「あぁ～、もぉ～～」
甲高い声をあげて寺田千恵が腰を折る。取り巻く仲間たちはニコニコ。寺田のオーバーアクションとも見える悔しがり方を見ながら、おかしそうに微笑んでいた。たしかにテラッチは悔しがっているのだが、しかしそこに悲壮感は見えない。むしろ、感触は悪くないのではないかと見て取れるから、そこに漂う空気もシリアスにはならないのだ。
対照的だったのは、長嶋万記だ。ヘルメットをかぶったまま淡々とエンジン吊りをこなしたあとは、ちょうど対岸のビジョンに映ったリプレイを見つめた。隣には池田浩美。長嶋がチェックしたいのは、当然３周２マークだ。遠藤エミの猛追をしのいで２番手を確保していながら、最後の最後で抜かれた。その原因をすぐに確認せずにはおれなかった。他の５選手は、１周１マークくらいは見たがすぐにカポック脱ぎ場に向かっている。ピットには、長嶋と池田だけが残るかたちになった。レース後のざわめきが消えてもなお、立ち尽くす長嶋。悲壮感とは言わないまでも、悔いが色濃く立ち上っていたのはたしかだ。
もっとも寺田も長嶋も舟券に絡んで、明日以降にもメドは立っている。１号艇で５着大敗を喫してしまった海野ゆかりはそうはいかない。勝利を意識したはずのレースでポイントを大きく失ったことは、先行きを暗くしてしまうものだ。レース後の表情は厳しく、お礼状にカポック脱ぎ場へ向かう足取りがとにかく重かったのが印象的だった。颯爽としているイメージの海野とは正反対の、牛歩と言いたくなるようなものだったのだ。そこに、敗戦による脱力を感じずにはいられない。短期決戦だからなおさら、溜息は深くなったことだろう。
同じく１号艇の遠藤エミは２着。長嶋を逆転したのが遠藤で、計算していたはずのポイントからのマイナスは最小限に食い止めている。遠藤自身が会見で語っていたように、ターンマークに寄りすぎて流れたことで、２艇に差された。今年の女子戦線を常にリードしてきた遠藤であっても、大事な舞台でこんな失敗があるのだから、勝負ごとはわからない。
そのためか、会見での遠藤はやや不機嫌に見えた。気のせいかな？ 枠番抽選後の会見だったので、レースからやや時間が経って行なわれた会見。やっぱり気のせいかな？ ただ、会見は改めて失敗を振り返る場にもなるだけに、敗北感がまたよみがえってきた可能性はある。勝負師なのだから、もし本当に不機嫌だったとしても、それはむしろポジティブ要素と見る。それを引きずったまま明日を迎えたりしないのであれば。
好発進はともに２枠。まずは11Ｒをまくった小野生奈だ。レース後はカポックを脱ぐと、勝利者インタビューを向かう前に整備室に駆け込んでいた。何か気になることがあったのだろうか。確認だけですぐにインタビューに向かっているが、まあそこに何かを感じたというわけではなく、レース後も元気いっぱい小野生奈、という感じなのであった。
12Ｒは松本晶恵の差し切り。遠藤が流れたということもあったが、角度よく見えた長嶋のまくり差しを前に出さず、きっちり前に押して先頭に立ったあたり、仕上がりは悪くなさそうだ。しかし、松本晶恵という人はやはり誠実な人だ。会見場にあらわれる選手は、当たり前だが、用意された椅子に座って記者の質問を待つ。しかし松本はマイクをとってもすぐには腰かけず、報道陣に向き合って「よろしくお願いします」と頭を下げてから椅子に座るのである。受け答えはもちろん丁寧。会見が終わって立ち上がると、もういちど報道陣のほうを向いて、「ありがとうございました」と頭を下げて去っていくのである。さらにもう一丁、部屋を出るときにも一礼。素敵です！ 明日も２着以内なら会見があるし、優出すればもちろんある。明日も明後日も会見で見たくなったなー。年末のドタバタで疲れたおっさんとしては、実に癒されるのであります。あ、優勝すれば最終日にも会見があるぞ。
＜シリーズ組＞
10Ｒをまくり一撃で制した本部めぐみを、多くの選手が称えていた。たしかに見事なツケマイであった。ボートリフトに出迎えた三浦永理がまず、拍手。本部は三浦に向かってペコリ。エンジン吊りに参加した東海勢も祝福しており、なかでも倉田郁美がはしゃいだように声をあげていた。昨日今日と、倉田がきゃぴきゃぴと他の選手に絡んでいくシーンは何度か見ており、実にいい味を出しているのだが、本部もそんな倉田ににっこりと笑みを返していて、なかなか微笑ましい場面だった。えー、ここまで何度か「西村」と書いては書き直してきているわけですが、西村めぐみ、いや本部めぐみは元東京支部で平和島はもともとホームプールだった。東京在住のファンとしては、平和島で豪快なレースを見せてくれる本部、というのが感慨深いわけであります。減点もあって予選突破は厳しい状況だが、20～30年来の東都のファンを明日からも熱狂させてもらいたいですね。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 池上一摩 ＴＥＸＴ／黒須田）
