BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――石野、完勝

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 敗者たちはレース後、一様に悔しげな表情を見せていた。いや、まさかの3周1マーク転覆となった桐生順平は少し違うか。元気にピットに戻ってきた桐生は、他の選手たちに頭を下げて回った。バツの悪そうな表情で。それ以外の4人は、カポック脱ぎ場に辿り着くころには、総体的に顔を歪めている。なかでも、田中信一郎の悔しがり方がいちばん大きかったように思えた。青山登さんの直撃に「迷った」と応えていたが、その迷いはそのまま悔いに換わる。「悔い」という感情がいちばん大きかったのは、たしかに田中だったのかもしれない。

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 篠崎元志は、やはり「地元SGでの敗戦」という部分が大きかっただろう。レース前はいい顔をしていた。いい顔はいつもか。いい表情をしていた。たしかに機力はいちばん劣勢だった。それを自覚もしていた。しかし当然、望みは捨てていなかったし、気合乗りは非常に良く見えた。それだけに、だろうか。スタートで後手を踏むかたちになったことも、悔しさを倍増させるものだったかもしれない。

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 茅原悠紀は不機嫌にさえ見えた。渾身の攻めは見せたが、届く気配はなかった。結果的には、勝者に対して礫をぶつけることもできなかった。こうしたとき、2着だ準Vだというのは、ひとつも喜びにはならない。ちなみに、僕は今日、地上波放送にピット解説で出演させていただいたが、僕をはじめ出演者の誰も、③を予想に入れておらず、それを見ていた茅原がメダル授与式に向かう途上で、芸人のすーなかさんに「誰も僕を書いてくれないから、すっげー気合入りましたよ」と話していたとか。それも不機嫌にさせた理由のひとつか? ごめんなさい。

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 松井繁はカポック脱ぎ場でふーっと大きく息をついた。やっぱり6コースは遠いな、翻訳するとそんな感じか。王者の場合は、悔しさもそうだが、疲労感も見えたような気がした。

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 敗者たちにそうした表情をさせたのは、石野貴之の圧倒的な強さだ。2マークで茅原のターンがかなり迫ったかのようにも見えたが、結果的には危なげない勝利だった。メンタルが強い石野が、出足も伸びも周り足も強いモーターを引けば、まさに鬼に金棒。死角は限りなくゼロに近かっただろうし、あったとしてもそれを埋めるレースを石野はしてみせた。

 ただ、今日は珍しく緊張した、と石野は言った。待機行動のときに聞こえてきた大声援を耳にして突如、緊張感を覚えていたというのだ。ファンの声援にプレッシャーを感じる。それはまさに、声援を送ってくれた人たち=自分に投票してくれた人たちという責任感だろう。全員がかぶっていたわけではないだろうが、そう選手に感じさせるのがオールスターなのだ。この緊張感のなかで勝ったことは、石野にさらなる強さをかぶせるものになっただろう。まだまだ階段を駆け上っていきそうだな、石野は。

 優勝戦は大阪vsニュージェネの構図と言われたし、ここでもそう書いたけれども、実際のところ、石野はむしろニュージェネと同世代。あるいは、ニュージェネのひとつ上のお兄さん、というくらいの世代である。ニュージェネは世代交代を担っていく面々ということになるわけだが、しかし彼らの少しだけ上に、石野貴之という強者がいる。今後は、石野vsニュージェネという対決構図にも注目していかなければならないだろう。おそらく、そのしのぎ合いはこれから10年近くも楽しめることだろう。あるいは、ニュージェネではなく、石野が上の世代に対して交代を突き付けていく存在になるかも? 石野貴之という強者を軸に艇界が回ったとしても、まったく驚きではない。(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)