BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――強者・平本

 

 

f:id:boatrace-g-report:20171221160349j:plain

 こちらの顔を見つけた瞬間、岡崎恭裕が顔をくしゃっと歪めた。グローブを手にした右手をこちらに向けながら、報道陣に囲まれて控室へと帰っていく。

 いちばん悔しかったのは、おそらくこの男だろう。

 あのまくり差しの強烈さは畠山が語るだろう。勝ったと思った瞬間が、岡崎には確実にあったはずだ。だから悔しい。もっとも栄冠に近づき、しかし獲り逃した者がもっとも悔しいのだ。

 何しろ、ボートリフトに乗ったのは、ぶっちぎりで岡崎が最後だった。他の5艇が乗っているのに、岡崎はまだ5~10m後方で艇を流していた。あれ、シンガリ負けだっけ? そう錯覚させられたのだが、ようするに脱力していたのだろう。

 岡崎くんよ、⑤-①を持っていた僕も悔しい! そしてこれが、岡崎恭裕の真の復活劇の序章だと確信する。この悔しさを福岡に持って帰って、蒲郡ではまた力強い表情を見せてくれ。僕も今夜、酒にまみれて悔しさを吹っ切って、また蒲郡にまいります。

 

f:id:boatrace-g-report:20171221160402j:plain

 松井繁もまた、憮然たる表情を見せていた。決して納得のいくレースではなかったのだから、王者としては当然のことだ。ボートを降りてリプレイを見つめる目が、実に険しい。顔をゆがめたり、悔しいと口に出すことはなくとも、胸の内の悔恨は伝わってくる。松井は今日も、しっかりと“仕事”をしてレースに臨んでいる。その矜持はあるはずだ。しかし、それを悔しさを紛らす材料にはしないのも王者の矜持。やはり王者は負けても王者なのだ。

f:id:boatrace-g-report:20171221160414j:plain

f:id:boatrace-g-report:20171221160428j:plain

 悔しさがストレートに伝わってきたのはその2人で、あとの敗者はわりと淡々としているように見えた。峰竜太も、もちろん涙を流すこともなく、「次がんばります!」と爽やかに笑って、メダル授与式に向かった。重成一人は準Vで、岡崎と同じ意味で悔しさも強いだろうが、表情自体は穏やかだった。今朝、スタート特訓後にペラ室に直行した重成は、いちばん最後までペラ室にこもった選手となった。重成がペラ室を出たのは午後3時50分。そこまで粘って調整を続けた重成には敬意を表したい。

 

f:id:boatrace-g-report:20171221160444j:plain

 服部幸男もサバサバとした表情だった。スタート展示でコースを主張され、本番でも折り合うことなく、さらに内寄りを強く欲したが、これも岡崎にブロックされた。もちろんそれがレースというものだとわかっている服部は、しかしその時点で厳しい戦いになることを覚悟したはずだ。「やっぱり6コースは遠かったね」。敗戦を粛々と受け止める姿には、やはり風格があった。もちろん、今頃は悔しさが胸中にあふれ返っているのだろうけれども。

 

f:id:boatrace-g-report:20171221160456j:plain

 さて、平本真之、おめでとう! 今日のあなたは強かった。ピットで話をした関係者の誰もが「11年グラチャン」のことを口にしていたが、今日の様子を見る限り、同じ轍を踏むことは絶対にないと確信していた。勝つか負けるかは時の運だが、誰が見てもプレッシャーに潰されたと見えるようなレースをするわけがないということは、間違いないことだった。

 もちろん緊張はしていた。だが、平本はそれを認め、受け入れることができた。できるようになった。その意味で、今日の平本は強者である。岡崎のまくり差しをしのいで勝ったことで、平本はさらなる強者となった。

 今年の得票数は1700票だった。来年は、と会見で問われ「2000票?」と笑いをとっていたが、そんなもので済むわけがないし、済ませてはならないだろう。もし本当に2000票しか獲得できなかったとするなら、6月以降に大失速した場合である。今の平本が、この優勝で気を抜いて大低迷するなど考えられないことで、平本自身「次の地元グラチャンで気を引き締めて走る」と表明している。そう、次のSGは地元蒲郡開催だ。なにしろオールスター→グラチャンの連覇は2年連続で出てますからね。平本が3年連続を果たしたとしても、驚けないだろう。

 

f:id:boatrace-g-report:20171221160507j:plain

 平本のSG初タイトルはグランプリシリーズ。ということは、それ以外のSG優勝者が経験する一連の行動をきちんとは経験していないのである。メダル授与式と表彰式、共同記者会見は、本当に駆け足で行なわれる。優勝者は「連れ回される」と表現したくなるような名誉な時間を過ごすのである。平本は今日、それを初体験した。そしてピットへと戻ると……愛知支部の原田幸哉、池田浩二の両先輩はもちろん、96期の同期=篠崎元志、下條雄太郎、魚谷香織が待ち構えていた……サンダル履きで。これはもちろん、あの儀式の合図。水神祭だ!

 2度目の戴冠といっても、やはり“シリーズ以外の”SG初戴冠はおめでたいのである。新田雄史は井口佳典とともにレース場を後にしていたが、九州の3人は同地区勢に優出者がいたので、最後まで残った。そして、平本の水神祭を行なうために、さらに居残ったのである。

 

f:id:boatrace-g-report:20171221160523j:plain

 というわけで、さあ行こう、水神祭。同期勢がサンダル履きなのだから、もちろん全員で飛び込みました。輪の中心で「96期サイコー!」と平本が叫ぶ。平本と3人は水中でハイタッチをして、喜びを分かち合ったのだった。なお、イケメン元志が溺れかけていたことをお伝えしておきます(笑)。

 平本真之よ、本当におめでとう!(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)