BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――安堵

 

 

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 11R、寺田祥が5着に敗れ、丸岡正典が3着に終わったことで、峰竜太の予選トップがほぼ決まった。無事故完走なら、6着でも得点率で誰にも抜かれない。果たして、峰はそのことに気付いていたのかどうか……。

 展示から帰ってきたところで、岡崎恭裕が教えてました(笑)。峰は自身の状況を知ったうえで、6コースからのレースに臨んでいたわけだ。もっとも、それがレースに影響していたとはまったく思えないですよね。6コースからさくっとまくり差して2番手浮上。しかも道中では先頭に迫る勢いもあったのだから、知っていようがいまいが、オール2連対はキープされたはずだ。いや~、強い。

 

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 12Rの結果を受けて、田中信一郎が18位に浮上した。6・00の上位着順差で、11R終了時点では次点に沈んでいた田中。白井英治が大敗を喫したことで再浮上を果たしたのだ。田中はそれに気づいていたかどうか、といえば、まるでわかっていないようだった。旧知の記者さんに知らされて、「うそっ! 俺!? 生き返ったん?」と口を押さえているのだ。すでに諦めかけていた予選突破がかなって、田中の顔には深い笑顔が浮かぶ。18位に残れさえすれば、優勝の可能性も残されるのだから、テンションが一気に高まって当然である。

 そこに、12Rを戦い終えた峰竜太が戻ってきた。田中がニコニコ顔でからかう。

「お前が1位で、俺が18位やからな。明日は80mから起こすから」

 6号艇から前付け宣言!? いや、あくまでも峰をからかっての発言だから、実際の戦略はわからない。しかし、田中のゴキゲンっぷりは伝わってきて、こちらも大笑いしてしまったのだった。そこに高揚感があると、近くにいる者にも伝染するのだ。もちろん、6号艇の田中には前付け策は充分にありうる。悲願達成の大チャンスを迎えた峰だが、12Rは決して一筋縄ではいかないし、その意味で実にエキサイティングなレースになりそうで、峰がどうクリアしていくのかも興味の的になろう。

 

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 情勢がじわじわと見え始めた終盤のレースにおいて、19位以下からのジャンプアップを果たす選手は少なかった。8Rが終わった時点で20位にいた石野貴之が2着で圏内に上がったくらいか。逆転を目指す選手はことごとく勝負駆けに失敗し、圏内を守りたかった選手たちが逃げ込みに成功する、という流れになっていた。

 

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 だから、ピットの空気としては、安堵が強く感じられたということになる。たとえば11R1着で18位以内を守った菊地孝平。エンジン吊りを経てヘルメットをとると、笑顔は見えずに、ひとつ大きく息を吐いている。視線を下に向けて、目つき自体は柔らか。勝利の歓喜にひたっているというより、「よかったぁ~」という声が聞こえてきそうな、安らかな表情になっていた。

 

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 10Rを逃げ切った池田浩二も同様。池田は大敗さえしなければ残れる計算だったが、決して楽観していないようだった。理由は、隣の2号艇に石野貴之がいたこと。ピットに上がってきて石野に「同体だったらアウトだっただろ」と声をかけていて、スタートで先行しなければまくられると考えていたようだ。二人は並んでスリット写真を確認。池田の艇が3分の1艇身ほど前にいるのを見て、顔を見合わせて笑っていた。スタートタイミングはコンマ04。池田はスタート踏み込むしかないと考え、それを実行したのである。

 

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 7Rでは、岡崎恭裕が1着条件の勝負駆けを成功させている。数少ない逆転予選突破の一人だ。11R発売中の時間帯、装着場で顔を合わせると、岡崎は両手を横に大きく開いて「セーフ!」。なんとか滑り込めた、という意思表示だ。こちらも両手を横に開いて返す。

 終盤の時間帯、岡崎はゲージ擦りに励んでいる。隣には篠崎元志。時に言葉を交わしながら、明るい表情で作業を進めていた。最初の関門を超えた安堵で、気持ちも楽になったか。桐生への道を閉ざさずに済んだことの精神的効果は大きいだろう。明日、この安堵がどんな精神状態に変換されるのか、それを見るのが楽しみだ。

 

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 勝負駆けを果たせなかった選手たちは、それほど悔しさをあらわにする選手は見当たらなかったが、一方で無事故完走で当確だった寺田祥が唇を強く噛み締めている姿が印象に残った。寺田は11R出走の時点で、予選トップの目があった。ライバルの丸岡正典、峰竜太は6号艇で、自身は2号艇だったから、チャンスは充分にあったと言っていいだろう。しかし、5着大敗で一気に得点率を下げてしまうことに。丸岡にも先着を許してしまっており、準優1号艇も遠ざかってしまっている。そうした状況に対してのもやもやも胸に残っただろうか。寺田にはクールなイメージもあるが、胸の奥に秘めるものはアツい。その一端を見たような気分になって、寺田には申し訳ないが、カッコいいと思った次第である。

 

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 さて、最後に峰竜太に戻ろう。岡崎に無事故完走でトップと聞かされたとき、峰の表情はほとんど変わっていない。また、田中に80m起こし宣言をされたときも、ただただ笑顔を返すのみだった。前者では「マジッ!?」みたいな驚きや喜びがなかったし、後者では「勘弁してくださいよ~」的な軽口もなかった。早くも緊張し始めている、と僕は思います。しかし、そんななかでも今日の旋回ができているし、昨年の夏にもこの経験をしているわけだし、そのあたりを取り沙汰しても仕方ないかな、という気もしている。自分との闘い、なんて言い方も、もはや陳腐に過ぎるだろう。緊張し始めている、という姿を、僕はむしろポジティブに捉える。ようするに、大一番での「いつもの峰竜太」がそこにいるということだ。そうであることに、僕は安堵を覚えるのである。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)