BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――智也の本音、池田の本音

 

 

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「智也さん、今日は東京まで帰りたいって言ってましたよ。優勝したら帰れないでしょ」

 今朝、そんな話を聞いた。昨日の優出会見でも、山崎智也は同じことを言っている。智也はいつだって、最終日のレースが終わると疾風のようにレース場を去っていく。優勝したときでも、本当に足早だ。まして、今日はナイター優勝戦。今ざっと調べたら、東京への蒲郡発の終電は21時11分。仮に優勝戦で敗れたとしても相当ギリギリな時間帯なのに、優勝したら後泊決定! 今日中に東京には辿り着きたいって……優勝する気ないんかい!

 そんなわけがないのである、山崎智也は。4カドからのまくり一撃でグラチャン連覇。智也の足を考えれば、池田浩二の前付けで内が深くなり、自身はカドに引けるというのはむしろ歓迎だっただろう。コンマ11のスタートもお見事なら、伸びて一気に絞めていったレースぶりは実に智也らしいもの。勝つ気マンマンだったのは間違いない。むしろ、負けたとしても東京まで帰れるということが、智也の肩から余計な力を抜いたか。「前操者の新実恵一さんが仕上げてくれたおかげ」と、ほぼノーハンマーで臨んだこともあって、今日はとにかく余裕。優勝戦直前には気合の入った表情を見せていたが、程よく気合が乗っている状態で、メンタル的には理想的な状態だったのではないかと思う。モーター、メンタルともに、勝負師・智也の力がもっとも発揮できる仕上がりだったのだ。

 

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 というわけで、喜びを爆発させるというわけではなかったけれども、凱旋した智也は嬉しそうにニコニコと笑っていた。東京に帰るより、優勝したほうが嬉しいのは明らかだ。だから、「今年は、あとは少し楽をさせてもらおうと思います」なんて言ってたけど、気分的に楽になるというだけで、これからもまたガリガリと勝ちにいくレースを見せてくれるはずだ。これでグランプリは当確だけど、当然ベスト6を視野に入れて走るはずだし。歴代単独3位となる、SG11冠。「まだまだ伸びしろはありますよ」と言い切る智也は、さらにタイトルを積み重ねていくことだろう。山崎智也、あんたはやっぱり強い! 強すぎます!

 

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 敗れた5人は、5人ともがはっきりと悔しそうな顔をしていた。1号艇で勝てなかった魚谷智之ももちろん。文字通り顔が引きつっていて、瓜生正義とすれ違うときにも、尻をぽんと叩きながらも、顔は引きつったままだった。9年ぶりのSG制覇が見えていただけに、獲り逃したという思いは強いだろう。

 

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 瓜生正義も、表情が硬かった。今日は前半の時間帯にモーターを割ったそうだ。準優で篠崎元志と接触したので、点検が必要だったのだ。大きな部品は交換しなかったが、バラした甲斐はあったようで、やるべきことをやって臨んだ優勝戦であった。瓜生は2年8カ月、SG制覇から遠ざかっている。それまでは5年連続SG優勝というタイレコードだったのに、そこからは見放されたようにSGを勝てていないのだ。ここは大きなチャンスだったし、智也がまくって展開も向いただけに、届かなかったことへの落胆は大きいはずだ。

 

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 毒島誠といえば、勝負どころで敗れたレース後の憤怒に燃えるかのごとき表情が印象的。本人はそういう表情を見せたくないようだが、隠し切れない心中がにじみ出る顔つきは、毒島には悪いが、実にカッコいいのだ。今日は、一瞬だけ、そんな表情を見た。智也先輩が伸びていくのをいちばん最初に至近距離で見たのだから、悔しさもつのろうというもの。個人的に、近いうちに毒島にはSGを獲ってほしいと思う。智也先輩のSG制覇をこれだけ間近に見てきて、それは嬉しいことには違いないけれども、自分に向けられる悔いはかなり蓄積されていると想像するからだ。その呪縛から解放されるためにも、結果が早く出されることを願いたい。

 

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 重成一人は、ヘルメットを脱ぐと、ふーーっと大きく息を吐いている。今日は、というか、今節はずっとそうだったけれども、ペラ室にこもり、とことん納得のいくまで調整をしていた。その様子は修行僧のようにも見えた。あのため息とも違う吐き出しは、それでも勝てなかったという脱力に近いものだったか。ちなみに重成のGⅠ初優勝は04年福岡周年。これが5号艇6コースからの勝利だった。今日も結果的に同じ条件。重成もそのことは頭にあったに違いない。その再現を狙っていたとするなら、やはり悔しくないわけがないのだ。

 

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 最後に、地元の池田浩二。渾身の前付けは、池田の闘志を最高に表現していたと思う。

 ただ、前付けが奏功しなかったこと、また地元Vを果たせなかったことに納得できるわけがないのも当たり前のこと。平本真之の前でヒザをガクンと折ってよろけてみせたり、西山貴浩の前で右腕を両目に当てて「ウェーン」と泣き真似をしてみたりと、おどけた様子を見せるのがまた池田らしいのだが、それが池田の悔しさの本質と思ってはならない。むしろそんな様子は本音を悟られまいとするパフォーマンスであると、僕はにらんでいる。

 勝つための前付けは、結果的には智也を利することになってしまったかもしれないが、地元で6コースから展開待ちみたいなレースはできないという気持ちを見せたことは、結果を度外視して、称えなければならない。グラチャン優勝戦を良質なボートレースに昇華させたのは、間違いなく池田浩二である。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)