BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――激しい勝負駆け

 

 

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 BOATBoyが推しているデータは「新概念データ」。過去1年間にある選手が1~6のそれぞれのコースでどんなレースをしているかを数値化したものである。ようするに、誰がまくり、誰が差す、インはまくりに飛びつくかどうか、などなどのデータで、それをもとに1マークの展開を推理しようというものだ。僕の“本紙予想”の注目データも、新概念データからの抜粋である。

 これはもちろん、舟券用のデータ。舟券予想の根拠にすることを目的としたツールである。これを、岡崎恭裕は昨夜、宿舎でつらつらと眺めていたらしい。宿舎にもBOATBoyが置かれていて、自由に読めるのだ。すると、濱野谷憲吾が「1コース差され率」(1コース時に敗れたとき、差されて敗れた確率)でワースト級の高さであることに気付いた。濱野谷の1コースはめちゃめちゃ差されやすいというか、過去1年に差されて敗れたことが非常に多いのだ。そこで岡崎は気づく。「明日、俺は2号艇。1号艇は濱野谷さんじゃないか!」。岡崎は絶対に差し切ってやる、と心に決めたそうだ。結果はお見事、2コース差し切り! どうよ、岡崎くん、BOATBoyも役に立つっしょ! 

 いや、もちろん岡崎の差し切りにデータはあまり関係ない。岡崎は知らないだろうけど、現在発売の号の締切以降、濱野谷の差され率は低下してるんです。それに、データが未来の結果を保証するわけではない。岡崎がきっちりとモーターを仕上げ(濱野谷が「出ちょるの~」と感心していた)、しっかりとハンドルを入れて、テクニックで差し切った。だから勝てたのである。それでも、BOATBoyを参考にしていただけて嬉しいっす。というか、選手のために作ったデータではないだけに、ちょっと意外ではあるんだけど(笑)。

 あ、ちなみに明日も岡崎は2号艇。そして1号艇の平本真之の差され率は濱野谷以上の高さなんです(ただしまくられ率が濱野谷より相当に高い)。明日も差しますか、それとも!?

 

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 それにしても、勝負駆けはなかなか激しかった。終わってみれば、その平本真之が予選トップである。初日から智也→峰→西島と変遷してきた予選1位の座は、まさに12Rが終わるまで確定しなかったのだが、峰竜太と西島義則の12Rの着順によって、平本が一気に浮上したのである。

 平本の予選1位はこれが初めてではない。14年のグランプリシリーズだ。結果的にSG初制覇を果たしているわけだが、準優では1号艇で2着に敗れている。プレッシャーはすでに味わっている平本だが、シリーズは通常SGとは少し違うだろうし、何より予選トップ→準優逃げて優勝戦1号艇の王道を歩むことも重要なことだ。「リベンジを!」と声をかけたら、平本はニッカリ笑ってうなずいた。実は平本は過去1年、1コース1着率が50%を割っているのだが(A1級としてはワーストレベル)、そんなことは言っていられない。明日は文字通りの正念場。力強い走りを期待しよう。

 

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 12Rで勝負駆けに失敗したのは、笠原亮だ。11R発売中、気合の言葉を吐いて展示に向かった笠原は、コンマ07のトップタイスタートから渾身の4カドまくり。しかしこれはインの篠崎に抵抗されて、6着に敗れた。出遅れた初日の分の巻き返しは、最終的にはかなわなかった。

 それでも、レース後の笠原はかなりサバサバしているように見えた。もちろん悔しさも滲ませていたが、なすべき走りができたという思いはあっただろう。勝負したのだという手応えはもちろん、全速でいいスタートを切れたという内容についても、それなりに納得はしたようだった。「あそこで(1マーク)差さなきゃダメですよねえ」とも言っていたが、僕はそうは思わない(もちろん差して1着ならなおよかったが)。勝ちに行くレースを見せたということが、今後につながるし、ファンにも伝わる。今夜は悔しさがぶり返すはずだが、それもまた肥やしになる。

 

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 その笠原のまくりに飛びついた時点で、1着勝負だった篠崎元志の勝負駆けも終わっている。飛びつかなければよかった? いや、まくられていても終戦だったことに変わりはない。笠原を前に出さなければ、まだ先頭に立つ可能性はある。まくりを張るのは、イン選手の役割であり、また本能でもある。篠崎は、敗れはしたものの、文句なしのホンモノである。

 ヘルメットをかぶっている間はわからないが、ヘルメットを脱いだ篠崎は、顔をゆがめるでもなく、下を向くこともなく、苦笑いもなく、天を仰いだりもせずに、まっすぐ前を向いて、表情を硬くしていた。王者のレース後に似ているなあ、と思った。王者もまた、控室などではどうか知らないが、ピットではひとり悔恨を噛み締め、淡々と動く。その孤独に耐えるのが王者だと、そんな矜持を抱いているかのように。篠崎元志はやはり、王者の王道を受け継ぐ存在になるのか。そんなことを考えさせられるたたずまいであった。

 

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 その松井は、笠原のまくりが作った展開を見事に差し切った。正直、足的にはかなりきついと見ていたのだが、終わってみれば準優1号艇ですか。さすがと言うしかない。

 決して展開だけが勝因ではないと思う。松井は、ギリギリまでペラ調整をして、レースに臨んでいるのだ。勝利者インタビューで「しっかり仕事をしているのを神様が見ていてくれたんでしょうね」という旨を語っていたが、たしかに与えられた時間をすべて使い切って、レースに臨んだのである。神様が見ていてくれたというより、神様に松井自身が見せつけたのだと僕は思う。今日は6枠5枠での勝負駆けをクリアして1号艇をつかんだ。流れも松井に味方しているようにも見えるのだが、果たして。

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 さて、前半記事で、下條雄太郎と松田祐季の足合わせについて触れているが、二人はなんとレースでも足合わせ、いや競り合いを演じた。11R、3番手を二人で争ったのだ。松田は1着勝負だったので、3着では予選突破はならなかった。一方の下條は大敗しなければ準優はOKという状況。つまり、この競り合い自体はベスト18の行方に影響を及ぼさないものであった。勝ったのは下條。これで完全に安全圏へと持ち込んだ。レース後、健闘を称え合う二人は、なんとも爽やかに笑顔を交わし合った。陸では仲が良かろうが、水面では容赦なし。彼らはボートレーサーの本能をしっかりと体内に宿している。生き残った下條が松田の分まで、明日は奮闘するはずだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)