H記者がやまと学校の取材に旅立ったこともあり、ピンチヒッターとして久しぶりのSGピット取材となった。
朝、1レースの展示前にピットに入ると、装着場には人が少なかったが、今垣光太郎が入念に自分のボートをチェックしていた。その背中は“できれば話しかけないでください”と言っているようでもあり、この時間から集中力はすごい! こちらも気が引き締まる思いだ。
この時間でもペラ小屋では10人ほどの選手たちが作業をしていた。
外から覗き込んでいると、いちばん手前にいた平田忠則と目が合った。僕に気が付くと、作業中でありながらも、ニコリと笑って、ぺこりと頭を下げてくれる。以前に2度ほど取材しているからだが、いつまでも覚えていてくれるのは嬉しい。
100万ドルの笑顔は、それを見た人間を幸せにしてくれる。
今日のピットで最初に声をかけたのは長田頼宗だ。
「覚えていますか?」
と声をかけると、しばらく、じいっと僕の顔を見ていた長田は……「すみません」。
ちょっと悲しいが、いわゆる地味な存在である私にとっては想定内の回答だ。気落ちはしない。
「長田選手が初めてオールスターに出たとき、BOATBoyで取材をさせてもらったんですよ」と名乗り、「SG優勝、おめでとうございます」と遅まきながら祝福させてもらった。
「オールスター出場のあとにはA2に落ちたりもしましたが、ああいう時間を過ごしたこともよかったんでしょうね」と続けさせてもらうと、「本当にそうだと思います」と返してくれた。
「あのときは地元だということもあり、選んでもらえたと思うんですが、立っている舞台の大きさに悩んだりもして……。それからいろいろな経験をしましたが、そこで勉強できたことも大きかったんだと思います。SGは獲れましたが、実力はまだまだなんで、これからも頑張ります」
と、これまでの時間を振り返ってくれた。
実際はこの5倍、10倍くらいの尺で話してくれたので、こんなによく話す選手だったかな、と思ったくらいだが、それも彼の成長なのだろう。最後に長田は言った。「8年前でしたっけ?」
「そうです。ここでしたね」
「はい(ニコリ)」
8年前、初めてSGの舞台に立った平和島に、SGウイナーとして帰ってきたのだ。初日は5コース5着、6コース6着と厳しい滑り出しになったが、ここからの巻き返しに期待したい。
「覚えてますか?」
次に声をかけたのは遠藤エミだ。
「えっ!? う~ん……」と僕の顔を見てくるのも想定内。
早めに「去年、インタビューをさせてもらったんです」というと、「ああ~」と笑顔。
「SGは慣れましたか?」と聞くと、
「慣れないです。慣れないというか別に……」というところで、他の選手が来て話は中断してしまった。
続けて彼女は何を言いたかったのか?
べつにいつもどおりやるだけです――。
そんな言葉ではなかったかと勝手に思う。
エンジン吊りのために駆けていく姿は、初々しくも頼もしかった。
「覚えてますか?」
さらに声をかけたのは松田祐季だ。
じいっと僕の顔を見てきたので、やっぱりダメなのか、と落ち込みかけたが……。
「覚えてますよ。……本は読んでませんけど」とのこと。
その言葉で100%覚えていてもらっていたのがわかった。本というのは私の著書である『福井の逆襲』という地域研究本(?)のことで、昨年、取材した際に「読んでくださいね」と話してあったのだ。
「本屋には見に行ったんですけどね。でも、うちのおかんは読んでたようです」
「ヤングダービーで逆襲しましたね?」
「う~ん、どうですかね」
「でも、今節、福井支部の選手は多いし、期待してます」
「そうですね。頑張ります(ニコリ)」
……私的な話にばかりなって申し訳ないが、SGのピットも、ずいぶん選手が変わった。新鮮で楽しい気持ちになるが、その一方、三嶌さんの姿などが見られると、それもまた嬉しくてしょうがない。そんなピットだ。
(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/内池)