BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――それぞれの笑顔、それぞれの心中、それぞれの走り

10R 津、好相性につき

 

f:id:boatrace-g-report:20171221201134j:plain

 実力者・中谷朋子がレディチャン初優出。第1回クイーンズクライマックスにも出場したほどの中谷が、どういうわけかこの大会ではなかなか結果を出してこれなかった。16回出場して予選突破が3回とは意外すぎるだろう。レディチャンとはずっと相性が悪かったのだ。

 そうした苦労が多いからか、これまでともに戦ってきた先輩たちが中谷を祝福していた。よく絡みを見かける谷川里江や山川美由紀、岸恵子らが努力が報われた中谷を笑顔で迎える。山川は両手でハイタッチをしていたし、レース後のもろもろの作業を終えた中谷には大声で「おめでとう!」と声をかけている。中谷自身は全身で喜びをあらわす、というほどではなかったけれども、会見などでも気持ちのいい笑顔を見せていた。初優出、嬉しくないわけがない。

 で、レディチャンの相性がいまひとつだった中谷だが、津の相性はいい。今年に入って2月と3月に連続優勝をしているのだ。しかも、2月のほうは男女混合戦、1号艇は石野貴之である。中谷自身、会見で「水面が合う」と口にしている。レディチャンの魔を撃破した今、この好相性は怖い。今日と同じ5号艇、侮るわけにはいかない。

 

f:id:boatrace-g-report:20171221201150j:plain

 その中谷に輪をかけて津と好相性なのが、勝った田口節子だ。津では6節連続優勝。もう何年も、津では優勝を逃していないのだ。ちなみに、かつて津のオール女子は「レディースチャンピオンカップ」という名称だった。津のレディチャンで勝ちまくっているのである。GⅠ復帰戦となった今節でいきなり優出を果たしたのもむべなるかな。彼女自身の実力はもちろん、津との好相性が彼女を後押しした部分もあったかもしれない。

 その田口を真っ先に出迎え、ハイタッチをしたのは、岡山支部勢ではなく、同期の佐々木裕美だった。銀河系たった二人の女子選手である田口と佐々木は、まさしく盟友。苦楽をともにしてきただけに、お互いの活躍がやはり嬉しい。三国で田口がレディチャン初優勝を果たしたとき、レースを見ながら涙を流していた佐々木を思い出す。もちろん今日は笑顔、笑顔。明日も田口の戦いを祈りながら見守るだろう。

 

11R “東近畿”独占

 

f:id:boatrace-g-report:20171221201203j:plain

 いやはや、2着争いが実にアツかった。香川素子vs遠藤エミの滋賀支部競り。もちろん仲良しの二人が、真っ向から剣を交えて激突した。突っ込み気味の先マイもあった。接触もあった。びっしり3周2マークまで競り合って、軍配が上がったのは後輩の遠藤。優出の分水嶺となる2着と3着、同支部で壮絶な明暗が生まれた。

 

f:id:boatrace-g-report:20171221201216j:plain

 レースが終われば、笑顔でノーサイド! 後輩であり、勝者でもある遠藤から香川に駆け寄って頭を下げ、それに対して香川は実に美しいスマイルを返した。負けたとはいえ、そのバトル自体がとても楽しかった、とでもいうような顔で、遠藤の優出を祝福してもいた。ボート洗浄のあいだ、装着場の隅に置かれていた遠藤のヘルメットを拾い上げ、遠藤に持って行ってあげたのも香川。遺恨などまったくないのである。遠藤も恐縮しながら、香川に笑いかけていた。

 

f:id:boatrace-g-report:20171221201226j:plain

 勝ったのは今井美亜だ。西村歩の攻めを受け止めての逃げ切り。快勝だ。福井支部単独参戦であり、しかも“東近畿”勢が揃っていたこのレース、今井を出迎えたのは大阪の原田佑実。金田幸子もエンジン吊りやボート洗浄を手伝っていたな。そしてこの二人が、今井に祝福の声をかけ、3人で愉快そうに声をあげて笑っていた。

 印象に残ったのは、会見での言葉。11R終了時点でわかっているのは、優勝戦は1号艇か2号艇ということ。12Rの結果でどちらか決まる。

「どっちの枠でもチャレンジャーだと思っています」

 結果は2号艇であるが、仮にポールポジションであってもその思いを持続できれば、明日は震えることなく戦えるだろうと思った。2号艇ならなおさらである。

 そうそう、結果は福井&滋賀の“東近畿”勢が上位独占! 今井と遠藤は今井の愛車で一緒にレース場入りしてもいる。支部人数はいずれも多くはないが、そのなかからプレミアムGⅠの準優を盛り上げる3人が出たのだから、すごいことだ。レース後に3人で笑い合っているシーンもあったぞ。

 

f:id:boatrace-g-report:20171221201241j:plain

 敗者組については、細川裕子はピットに戻るや首をひねり、平山智加もまた首をひねり、攻めてレースを作った西村歩は表情を硬くして視線を下に向け、黙々と控室へと戻っていった。細川は展開的にかなり厳しくなっていたが、西村と平山は勝利もしくは優出を意識した瞬間があっただろうから、悔しさもひとしおだろう。特に、西村の唇をかみしめるかのような表情が印象的だった。ナイスファイトだったぞ!

