BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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桐生メモリアル優勝戦 私的回顧

技ありの金

 

12R優勝戦

①石野貴之(大阪)14

②菊地孝平(静岡)12

③魚谷智之(兵庫)16

④柳沢 一(愛知)14

⑤長田頼宗(東京)19

⑥茅原悠紀(岡山)17

 

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 髪の毛一本ほどのわずかな“差”で、菊地が石野に競り勝った。それを実現させたのは、菊地の軍師的な頭脳と31号機のパワー。このふたつが絶妙にシンクロして、2マークの逆転劇を生んだ。

 今日の菊地のスタートはやや慎重なコンマ12。「桐生の施行者に選ばれた。だから地元代表のつもりで走る」という思いがあるから、絶対にスタート事故は起こせない。絶対に入っていると確信できる起こしから、フルっ被り全速でスリットを通過した。もろもろの事情を踏まえれば、やはり完璧なスタートと言えるだろう。そして、他の選手は菊地よりわずかに遅いタイミングで追随した。「菊地より先に行ったら危ない」という思いも含めて、これまた見事なスタートだ。見た目にはほぼ横一線。内の艇に有利な隊形になった。

 

 

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 1マーク、ほぼ舳先を並べて、石野が先に旋回する。このインモンキーにミスらしいミスはなく、小さく差した菊地のそれもノーミス(本人曰く「完璧」)だった。どちらもノーミスならインが有利としたものだが、ここで31号機の出足が生きる。菊地が全幅の信頼を置いている出足。先行する石野にじわじわ迫り、バック半ばで艇の1/3ほどを突き入れた。

 が、バック後半に入ると、今度は石野26号機の行き足~伸びがモノを言う。じわりじわり、菊地の舳先が抜けてゆく。息苦しいほどにスリリングなパワー勝負。2マークの100mほど手前で、菊地の舳先がほぼ抜けきったように見えた。ここだ。ここが明暗を分けた大きな勝負どころだった。舳先が抜けたにも関わらず、菊地はそのまま石野の内側に居座り続けた。まだ舳先が1cmほど入っているかのように、内で粘り続けた。セオリーとしては、外に開いて差し。それでは石野に届かない、と瞬時に判断した菊地の陽動作戦だった。

 

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 菊地がそろりと艇を外に開いたのは、2マークの30mほど手前だったか。内の菊地を押さえつけるように走っていた石野に、十分なマイシロはない。しかも、菊地がギリギリまで貼りついていた分だけ、ターンの初動がほんのわずかだが遅れたように見えた。

 一方の菊地にしても、わずか30mほどの間に艇を外に持ち出し、それからすぐに差しハンドルを入れるのだからターンミスのリスクは大きい。イチかバチかのギャンブルだったわけだが、菊地はそれを見事に成功させた。「次もできるか、自信はない」と振り返る絶妙な差しを決めた。この戦術&激差しにも、31号機の出足に対する信頼感があったはずだ。ギリギリまで粘って外へ、そして差してという断続的なハンドルワークには相応の出足が必要だ。差してから押して行く足も不可欠だ。その一連の構想に揺るぎのない自信があったからこそ、菊地はこのリスキーな戦術を選んだのだと思う。頭脳とパワーの結実。

 

 

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 予備候補の第3位から、田中信一郎と峰竜太のフライングなどがあって繰り上がり参戦した菊地。一昨年は仲口博崇、去年は守田俊介……繰り上がり参戦でのSG制覇が密かなブームだが、予備3位での繰り上がりVはギネス級のサプライズ快挙だろう。それはそのまま、静岡支部のトップ級がどれだけ強く、どれだけ層が厚いかという証明でもあるだろう。おめでとう『夏男・キック』。今節もまたスタート力と明晰なレースっぷりに、思う存分舌を巻かせてもらったぞ。

 

 

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 以上、石野VS菊地の一騎打ち風に書かせてもらったが、5コース長田のまくり差しもド肝を抜いた。いちばん遅れ目のスタートから、全速かつシャープに内隣の柳沢を競り潰した。わずかにハンドルを切り直しすロスがあったが、あれがなければ菊地の内に舳先が入ってさらなる大混戦になっていたかもしれない。大金星までもう一息、という極上のまくり差しだった。去年の暮れにグランプリシリーズを制し、8カ月後にあわや2冠目か?という大活躍。その成長度も含めて、「東都のエース」の交代が近づいていると実感した。エース40号機を生かしきれなかった濱野谷憲吾、33%の中堅機で優勝戦の見せ場を作った長田……この一事をもってして断定するつもりはないが、確実にその時は近づいている。そして、それは憲吾本人も心待ちにしているのではないか、という気がしてならない。(photos/シギー中尾、text/畠山)