BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――最高のドリーム戦

 びわこの水面特性をご存知か!?

 よく把握していない、という方にお教えしよう。

 

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 なのである。これはピットに貼り出されていたもので、びわこの参戦経験が少ない選手にしっかりと認知させようというものだろう。そう、この特性については、選手にきっちり伝えなければならぬ。なぜなら、「追い風」「水の流れも追っている」ということは、「スタートが早くなりがち」ということだ。そう、たまに走るとどうしてもスタートが勘より早くなる。修正しないままレースに臨むと、事故が起きやすくなるわけだ。

 ということで、横にはこんな貼り紙もありました。

 

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 ダハハハハ! ガンマンが脅してます……あんまり怖くないけど(笑)。いやいや、実際のペナルティは選手にとってはめちゃ怖い。風、水の流れはしっかり頭に叩き込んでピットインしなければならない。

 

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 と言いつつ、この水面を熟知しているはずの山田豊がフライングを切ってしまうのだから、ボートレースは難しい。9R、唯一の地元マスターがまさかの勇み足となってしまった。今節の主役の一人だっただけに、本人も我々も無念の一言。地元ファンの方たちにとっては痛恨だろう。

 さすがに朝とは雰囲気が変わっていて、落胆の様子もうかがえた。整備士さんとの会話で時折浮かぶ苦笑いも痛々しい感じがした。しかし、優勝のチャンスが消えたとはいえ、地元ビッグはあと5日もある。闘志を萎えさせることなく、明日からの戦いに臨むはずである。人気落ちるなら、僕は積極的に狙うぞ。

 

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 ところで、びわこピットのカポック脱ぎ場は、装着場の一角にある。テーブルが置かれていて、それを囲むかたちで選手たちは装備をほどく。11R、あがってきた6人がそれぞれにエンジン吊りを終えてテーブル周りに集結。その光景がどうにもマスターズらしくないのであった。一言で言って、若い、のである。

 6人はみなここ3年でマスターズデビューしてきた面々。実際に若い、のである。さらに、最近のSGでもよく見かけるメンバーが多いから、マスターズでしか会えないベテランという選手が少ない。この6人によるカードってSGでも見たんじゃないかしらんという不思議な感覚になったのである。

 そしてこの6人、かなり明るくレースを振り返り合っていた。勝った熊谷直樹は笑っていて当然だが、競り合った江口晃生と川﨑智幸もにこにこと感想戦を行なっている。10何年前のSGのピットでもこんなふうだったのかなあ、と想像してしまった。いや、当時はもっとバチバチしたものがあっただろうか。そうだとしたらその笑顔もまた年輪だと、しみじみ感慨にふけった次第だ。これもまた、キャリアを積み重ねてきたからこそ得られるメンタリティかもしれない。

 

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 もっとも、6人が別れてからは、悔しげな表情も見えた。川﨑は3着の目があったわけだから、なおさらだろう。平石和男にいたってはアタマも充分ありえた。本音にはそうした悔しさをたたえながら、仲間と笑顔で語らうことができる。それもベテランらしさなのだろう。

 

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 さて、ドリーム戦、面白かったですね! とりわけ、進入は素晴らしかった。何が素晴らしかったって、装着場に何人かの選手が出てきて、生観戦していたのだから、仲間たちも大きな関心をもつ進入争いだったのだ。

 装着場からは2マークがほぼ正面に見える。ボートリフトの目の前に150m標識あるレイアウトなのだ。だから、装着場はコース獲りの駆け引きを目の当たりにできる特等席でもあって、報道陣もそこに陣取って見守っている。選手たちは通常、作業中ならペラ室や整備室で、そうでなければ控室で、モニター観戦している。それなのに、小畑実成、江口晃生、山一鉄也、藤丸光一の姿が装着場にあって、水面を凝視していたのだ。これこそがボートレース! 1月のバトルトーナメントの折り、鎌田義が「選手がしっかり見ているレースはええレース」と言っていた。ドリーム戦はまさに、選手がしっかり見ている進入争い。最高のレース、なのである。

 

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 レース前後から風向きが変わって(強めの右横風から向かい風。水の流れとぶつかる風だ)、水面もなかなか荒れ気味だった。JLC解説者の青山登さんが「さすがキャリアのある選手たちは、こんな水面でもまったく危なげないよね」と感心していたが、そのために気を配らなければならないことも多々あっただろう。そのうえで、あの進入争い。11Rのカポック脱ぎ場とは一転、レースを終えた6人はやや硬めの表情で、淡々と装備を解いていた。今村豊が「うねりが見えてヤバイと思った」といつものようにおどけて叫んでいたが、周囲は苦笑を浮かべる程度。僕はそんな光景もまた、やっぱりいいなあと思ったのだった。仲良きことは美しきかな。しかし水面に出れば敵同士なのだから、仲良しである必要はない。むしろこのドリームがいかに激戦だったかを物語るかのようなこの光景は、11Rとはまた別の意味で、非常に好ましいものと映ったのである。

 まあ、すべてのレースがこうである必要はないけれども、こういうレースは絶対に必要だし、もっともっと欲しいですよね。そんな思いにさせてくれたドリーム戦、もっと言うとこういうドリーム戦があるマスターズは、どう考えても最高に素敵なのだ!(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)