった。「で、その新しい風を寺田先輩は叩くんでしょ?」「いやいやいや。逆に私がお尻を叩かれて、また頑張れるのよね」。優しい顔を見せるテラッチ。やはり、どれだけ女子戦が隆盛し、若いヴィーナスたちの人気が高まっても、この人にはまだまだ頑張ってもらわねばなるまい。でも、テラッチ、やっぱり悔しかったんだよね。さむいさむいとキャッキャしてる後輩たちを見ながら、「みーんな、正月早々、風邪ひいちゃえ! それでしばらくレース休んで、賞金稼げなくなっちゃえ!」。ガハハハハハ! そして来年はクイクラに出てくるな、って? いいぞ、テラッチ! もちろん彼女たちの力を認めているがゆえの、愛情あるジョーク。でも、寺田千恵がまだまだトップに君臨するつもりでいっぱいであることを知れたのは、嬉しかった。そのとおり。あなたにはまだ若手の前に立ちはだかってもらわねば困ります。

 

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 ということで、メイちゃん、あなたの目の前には倒さねばならない強い強い先輩がおりますぞ! 今日はおめでとう! そして年が明けてもなお奮闘し、涼ちゃんや奈菜ちゃんとともに、さらに強くなってください!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)