BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――レース前のふるまい

 

 

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 午後イチのピットはやけに静かだ。装着場には入れ代わり立ち代わりで1~2人があらわれるが、人数が増えていくことはない。係留所からのモーター音もそれほど大きくは聞こえず(ということは、回転調整などしている選手はまばらで)、昨日までの午後イチに比べればずっと、全体の音量は小さい。一方で、ペラ調整所は盛況。整備室はもぬけの殻だったから(整備士さんの姿はあったが)、ほとんどの選手がペラ調整(微調整)の段階に入ったということだろうか。桐生のペラ調整所は、ペラ室と、その外に設けられた臨時(?)調整所の2カ所だが、外でひとり、カーンカーンと響く音を立てて叩いていた選手がいた。たぶん下條雄太郎だと思う。

 

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 1Rのスタート展示が終わって、出走選手たちがピットに戻っても、状況は変わらない。それにしても、レースを直前に控えた選手たちの様子は、一様に緊張感を漂わせてはいるが、本当にそれぞれだ。工具を整備室付近に置いて、待機室に戻る選手を見ていると、それだけでも飽きない。たとえば、辻栄蔵はまっすぐ待機室に向かう様子はなく、装着場を散歩しているかのように、ふらふらとあちこちに歩を進めている。それが辻流の精神統一なのだろう。足を踏み出すごとに、集中力が高まっていくのかもしれない。

 

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 毒島誠は、工具を置きに行くときから、視線は下に向けられている。その目つきは鋭利で、地面をにらみつけているような趣きがある。気合が乗っているのは明らか。闘志がすでに高まっているのだろうとハッキリわかる。

 

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 市橋卓士は、いったんボートリフト前に歩を進めている。そこからほんの1~2秒ほど水面を凝視。風なのか、波なのか、とにかく水面の様子をチェックしているようだった。こうした選手はほかにもよく見かけ、発走直前に待機室を少しだけ出て、水面を眺める選手もいる。そうしたなかで、1~2秒というのはかなり短い部類に入るのではないか。もしかしたら、儀式的な意味もあるのかもしれない。

 

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 そうそう、レース前の様子ということでは、発走時間がやってきて、整列して敬礼し、係留所に移動してボート前でふたたび敬礼、という一連の流れがある。その敬礼後、柏手を2回パンパンと打ち、軽く上下に跳ねて、もう一回柏手を打つ、というのは松井繁のルーティン。僕は王者の舞と呼んでいるのだが、1Rの長田頼宗がこれをやっていた! 最後の柏手はなかったが、そこまでは酷似。王者とよく似たルーティンをもつ男がこれからどこまで王者に迫れるかに注目してみよう。

 1Rのエンジン吊りが終わると、ふたたび静かな空気に戻っていったピット。夕方以降もそんな気配のまま推移するのだろうか。

 

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 さて、2Rを勝ったのは守田俊介。カポックを脱ぎながら池田浩二とひとしきり感想戦を繰り広げたあとは(池田に「うまい!」と称えられてました)、エンジン吊りを遅れて終わらせた飯山泰と遭遇した。守田は右手を軽やかにあげて「ありがとう!」。そこで飯山の苦笑いが浮かんだ。

「もう、上から目線なんだから!」

「あはは、たまにはな!」

「くそー、上から目線……ダービー王だからしょうがないか」

 守田はおかしそうに笑いながら、勝利者インタビューへと向かうのだった。同郷の者として、飯山の気持ちに同調します! 次の対戦では守田を破って、上から目線で見下ろしてやれ!(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)