さすがに原田幸哉はうなだれていた。勝負駆けの今日、誰もが着順をひとつでも上げたいと考える。幸哉は無事故完走で当確だが、地元ＳＧで準優好枠がほしいと考えれば、無事故完走で良しとはしない。ただ、２マークの航法はやや無理があったか。かなりのスピードでターンマークに突っ込み、ハンドルが切り切れないで差してきた守田俊介と接触した。守田は転覆。妨害失格も致し方ない事象であった。
幸哉がうなだれていたのは、守田に対しての申し訳なさを強く感じたからだろう。守田は、自力でレスキューを降りはしたが、陸に上がって担架に横たわっている。足を引きずる感じがあったので、痛めたのは足か。同じレスキューで戻ってきた幸哉は、守田が担架に乗り込むのを見ながら、立ち尽くしていた。その幸哉に、松井繁が何か話しかける様子も見られたが、遠目に見てもわかるほど表情はカタかった。
こうした事態はどの選手にとっても他人事ではない。同じレースを走った吉田拡郎は、エンジン吊りを終えると川﨑智幸に「守田さんは大丈夫ですか？」と尋ねている。２マーク付近に停留するレスキューの外を回るたび、守田と幸哉の様子は視界に入ったはずだ。走っている間も、拡郎は守田を気遣っていたかもしれない。川﨑が「大丈夫大丈夫って言ってたけど」と答えて、拡郎は少しばかり安堵したようだった。
「電気からのコードが２本、プッチーンって切れてる」
ボートの引き上げに参加した篠崎仁志が、西山貴浩にそう報告した。西山は「嘘やろっ？」と驚く。たしかに、幸哉のモーターの電気部分あたりに、切れたらしいコードがぴーんと立っているのが見えた。幸哉が守田の前をカットするようなかたちで接触しており、守田のボートが幸哉のモーターに強い衝撃を与えたのだろうか。西山が驚いたように、少なくともビッグレースのピットでは初めて見たし、そんなこともあるのだと初めて知った。衝撃の大きさを物語る事象に、西山も仁志も顔を曇らせていた。彼らはその瞬間が自分にも起こったらとリアルに想像できるわけだから、複雑な感情が沸くはずだ。
これも勝負駆けのワンシーンなのかもしれないが、やはり事故は見ているこちらもツラい。とはいえ、安全運転のみに終始する勝負駆けというのもありえないというかつまらないわけで、なかなか難しい問題だ。事故に気を付けて頑張って、などという月並みなコメントしか思い浮かばないわけだが、結局その一言しかないような気もして……難しいですね。とにかく守田には（８Ｒは欠場）早くケガを癒してもらいたい。
ともあれ、勝負駆けというのは気合が入るもの、であります。18位で今日を迎えた峰竜太も勝負駆けで、もちろん気合が入る。１号艇だからなおさら。「気合の１号艇です」と言ってニヤリと笑った。「渾身の１号艇です」とも。さらには「捨て身の１号艇です」と続けたが……捨て身じゃあかんでしょ！ しっかり先に回んなさい！ ようするに、気合は入っているが、肩の力は抜けているのである。いいパフォーマンスを見せてくれるだろう。
茅原悠紀も勝負駆け。昨日は本当にいいレースだった。大敗したけれども、あれは褒めるべきまくり勝負だったと思う。ただ、失ったポイントは今日、取り戻さなければならない。１Ｒ、茅原らしいまくり差し炸裂！ 見事に突き抜けて、後半につなげた。８Ｒは１号艇だから、ピンピンまであるぞ。
「久しぶりに気持ちのいいターンができましたよ～」
心の底から気持ちのよさそうな笑顔で茅原は言った。まさに会心のレースだったのだ。その気分で後半に迎えるのはデカい！ 夜のピットでも、茅原の爽快な表情を見たいぞ。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 池上一摩 ＴＥＸＴ／黒須田）
