BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――勝者たちの表情、そして重いピット……

【10R】丸ちゃんワールド

 

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 丸岡正典が優出会見の会場に着いたころ、まだ池田浩二の会見が続いていた。5分ほど待たされただろうか。池田が会見を終えて会場を出ると、丸岡が一言。「長い」。池田は大爆笑!「俺に言うな!」と大笑いしながら池田は去っていく。たしかに、長くなった責任は池田にはない。

 で、丸岡の会見。池田より長くなった(笑)。順番が逆だったら、池田に「長ぇよ」と言われていただろう。質問が多く続いたのはたしかだが、要因はほぼ丸岡のほんわかしたしゃべり方とコメントだ。

「成績がいいので、何かがいいんでしょう。何か? わかりません。……どうっすか? いい? …………わからん、わかりません(笑)」

 こんな調子でほわほわとしゃべっていたら、そりゃあ長くなる。そしてまた、その会話がなんとも心地いいのである。いつまでも丸ちゃんの話を聞いていたいような。だから、報道陣の質問も増える。これぞ丸ちゃんワールドだ。

 結果的に、明日も丸ちゃんワールドに触れられる可能性は格段にアップした。一筋縄ではいかない鳴門のイン戦だが、枠番的に勝つ可能性がもっとも高いのは丸岡である。もし優勝して会見にあらわれたとするなら、丸ちゃんワールドはさらに膨張して、大爆笑の渦となるだろう。

 

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 池田浩二の会見は、ふだんよりずっと饒舌と思えた。「蒲郡が10だったとするなら、今回は1」なんてリップサービスもあったりして。池田の話を総合するなら、今回の体感はあくまで普通であって、蒲郡のほうが感触はよかった、という程度のことのようだが、話をわかりやすく(面白く?)するために、大袈裟に話したのだろう。間違いなく、気分がいいのだと思う。

 レース後の歩様も力強かった。勝った丸岡と肩を並べて控室に戻るその後ろ姿は、どちらも勝者に見えるほど、誇らしい姿と映った。「3カドというのもあって、少しでも行こうと思った」というスタートは、コンマ05。昨日もすぐ右隣に超抜の石野貴之がいて、同体ならまくられると決意のコンマ04を決めている。2日続けて気持ちの入ったレースをして、結果も出したのだ。充実感が生まれていてもおかしくはない。

 明日もこの気持ちでレースに行けるのなら、非常に怖い存在となる。なにしろ、枠なりなら石野をマークできる立場だ。すでに池田の脳裏には戦略が浮かんでいるはずだ。

 

【11R】超特急イシノ号

 

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 満面の笑顔で引き揚げてきた石野貴之に、山崎智也が歩み寄って声をかける。

「ひっどい足っ!」

 このひどいは、悪い足、ではない。とんでもなく凄すぎる足、である。あっさり交わされたのがかわいい後輩だったから、その意味でもひどいということかもしれないが。

 それを受けて石野は、たしかに「鬼足」と返したように聞こえた。そう、まさに鬼足! 準優でもっともインパクトのあるパワーを見せたのは、あれを見た人なら全員が異口同音に、石野貴之だったと言うだろう。

 交わされた毒島誠が、こんな表現をしていた。

「(僕は)鈍行列車みたいでしたよね。隣を快速がぶーんと追い抜いていった」

 話が進んでいくと、毒島は「快速」を「のぞみ号」と変化させた。新幹線に格上げである。鈍行とのぞみじゃあ、そりゃあ抜かれても仕方ない。「足合わせをして、小自信をもってレースにいったんですけど、嫌になっちゃいますよね。自信が過信だったと思い知らされました」とも毒島は言っていた。お手上げのていだ。

 石野は優勝戦の3カドも匂わせていて、明日はその意味で進入から注目だ。もちろん枠なりとは限らないが……。前付けがあれば、喜んで入れて4カド、とも言っているが、誰も石野の内、しかも深くなる内には入りたくないよなあ。ただ、落として差しても差さらない足、だとも言っている。石野を止める艇が内にいるのなら、他の展開もありそうだ。

 

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 それにしても、毒島誠は凄すぎでしょ。グラチャンと今回の共通点は「前検では泣きまくり、ドリーム戦は見せ場なく大敗、今節は厳しいなと思わせられたのだが、それを立て直して優出にこぎつける」。そうそうできる芸当ではないぞ。毒島はまた「整備士さんのおかげ」と謙遜しそうなので話しかけてはいないが、毒島の強さは並外れた旋回力だけではないのである。今節は5コースがけっこう来てますよね。鳴門の特色とも言える5コース戦の強さ。3コースから石野がまくり、4コース池田がマーク差し、その瞬間に毒島が全速まくり差し……そんなシーンがあってもおかしくないと思うぞ。

