BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――醸し出される空気

 

 

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 装着場の隅で、体育座りの重成一人。なんだかわびしい姿……。9Rのレース後で、重成の視線の先にはモニターがある。ちょうどリプレイが流れており、座り込んで見入ったわけだ。ほんの数歩だけ歩けば整備室、室内には当然モニターがあって、やはり9Rを走った辻栄蔵はこちらに見入っていた。整備室は冷房が利いていて快適なのに、わざわざ蒸し暑い装着場でチェックしなくても……。5着だった9R、それはまるで大敗を反省する姿にも見えたのだった。重成の脳裏には、きっと多くの悔恨が渦巻いていたことだろう。

 

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 10R6着大敗の篠崎元志は、あっという間に着替えを終えて、ピットにふたたびあらわれた。レース前に軽く言葉を交わしたことを思い出す。暑いのに爽やかだねえ。いや、汗でベタベタっすよ。元志でもベタベタになるの!? そりゃあ、なるに決まってるんだが、篠崎元志には不似合いな言葉。レース後はシャワーで汗を流してね! なんて思っていたのだが、元志はそんな暇もなくピットにあらわれ、整備室に駆け込んだのだ。元志が始めたのはプロペラ調整。サウスポーの元志は、左腕でハンマーを振るい、そこそこの力強さでペラを叩いた。おそらく調整に失敗したのだろう。ゲージを当てて形をチェックしながら、何度も何度もハンマーを打ち下ろしていた。それはまるで大敗の悔恨に打ち震えているようにさえ見えた。2日目ゴンロクで一気に予選順位を下げた元志。元志が振るうハンマーは、巻き返しの一打になるだろうか。

 

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 午後の時間帯、太田和美はゆったりとした時間を過ごしているようだった。エンジン吊りには控室から登場。ジャージのすそを2つ3つ巻き上げている。一見して、リラックスした風貌だ。こういうときの太田は怖い。足に手応えがあり、レースに集中するのみという状況であることが多いからだ。だが、今日ばかりは少し様子が違った。どこか不機嫌にも見える表情なのだ。

 まさかの6・6・6着なのだから、さもありなん。選手間では「オーメン」と呼ばれて恐れられている3連続6着。機嫌がよかったらおかしい。しかも、3走ともが不運な部分があった。足はたしかに悪くないはずなのだ。なのに、まくったら張られ、まくり差しを狙ったら前がふさがり、と展開に殺された感がある6着の連鎖。やっぱり不機嫌で当然だ。早くも予選突破が厳しくなってしまったわけだが、明日は少しは鬱憤を晴らすことができるだろうか。少なくとも6着3本の足ではないと思うのだが。

 

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 11Rで5、6番手争いを演じてしまった山崎智也と深川真二。以前書いたように、鳴門ではレース後のボートリフトは2艇ずつ。ありていに言って、まず1、2着が乗り、次いで3、4着、最後に5、6着というかたちになる。二人は11R組のラストに、陸に上がってきたわけだ。ボートを押して装着場に運ぶのはそれぞれの地区の仲間たち。ほぼ後輩ばかりだ。その後ろから、肩を並べて歩く智也と深川。足取りは重い。疲れも見える。

 二人は71期の同期生である。だからまるでそれは、揃って教官に怒られて落胆しつつ作業に戻る訓練生……と言ったら想像が飛躍しすぎだ。しかし、競ってのワンツーフィニッシュならともかく、ゴンロクを争う戦いになってしまったのは両者ともが不本意に決まってる。勝っても喜べない同期競り。ともにそれまではまずまず順調だっただけに、悔しさもつのる。

 

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 悔しがる人たちを連ねてしまったので、最後は清々しい表情を。2日目連勝は2人! まずは丸岡正典。3Rは4コースまくり差し、9Rは逃げ切りで決めた。9R後には、あちこちで報道陣に囲まれていた丸岡。ご機嫌な様子な丸ちゃんは、磁石のように人々を引き付ける。そして、必ず「アハハハハ!」という笑いが起こっていた。いつもの調子でひょうきんなことを言っていたのだろう。そして丸ちゃん自身はニャハハハハと笑っていたに決まっている。遠目で見ていても、なんとも微笑ましい空気が丸岡の周りには漂っていた。

 

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 もう一人の連勝は峰竜太。4カドまくり、イン逃げで決めている。峰は純粋に喜んでました。もうニッコニコ。昨日の岡崎恭裕のまくり差しを浴びたレースでも、「たーのし~~っ」とわらっていたわけだが、やっぱり今日の笑顔は昨日とは質がぜんぜん違う。あれは悔しさを隠すものでもあったのはやっぱり間違いない。

 青山登さんが5Rのカドまくりは今日のベストレースだ、と称えると、「いや、あれはエンジンが良くてまくっただけだから、ベストエンジンですよね」と軽妙な切り返し。舌も絶好調だ。ひとまず2日目終了時点での予選トップに立って、気持ちも完全にノッてきた。今度こそ、なのか? 明日もまた結果を問わず笑顔を見せることがあったのなら、その奥にあるものを探ってみるとしよう。(PHOTO/池上一摩 黒須田 TEXT/黒須田)