BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――64期、80期、ニュージェネ

 

 

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 なんといっても、松井繁と服部幸男の優出である。

 先に優出を決めていた松井は、服部がボートを降りる前にがっちりと握手を交わした。11Rは近畿地区の選手が2人、優勝戦に乗っていたので、そちらのエンジン吊りに向かわねばならない。松井はそれより先に服部をリフトで出迎え、手が届くところに服部が来たとき、右手を差し出したのだった。もちろん服部は笑顔で手を握り返している。

 64期の超二大巨頭。王者が唯一、ライバルとして名をあげる服部。この盟友同士のSGでの同時優出は、09年グラチャン以来となる。約7年ぶりの揃い踏みだ。会見では服部も「それは特に」と思い入れを語りはしなかったが、感慨がないわけがない。水面に出れば破らなければならない敵の一人であっても、ニュージェネレーション勢が3人も優勝戦に名を連ねる中で、この二人が揃って優勝戦のピットに入ることの意味は大きい。その点を差し引いても、ともに栄誉をめぐって戦いの舞台に立てることは、嬉しいことに違いない。

 

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 二人は、オールスターという舞台について、会見で同じようなことを口にしている。

「負けてもお客さんに納得してもらえるように、一生懸命仕事をしている」(松井)

「ファンに投票してもらえなければ出られないレース。ただ一生懸命やるだけ」(服部)

 ファンに選んでもらえるということの意味を、二人は知り尽くしているのだ。そうしたレースで4年連続優出を果たしたことを、服部は誇りに思っているはずだ。また、松井の言う「一生懸命仕事をしている」が、ピットでの調整作業だとするなら、それ自体はお客さんの目には届かない。その調整がお客さんの納得するレースを見せられる仕上げ、というところにつながるのは当たり前だが、そこに確固とした哲学があるのは確かである。

「神様はすべて見てないね」と、10Rを勝って上がってきた松井を、原田幸哉が冗談めかしてからかった。「見てるやろ!」と松井は返す。昨日の勝利者インタビューで「しっかり仕事をしているのを神様が見てくれていた」と松井が語ったことを受けたものだが、少なくとも、ファンは今日、松井の“仕事”を目の当たりにした。それこそがオールスターというレースのキモなのだと確信している松井と、そして服部が、明日は最後の舞台で剣を交える。優勝戦は間違いなく、この二人がコク深いものにしてくれるだろう。

 

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 重成一人は、これが4度目の優出。12年の芦屋グラチャン以来である。レース後には、彼にもまた同期絡みの光景が生まれていた。まず、同じレースを戦った白井英治が、「おめでとう!」と祝福している。白井としてはもちろん、同期優出が理想だったはずだが、自分はかなわず、重成への祝福へと気持ちを切り替えたわけだ。6号艇6コースということもあってか、サバサバしているようにも見えた。今日はテレボート会員イベントのゲストで来場していた鎌田義も、このレースのみピットに顔を出し、遠くから拍手を送っている。同期生が2人出場していた11Rは、やはり気になる一戦だったのだ。カマギーの拍手に、重成は右手をあげて応えた。80期からは単騎参戦となる優勝戦だが、白井やカマギーの思いは重成に届いたはずだ。この期は本当に無冠の帝王ばかりで、すでに96期からSGウイナーが3人も誕生しているというのに、一昨年に白井がようやくタイトルホルダーとなり、いまだ白井しかその栄誉に浴してはいないのだ。選手のレベルを考えれば、あと2、3人はSGウイナーがいなければおかしいのに。重成は明日、80期2人目の戴冠を目指す。

 

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 ドリーム戦にはニュージェネレーションが4人。優勝戦は1人減って3人となったが、それでも彼らの猛威がさらに強くなっていることを実感させられる事実である。

 峰竜太は、何というのか、いつもよりはいい意味で気が抜けているように思う。本人的に気になるところはいろいろあるだろうが、個人的にはなんとなく不気味なのである。ようするに、優勝戦ともなるといつも勝ちたい勝ちたいオーラが抑えきれずにあふれてきている峰竜太とは、ちょっと雰囲気が違っており、それが逆に奏功することもあるのではないか、という気もするのだ。まあ、獲りたい獲りたいオーラがすごい峰竜太が本当は魅力的なんだけどね。これがどんな結果につながるのか、明日は峰竜太のデータがひとつ増えるのかもしれないですね。

 

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 岡崎恭裕は久しぶりのSG優出となる。2013年オールスター以来3年ぶり。あ、あのときも峰竜太が一緒だった。しかも、隣同士の枠で峰がひとつ内。3年前が峰2号艇、岡崎3号艇だ。さらに服部が岡崎のひとつ外だった。そして大外の湯川浩司が動き、服部と新田雄史が抵抗。峰が5カド、岡崎が6コース。明日は6号艇の服部が動きそうで、また峰と岡崎で外コースに? 岡崎は「6コースは嫌です」と言っていたが。あのときも、外に出たことを悔やんでたもんなあ。

 岡崎が23歳でオールスターを勝ったのは、もう6年も前のことだ。それから岡崎には紆余曲折があった。先のオールスター優出以降、低迷していたと言わざるを得なかった時期もある。それだけに、これは岡崎にとって本格復活の足掛かりともいえる。おそらく、SG優出ということの意味は相当に大きいだろう。一瞬、差しが入ったかに見えた1マーク。しかし平本真之が力強く前に出たとき、岡崎はすぐに引いて2番手争いに移った。「井口さんも来てたし、2着最優先で粘らずに引きました」。これが欲していたひとつの結果であることの証左である。とはいえ、本当に欲しているのはもう一丁、上のものだ。6年前の優勝は緑カポックだった。黄色でもまったく侮ることはできない。

 

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 平本真之が逃げ切った。準優1号艇で逃げて、優勝戦1号艇。ひとつの王道を、平本は経験したことになる。これで明日も逃げられれば、本物の王道を味わった男の仲間入りだ。あとひとつ。今夜の平本は、そりゃあ緊張しながら過ごすんだろう。

 平本はわりと多く接した一人。優勝戦1号艇で極限の後悔を味わった児島グラチャンや、やっとタイトルに手が届いた平和島GPシリーズでも、いろいろなことを話している。メンタルについてもそうだし、こちらからちょっと煽ってみたこともあった。そんな僕の感覚としては、今回の平本は問題ない、と思う。少なくとも、緊張に押しつぶされて失敗するようなことは考えにくいのではないか。平本は真面目な男だから、そのたびにいろんなことを考え込んだと思う。池田先輩や原田先輩にもいろいろ言葉をかけられただろう。それを平本はしっかりと吸収してきたのではないか。児島グラチャンの優勝戦1号艇が決まった瞬間の平本と、今日優勝戦1号艇が決まった瞬間の平本は圧倒的に違う。児島は予選3位で相手待ちの1号艇に対し、今回は自分で勝って1号艇を決めたわけだから状況も違うが、いずれにしてもあのときの平本真之はもういない。あらゆる角度から、平本は格段に強くなった。

 

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 もちろん結果がどうなるかは別である。なにしろ過去1年の1コース1着率は45.5%とA1級ワーストクラスだし。今年に入ってからはわずか40%です(今日の1着で少しアップするけど)。1コース差され率の高さを知っている岡崎が猛然とまくり差しを放つかもしれない(笑)。だが、妙な後悔をすることはもうないだろうし、データなんかいっさい関係なく、軽々と逃げ切る可能性も十分にある。明日は勝っても負けても、強い平本真之が見られると信じる。少なくとも、5年前と同じ光景はありえない。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)