 

【12R】桐生への道

 

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 すでに書いたが、岡崎恭裕は勝負駆けである。優勝してメモリアルに出る。福岡支部の推薦6枠に入れなかったことは屈辱だった。だが、桐生に行く方法はまだ残されている。昨日、7Rで1着条件の勝負駆けをクリアして、桐生への道はつながった。そして今日、逆転2着でその道をさらに伸ばした。あとは明日、先頭でゴールするのみ、である。

 とはいえ、6号艇での優勝戦は、簡単ではない。「石野さんが3号艇? それは面白いですねえ」と言うが、それでも枠なり6コースから差し切れるかどうか。コースを聞かれた岡崎は、「たぶん6コース」と言いながら意味深に笑っている。本当に6コースかと確認されて、やや口ごもったところもあった。さあ、ROAD to 桐生を完結させる岡崎の一手は何だ!? 今ごろ宿舎で秘策を考えていると見た。

 

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 勝った新田雄史は、まずはピットに淡々と戻ってきている。状況を考えれば、手放しで喜べない勝利だったかもしれない。空気を読んだところも少しはあったか。それでも、展開を突き、道中捌いて2番手を走ったのだから、自力で優出をもぎ取ったのは間違いないことだ。新田の勝利は決して恵まれではない。

 淡々とした様子は、会見でも変わらなかった。興味深かったのは次の発言。「一般戦ですごく悪いエンジンを引いた。でも、そのおかげで立て直せるようになった。一般戦で修行してSGへ、という感じ」。新田のSG優出は13年グランプリ以来である。自身も「ずいぶん長く開いた」と語るように、このところSGではなかなか結果が残せずにいた新田だ。それが、ひとつのきっかけで久々の優出にこぎつけることができた。あの年の新田は鮮烈な走りを見せてくれていたが、さらに強くなって明日の優勝戦に臨むということだ。足は間違いなくいいだけに、明日は遠慮なく喜びを表現する新田に会えたとしても何も不思議はない。

 

 と、12Rはここで終わらせるわけにはいかないだろう。

【12R】力強くSGに戻ってこい!

 

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 今日は一日、ムシムシとしていたピットが、その瞬間さらにずずーんと空気を重くした。

 峰竜太、田中信一郎、フライング。

 今まで、田中のあんな表情を見たことがない。事の重大さを全身で受け止め、悔やみ、苦しみ、背徳の思いに苛まれ、己を徹底的に責める、そんな表情。田中らしい力強い顔つきは完全に消えていた。落胆よりも何よりも、やってはならないことをしてしまった、という後悔だけを感じているようにも見えた。

 

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 峰の顔は、ちょっと正視するのがつらかった。一昨年のヤングダービーでの優勝戦でFを切ったとき、ただただ悲痛な表情を見せていたときのほうが、まだ見ていられた。昨年のメモリアル優勝戦を1号艇で敗れたとき、大泣きしていたのは想定内だった。そうした悲しみの峰竜太とは、今日は違ったと思う。

 ピットに戻った峰は、エンジン吊りを待ち構えていた何人かの選手に、自ら一声、かけていっている。その言葉は聞こえてはこなかったが、相手は何も返せないでいたし、それはどこか毅然とふるまおうと無理をしている様子に見えた。その直後、表情は完全にフリーズした。涙は見せまいとしているのか、それともこの後に受けなければならないペナルティに思いを致して愕然としているのか。泣かないのが成長と思ったり、しかしまだ泣いたほうがこちらも見ていられたと思ったり、僕の気持ちもふらふらと揺らぐ。

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 二人は、向こう4つのSGに出場できない。メモリアル、ダービー、チャレンジ、グランプリ。いや、グランプリは例外となるから、これは出られる可能性はある。今日時点で田中信一郎が8位、峰竜太が18位。田中は可能性は充分にあるし、峰もすでに入っている3つのGⅠで結果を残せば可能性はゼロではない(シリーズ戦はペナルティ対象になる)。

 いずれにしても、峰と田中には、力強くSG戦線に戻ってきてほしい。フライングはもちろん褒められることではないが、しかし勝負に出た結果の勇み足である。僕個人は、その思いについては否定したくない。二人がいないSGは寂しすぎる。この悔いを振り切って数カ月後、またSGで暴れてくれる日が来るのを僕は待っている。峰については、もうこれ以上の試練はないのだと僕は信じる。次の機会は絶対に悲願達成だと堅く信じている。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)