BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――強き男

 

 

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 まず、いちばん悔しいのは、やはり丸岡正典だろう。あの展開で2着に残したのはさすがと言うほかないが、しかし優勝戦で2着は意味がない。相手が後輩だったとかは関係ないだろう。1号艇を活かし切れなかったことがただただ悔しい。レース後の表情は、レース前の緊張感とは違った意味で、硬くなっているように見えた。大阪支部勢も複雑だったか。最強支部と自任する、その通りの結果=大阪ワンツーだが、1号艇の敗戦はやはり意味合いが大きい。ウィナーがインタビューなどでなかなか装着場のほうまで上がってこなかったこともあってか、歓喜の表情は仲間からはすぐにはうかがえなかった。丸岡への気遣いもあったのかもしれない。

 

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 展開を作るかたちとなった新田雄史も、やるべきことはやったはずだが、悔しさをあらわにしていた。ボートリフトに乗る直前、ヘルメットの奥で顔を思い切り歪めていたのだ。丸岡を叩いて回った瞬間には、優勝も見えただろうか。だとするなら、2マークの展開に悔いは残る。あるいは、バック最内をするすると伸びていったウィナーの足色に呆然たる思いもあったか。

 

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 池田浩二は、ボートから降りて、やるせなさそうにヨロヨロとした足取りで上がってきている。あの展開で3番手を競ったのだからテクは見せた。だが、丸岡同様、それではやはり意味がない。上瀧和則選手会長に労われたときには苦笑で顔が歪み、モーター返納作業をしている間にも、何度か顔に苦味を浮かばせて悔しさを表現していた。想定外の展開だったこともまた、苦笑いを生む要素になっていたか。

 

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 毒島誠は見せ場を作ることができずにシンガリ負け。陸に上がってヘルメットをとった瞬間、眉間にシワを寄せる憤怒の顔つきを見せたが、その後はどちらかというとサバサバしている感もあった。毒島は今日、昼頃の時間帯に本体をバラしたそうだ。その情報を得て本人に確認すると、昨日調整を絞りすぎて本体がバテていたので、組み直したとのこと。それで感じはよくなっていると、明るく語ってくれている。今節も序盤の苦しい足色を立て直した毒島は、最後の最後までやれることはやり尽くした。レースの展開についてはただただ悔しいものになったとしても、充実感を抱いてもいいだけの戦いを見せたと思う。今節も毒島誠はひたすら強かった、と思う。

 

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 岡崎恭裕については、やはり6コースは遠かったか。石野が差す展開では、さすがに苦しい。それでも2マークでは内から捌き合いに参戦しているのだから、大健闘だ。モーター返納を終えた整備室にいた岡崎は、こちらの姿を確認して、苦笑しながら両手でバッテンを作った。残念ながら勝ち筋はなかった、ということか。全力で差しを突き刺すのみだった岡崎には、内の展開が把握できていなかったようだ。特に、岡崎の位置からは、まくって外にいた新田の姿が丸岡の死角になって見えていなかったという。だとするなら、2マークの展開には悔しさが残る。

「ヤングダービーで!」

 そう言って去っていく岡崎。残念ながら、桐生への道は最終章でクリアならずに終わった。メモリアル落選の鬱憤は、望むかたちで晴らすことはできなかった。しかし、その方法はまだまだ残されている。SG優勝でもいいし、グランプリ出場でもいい(賞金ランクは10位に浮上!)。グランプリの選考締切まではあと4カ月ほど。岡崎の“リベンジ”はここからが本番だ。

 

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 勝ったのは石野貴之だ。パワーは申し分なし、1マークでの判断力とハンドルも文句なし。想定していたまくり一撃ではなかったけれども、見事すぎる優勝である。オーシャンカップ連覇もすごいが、ただただ石野貴之がすごかった。

 レース直前に気合が入っているのは当然だが、展示から戻ってきた優勝戦メンバーは、どこか腹が据わった様子に見えたものだ。池田や毒島は柔らかい表情も見せていたし、いい集中力を保ちながらも、肩の力がいい意味で抜けているように見えていた。石野だけが違った。勝負どころで見せる、強烈すぎる目力。8Rあたりや、展示ピットにボートを移して上がってきたときなども、いつも通りの石野の凛々しすぎる顔つきにふるえたものだが、それが展示後にも保たれていたわけである。会見では「集中力は保っていたが、少し余裕がありました」と語っていたが、そうしたなかでもあの表情が見られたのは、石野が自然と勝負モードに入れていたということだろう。何度その表情のもとでの大仕事を見てきたことか。その意味では、3号艇での優勝ながら、順当な優勝であったとも言えるだろう。

 

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 初日ゴンロク発進ながら優出を果たし、1号艇以外でSGを勝てたことで「自信がついた」と石野は会見で語った。強きメンタルで凛々しく戦う石野に、またひとつ自信が積み重なったとするなら、石野貴之はさらにさらに強靭な男になっていく。年内はGⅠに出られないので最多勝を獲りたいと石野は言ったが(現在は1位と12勝差の12位)、MVPと最多勝の同時受賞という極めて珍しい事態も、石野なら実現できるような気がしてくるな。SG3Vがたまたますべてオーシャンだが、「5大SGを獲りたい」が実現するのは時間の問題だ。記念すべき58年ぶり鳴門SGは、強き男が強い勝ち方で勝ち切った。「どうなる鳴門? どうなるオーシャン?」の答えは、それだ。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)