 

12R 申年の女王へ

 

f:id:boatrace-g-report:20171221201252j:plain

 レース前、記者さんと「このシステムは予選トップに厳しい。1号艇で3回逃げなきゃいけないのは、プレッシャーも大きいはず」てな話をした。事実、準優進出戦制で行なわれたプレミアムGⅠで、昨年マスターズの今村豊以外はすべて、優勝戦に乗れていない。ミスターはお化けモーターでパーフェクトVを果たしたわけで、それはむしろ例外か。ジンクスに過ぎないとはいえ、それなりの理由もありそうな、予選トップの魔、である。

 海野ゆかりはあっさりとクリア! 谷川里江が握手で祝福し、海野は思い切り目を細めて笑っていた。プレッシャーがあったかどうかは、ちょっとわかりにくい。また、明日にプレッシャーが降りかかってきそうかどうかも、ちょっとわからない。海野自身、「(3日連続賞典の1号艇は)初めてなので、どうなるのかわからない」と口にしている。3日連続はともかく、優勝戦の1号艇は当然重圧が生まれるものだが、海野がそれとどう付き合っていくのか、明日になってみなければわからないだろう。明日もわからないかな。勝てば12年ぶりの女王戴冠、12年前は1号艇での優勝だった。ひとまず、優勝戦ポールポジションは経験済、そしてクリア済である。

 ひとつだけ思ったのは、精神状態の良さがうかがえることだ。会見で「レースが自信にあふれている」と問われて、「自信出そうと努力してるだけです。チキンなんで」とにっこり笑った。僕のこれまでの海野のイメージは、そういう弱さのようなもの、あるいは本音を見せまいとする言葉を使う、というもの。それが、今日はやけに素直に自分をチキンと言った。僕はそこにポジティブなものを感じる。

 

f:id:boatrace-g-report:20171221201305j:plain

 2着は小野生奈。海野には及ばなかったものの、1マークまくって、2マークも握って寺田千恵をしりぞけ、優出という点に関しては会心のレースと言っていい。もちろんレース後の表情は非常に明るかった。

 優出会見は、個人的に面白かった。僕がいたのは会見場の最後方。小野の会見が始まってしばらくすると、インタビューなどを終えた海野があらわれ、僕の隣で待機することとなった。先輩を待たせている、これは若手の小野にとっては恐縮極まりない。しかも、おそらく海野の顔は歪んでいた。これは後輩にはキツい。実は、海野は地上波中継、JLCなどのインタビューに駆け回り、着替えをする間もなく、額の汗をぬぐう間もなく、会見場に到着。ずっと「暑ぅ! 暑ぅ!」と小声で言い続けていた。別に待たされていることに怒ったわけではまったくない。ひたすら暑がっていたのである。

 

f:id:boatrace-g-report:20171221201317j:plain

 その後も海野は落ち着かない。かたわらにちょうど洗面台があって、それを見つけた海野は手や顔を洗ったりもしていた。職員の方からおしぼりが渡されて、それを頭に巻いたり、「このおしぼり、もらえます? ほんとに! ラッキー!」なんて笑ったりも。それを見て大笑いした僕を見て、「せこいって思ってるでしょっ!」と言って肩をバシーンと叩いてきたりもしたりして(嬉しかったっす!)。むしろゴキゲンですらあったわけである。小野の言葉を興味深そうに聞いていた場面ももちろんありました。

 で、ひと通りインタビューが終わって、代表質問の記者さんが「ほかに質問ある方」と後方に振ると、コンマ15くらいのタイミングで「ありがとうございました!」と小野が打ち切ってしまった。これ以上海野さんを待たせるわけにはいかないんです、といったところか。海野も思わず「ええええっ!」と驚いて声をあげたその瞬間、小野の心情を想像して、すみません、笑ってしまったのでありました。うん、生奈選手、気持ちはよくわかります(笑)。

 もちろん、レースでは先輩に遠慮するつもりはないだろう。明日は4号艇。カド一撃で海野を沈めるつもりで明日は臨むはず。もちろん海野もそれを承知の真っ向勝負。水の上では先輩も後輩もないぞ!(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)