BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――価値ある勝利!

 

 

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「明日は選手生活でいちばん価値があるレースだと思う」

 昨日のドリーム戦記者会見での平山智加のコメントだ。史上初のSGドリーム戦1号艇。それもダービーという歴史と伝統と権威ある一戦であり、勝率という実力をあらわす数値が選考基準の一戦。ともに1号艇の経験があるレディースチャンピオン優勝戦、クイーンズクライマックス優勝戦も価値ある戦いに違いないが、さらに上の次元で白いカポックを着ることができたことへの思い入れは大きくて当然だ。

 その戦いを逃げ切ってみせたのだから、平山のなかでは忘れられないレースのひとつとなったことだろう。エンジン吊りの最中に地上波放送のインタビュー依頼を受けた平山は、作業を受け持つ先輩たちに丁寧に頭を下げてその場を去っている。その声が、実に弾んでいた。高揚感が、「すみません、よろしくお願いします」のたった一言二言からも伝わってきた。顔つきはひたすら充実感にあふれる。その後、青山登さんが祝福の言葉を投げかけると、「待機行動違反とられてませんかね」と笑っていたという。それも達成感が生んだ余裕の言葉だろう。あるいは、この価値ある勝利に汚点はつけたくない、という美意識のあらわれか。とにかく、これは歴史的勝利だ。ナイスレースだ!

 

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 11Rは白井英治が1着。1マークはかなり流れたターンになったが踏ん張り、2マークで先んじていた原田幸哉に舳先をかけ、粘りに粘って2周1マークを先マイし、勝利をもぎ取った。パワーを感じる一戦だったし、会心の逆転劇にも見えた。それでも、白井は淡々とした様子でピットに戻ってきている。笑顔もなく、むしろ難しい顔つきで控室へと向かってもいる。だが、そこに白井の充実感を見た、といったら考えすぎか? いや、たしかに白井英治という男は、こうしたときにいたずらに喜びをあらわにしないというか、ニヒルを装うというか、ようするに彼なりの美学をもってふるまうところがあるのだ。悔しがる原田への気遣い、というのもあるだろう。その様子はポジティブなもののように、僕には映るのである。

 

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 反対に、原田はいま書いたとおりにひたすら悔しがり、出てくるのは苦笑いばかりだった。まず帰還したボートリフトの上で白井に何か話しかけ、エンジン吊りの合間にはヘルメットをとって満面の苦笑(?)で白井にふたたび声をかけ、レースを回顧している。1マークを回った時点では確勝の思いがあったはずなだけに、ただただ後悔ばかりが残るという心中は、僕にでも察しがつく。勝っておけば初日ピンピンだったことも、原田のもやもやを増幅させていることだろう。明暗クッキリの11R。成績はともに1着2着だが、まるで違う心持で1日を終えるということもあるわけだ。

 

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 西日本スポーツの福岡担当・森大輔記者が、耳打ちしてくれた情報。「下1ケタ=9」。2連対率70%を超えるエース機が菊地孝平の59号機。しかし、それ以上に動いていると森記者が見ているのが29と39。とにかく下1ケタ9に好モーターあり、ということのようである。29号機は白井英治。11Rの動きを見れば納得。そして39号機は石野貴之。評判のモーターだ。ドリーム戦が近づく時間帯、すれ違った笠原亮が顔をしかめる。「石野くんが出てる」。ドリーム戦は石野が2号艇、笠原が3号艇。スタート練習などで真横から石野の動きを実感していたわけだ。

 

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 モーターの動き通りに決まらないのがボートレース。笠原は1マーク握って平山を追走し、道中も捌き切っての2着。石野は1マークで差し切れずに後退、なんとか最後に篠崎元志を抜いての5着。ここがボートレースの面白いところだ。展開もあれば、気持ちもあれば、ちょっとした判断の明暗もあって、結果は左右される。ただ、結果は結果でしかない、というのもボートレース。明日は石野の「初日5着」に惑わされてはならないだろう。石野は明日外枠デー。5号艇と6号艇で戦う。不当に人気を下げるようなら、もちろん狙い目となる。

 

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 そう、モーターの動きもやっぱり大切なのがボートレース。10R、1号艇の毒島誠が離された6着に大敗するとは、誰が想像しえただろうか。モーターが、毒島の腕をもってしてもカバーできないパワー不足にある。モーターがすべてを決するわけではないと言いながらも、あまりに劣勢ではどうすることもできない。それもこの競技の真理のひとつだ。

 レース後、毒島はすぐに本体整備に取り掛かっている。時間はもう残り少ない。12R発走まではほんの1時間程度だ。それでも毒島は、整備を明日にはまわさなかった。明日は3Rで、やはり時間が限られているということもあっただろうか。限られた時間でできる範囲の作業を、毒島は明日以降の巻き返しのためにやり尽くさんとしたわけである。

 それにしても、今年のSGでは劣勢モーターばかり引いている毒島である。それでいて、しっかりと立て直して優出2回、メモリアルでは準優内枠である。その整備力、パワーアップ力には舌を巻くばかりだ。下1ケタ9のモーターを引いてたら、楽々優勝なんじゃないの、なんてことも考えたくなる。今年の実績にならえば、ここから巻き返してくる可能性は充分すぎるほどある! 明日の毒島の気配には要注目だ。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)