BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――一味違う

 

 

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 西山貴浩は、もちろん勝負師であり、ピットでの作業は真面目に真剣にこなしている。パフォーマーとしての顔とのギャップは、ピットにいれば必ず目にする。そうでなければ、この舞台に来られるわけがない。

 ただ、そうしたなかでも、軽口を飛ばしては選手仲間や報道陣を和ませ、笑わせることも多い。メリハリが利いているというのか、そうせずにはおれない性分というのか。西山の周囲で笑い声が巻き起こるのは日常茶飯事だ。

 しかし、今節はそんなシーンをまったくと言っていいほど、見かけていない。ピットにべったりと居ついているわけではないので、皆無と言い切っていいかどうかはわからない。しかし少なくとも僕は、それを見ていない。ペラ室や整備室、あるいはエンジン吊りなどではともかく、そもそも他選手との絡みも普段より少ない気がしてならない。一言で言えば、雰囲気がいつもと違って見える、のである。

 10R2着。エンジン吊りやレース後には、さすがに仲間と笑い合ったりする様子は見かけられた。ところが、仲間と離れると顔色がすーっと変わった。みるみる真顔になっていったのである。カポック脱ぎ場に行けば、他の選手もそこにいるから笑みがふたたび戻ってはいたが、西山があんなふうに表情を変化させるのは、ヘタすりゃ初めて見たんじゃないかと思う。一味違う西山貴浩。心中に何かが芽生えているのは間違いないと思う。

 

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 師匠の川上剛にしても、同様だ。川上もまた、ピットでは気さくに人々に接し、笑顔を振りまくタイプ。10日ほど前に芦屋のお盆開催に一日だけ行った際にも、こちらを見つけるとニコニコと寄ってきて、ひとしきり笑い合ったりしたものだ。しかし川上も、11R大敗後に仲間と笑顔を交わし合ったのち、カポック脱ぎ場に一人やってくると、一瞬で真顔になった。といっても、やはり対戦相手が周りにいるので、すぐに笑顔でレースを振り返り合うことになるのだが、本音がどちらかといえば、真顔のほうであるはずだ。川上は、この大敗で予選突破は絶望的となった。優勝戦線からは脱落した形だが、しかしやはり何かしらのスイッチは入っているように思われる。足はいいのだ。成績だけに惑わされると、痛い目を見る可能性があるぞ。

 

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 福岡勢では、篠崎元志がフライングに散った。ここまで、グラチャン=山崎智也が連覇、オーシャン=石野貴之が連覇という流れで来ているだけに、前年度覇者の元志にはひそかに期待していたわけだが、そういうこと考えたらダメなんですよね。舟券でも「何らかの連鎖に気づいたときには外れるの法則」もあるし。ともあれ、残念である。

 10R発売中に、水分補給中の元志に遭遇。目が合ったので、泣き真似をしてみせたら、苦笑いを浮かべて「ちょっとだったのに」と親指と人差し指を近づけてみせた。コンマ01、20cmのスリットオーバーには、元志の失敗とはわかりつつも、ツキのなさも感じざるをえない。なんとかならなかったか……という思いは、元志のなかにもあるかもしれない。

「フライングか優勝っすね」

 元志が言った。そうか。13年の優勝戦F、15年の優勝、そして今日のF。メモリアルでの元志は、なんとも激しい浮き沈みを強いられている。ってことは、来年は優勝だ! と言いたいところだが、来年のことを言えば鬼も赤城の雷神様も笑う。まずは残り3日、スタートを気遣いつつも、元志らしいレースを見せてほしい。

 

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 というわけで、お兄ちゃんの分まで頑張れ、篠崎仁志。今日は9R4着で、やや後退。明日はボーダー6・00として、2着条件の勝負駆けに臨む。枠番は1号艇! 待ちに待った好枠で、必勝の気迫で戦うだろう。レース後の仁志は、新兵仕事などもこなしつつ、ペラ調整。かなり強く木槌を振り下ろし、ガツンガツンと大きな音を響かせていた。今日の感触をもとにしての叩き直しか。明日は8Rだから、きっと前半の時間帯から調整と試運転を繰り返すのだろう。一味違う仁志を見せてくれ!

 

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 と、福岡勢を一気に書いてきたが、他支部で気になったのは、まず辻栄蔵。1R1回乗りだった辻は、10R発売中にペラ調整所にいた。もちろんペラ叩き。係留所を覗き込むと、「試」のプレートがつけられた辻のボートがある。辻といえば、展示ピットにボートを移動する時間ギリギリまでペラ調整を続ける男。メモに何度「辻=ギリペラ」と書いたことか。今日は試運転ができる時間ギリギリまでペラ叩き→試運転。こりゃもう、辻斬りならぬ辻ギリですな。辻は現時点で準優圏内だが、予断を許さぬ勝負駆けを明日は戦う。きっと明日も辻ギリの連発が見られるのだろう。ちなみに、太田和美も辻と同じタイミングまで試運転をしていました。

 

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 あと印象に残ったのは、菊地孝平の充実感いっぱいの表情だ。5コースからのまくり一撃は、もちろん会心。レース後にテンションが高くなっているのは当然だが、そこには誇らしさのようなものもうかがえた。予備3位からの繰り上がりということは、ようするに追加参戦ということだが、だから遠慮するなんてことはいっさいなく、失うものなき戦いと何にも恐れることのない勝負を挑む。今節の平均スタートタイミングはコンマ06! 持ち味を存分に繰り出せる菊地は、とことん強い。暫定3位の菊地は3R1回乗りで、上位陣では誰よりも早く予選を終える。ここで1着でも獲ろうものなら、ヒロリンや石野や魚ちゃんにプレッシャーを与えられる立場となる。聡明な男だから、それくらいのことは先刻承知で戦うだろう。今日の力強い表情を見れば、上位争いを演じるライバルにとってもっとも脅威なのは、菊地孝平だと思う。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)