BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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蒲郡グラチャン 優勝戦私的回顧

グラチャンの神髄

 

 

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12R優勝戦 進入順

①魚谷智之(兵庫)09

⑥池田浩二(愛知)11

②毒島 誠(群馬)13

③山崎智也(群馬)11

④瓜生正義(福岡)17

⑤重成一人(香川)12

 

 智也が超ウルトラカッチョいい4カドまくりで、グラチャン連覇。11個目のSGタイトルを鷲掴みにした。うーん、強かった。直前のスタート特訓では3本ともスロー発進。スタート展示も池田を入れつつ、これまた含みを持たせたスロー。いざ本番では、1ミリの躊躇もなく舳先を翻した。そして、4カドのダッシュ起こしからコンマ11全速の絶品スタート。同県の後輩を一瞬で置き去りにし、SG9Vのライバルを呑み込み、激しく飛びついたイン選手の抵抗を間一髪で交わし去った。すべてが完璧だった。スタートも絞めまくりも魚谷の突進も、ほんのわずかな迷いがあったらどこかしらで引っ掛かっていただろう。本人は「パワー勝ちです」とさらり口にしたが、そのパワーを200%生かしきったのは、智也の揺るぎない決断力と行動力、つまりは精神力だ。改めて思う。ちょっとナヨッとした感じに見える智也だが、これほど男前なレーサーは他にはいない。

 

 

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 勝者の勝ちっぷりだけでなく、レースそのものも実に素晴らしかった。「あっぱれ」をぺたぺた何個も貼り付けたくなる名勝負だった。まずは池田。地元ファンの期待を背に、果敢にコースを奪った。「6着だったのだから、結果的に動かなかったほうがよかったのでは?」なんて野暮なことは言うなかれ。池田は単に有利なコースを選んだのではなく、「イチかバチか、起こしが深くなっても勝つためにはこの戦法がいちばん」と腹に決めてギャンブルを打ったのだ。地元の意地という部分も含めて、その心意気を高く評価したい。

 

 

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 智也に連動した瓜生のマーク差しも、鋭く的確だった。あるいは、智也と同じだけスタートを張り込んでいれば突き抜けたかもしれないが、瓜生だからこその速く美しい航跡だった。

 6コースを“選択”した重成にも拍手、拍手。優出インタビューで「遠慮なく行くつもりです」と宣言したが、最終的に選んだのは「6コースから攻める」という潔い戦法だった。おそらく、今日の35号機の手応えがかなり良かったのだろう。この足なら、アウトからでも勝つチャンスはある、と腹を括ったのだろう。エース機の底力を信頼して、重成は迷いを捨てた。前付けした池田と真逆のようでいて、表裏一体。己が勝つために、ファンの期待に応えるために何をすべきか、その決意をとことん貫いたのだ。SG初タイトルには届かなかったが、今日の35号機は凄まじく噴いていた。瓜生を脅かす足に、鬼気迫るものがあった。エース機の底力を、余すところなく引き出していた。

 

 

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 そして、魚谷! 今日の魚谷は、大舞台のイン選手として非の打ちどころのないレースをした。前付けを浴びながら艇番死守、100m弱の起こしからコンマ09全速のトップスタート、まくってきた相手に徹底抗戦。自分が勝つためにやらねばならないことを、高いレベルでやり尽くした。それでも負けたのは、まさに勝負の綾だ。あれ以上、インの魚谷に何ができたというのだ。

 ただひとり、少なからぬ悔いが残ったのは毒島だろう。池田が前付けにきたとき、「入れるかどうか」をやや迷い、「入れるとしても、どこまで抵抗するか」でまた少し迷ったように見えた。その分、艇が先に進んで起こしが深くなった気がする。抵抗するフリをして入れる!と腹を決めていれば、3カドはともかくとして、より理想的な3コースを得られただろう。スタートでも、ややアジャストしたか。ワースト級の73号機を超抜の出足型に変貌させた毒島だったが、行き足の部分は魚谷や智也より劣る。コース取り~スタートでやや迷いがあった分だけ、その弱点がモロに露呈した。うん、正直、今日のところは同郷の大先輩とは「役者が違った」と言うしかない。悔しさとともに、本人もそう自覚しただろう。それでいい。偉大な先輩の迷いなきレースと背中を見て、今日、毒島はまたひとつ強くなった、はずだ。

 

 

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 まとめよう。池田の前付けによって内2艇が深くなった。有利なはずの3コース毒島のやや悔やまれる待機行動(ミスではない、完璧ではなかっただけだ)によって、4カド智也の絞めまくりが実現した。外の2艇はこの攻めにしっかり連動して、的確な差しハンドルを入れた。インの魚谷は身体を張って、智也のまくりを阻止しようとした。選手の作戦と勝ちたい意思と勝つための覚悟が流れるように連綿と絡み合い、智也の先制攻撃がわずかに他者を上回った。それくらいの、微差の勝利だった。「自分が勝つために!」という思いが、これほど綿密かつ的確に水面に反映されたSG優勝戦は珍しい。単に前付けがレースを面白くするとか、まくりがカッコいいとかいう次元ではなく、超一流レーサーたちの底力をとことん堪能できるレースだった。グラチャン=「SGの中のSG」というキャッチフレーズは、伊達ではない。(photos/シギー中尾、text/畠山)