BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――嬉しい! 悔しい……

 

f:id:boatrace-g-report:20171230134715j:plain

 いやはや、石野貴之の強さといったら。10R、バックでぐいぐいと内を伸びる緑のカポックをモニターで見ていた者たちはみな、溜息をついていた。「逃げれてよかった~」と笠原亮が言う。笠原は6Rで石野と対戦、攻めを受け止めて逃げ切っている。「ほんと、すぐ仕上げちゃうからなあ」と感心していた。石野を負かした笠原をも唸らす強さ。6号艇を1着で終えたのだから、予選の見通しも立ったことだろう。

 ピットに戻った直後は、大きく表情を崩すことはなかったが、出迎えた松井繁に向かって小さくガッツポーズをしてみせている。偉大すぎる先輩にも胸を張れる勝利。王者も笑顔でうんうんとうなずいていた。

f:id:boatrace-g-report:20171230134730j:plain

 これとまったく好対照だったのが、1号艇の森高一真だ。「失敗したわぁ~」と顔を歪めてピット内のモニターの前に陣取り、座り込んでリプレイを見つめた。2コースまくりがある山崎智也が2号艇で、それを警戒しすぎてのターンミスのようで、ひたすら「ダッサいわ~」と悔しがる。足もたいしたことないようではあるが、しかし敗因をそこには求めようとはせず、自分の失敗をとにかく悔やむのであった。3着になんとか残したことは、やはりこの男には何の慰めにもなるまい。

f:id:boatrace-g-report:20171230134754j:plain

 11Rでは、岡崎恭裕がイン逃げ快勝。ピットにはクールに戻ってきたが、2着の白井英治に声をかけられて、笑みがこぼれた。白井は敗れたとはいえ、わりとサバサバしている様子で、岡崎の勝利を素直に称えられたか。ふたりは和やかに肩を並べて、カポック脱ぎ場へと向かっている。

f:id:boatrace-g-report:20171230134810j:plain

 それからかなり遅れて、池田浩二がよろめくようにピットに戻ってきた。鳴門のボートリフトは2台しか搭載できないので、5~6着はそもそも1~2着の2人よりは遅れて戻ってくることにはなる。それでも、池田の遅さは尋常ではなかった。池田が装着場にあらわれた頃には、後輩たちが池田のボートのエンジン吊りをほとんど終わらせてしまっていたのだ。その後、池田は変わらぬよろめき歩様でスリット写真を覗き込みに行き、確認するやズッコけるように腰砕けとなる。スリットと池田の舳先の間には大きめのスペースがあったのだ(といってもコンマ18)。道中3番手を走ったものの、齊藤仁、中島孝平に競り負けての5着。池田は全身で、その悔恨を表現していたわけである。6号艇だったから仕方ない、なんてことは少しも思えないのだ。

f:id:boatrace-g-report:20171230134826j:plain

 ドリーム戦は、勝者も敗者も特に大きな動きはなかった。勝った辻栄蔵が重成一人に声をかけられて、「ワッハッハッハッ!」と大声をあげたのが目立ったくらいである。1号艇で敗れた菊地孝平の心中は複雑だろうとも思うが、レース後の菊地はまっすぐな目でリプレイに見入って、粛々と控室へと戻るのだった。

f:id:boatrace-g-report:20171230134841j:plain

 なお、ドリーム戦はスタート展示が盛り上がった。松井繁の前付けに全艇が抵抗したのだが、起こし位置は6コースの松井がいちばん深くなっていたのだ。むしろ、内に行くほど浅くなっている、通常とは正反対の図。これを見て峰竜太が興奮気味だったのだ。スリット写真がまた凄かった。松井の走った位置は、通常の3コースくらいのところで、3対3のときのダッシュ勢の位置ががら空き。スロー勢の位置に6艇がひしめき合っていたのだ。「狭っ!」と峰が笑う。これ、おそらくは松井が本番では何が何でもコースを獲るという意思表示で、ここから駆け引きが始まっていたということだろう。スタート展示にドラマが宿ることも、間違いなくあるのである。

f:id:boatrace-g-report:20171230134859j:plain

 さてさて、ご存じの方も多いように、長崎支部に移籍した原田幸哉。といっても、人間関係に大きな変化があるわけではない。柳沢一とは、支部が変わってもまるで変わることのない、師弟関係である。というわけで、二人の絡みは非常によく見かける。今日も向かい合ってペラを叩き、原田が柳沢にアドバイスを送っている様子も見られた。

 エンジン吊りのとき、原田はもちろん九州勢のそれに参加する。同支部である下條雄太郎のときはもちろん、福岡でも佐賀でも駆けつける。そして、時間があれば、その後は東海地区のエンジン吊りにも足を向ける。光景としては見慣れたものではあるが、今の状況を考えれば、故郷を忘れることのない殊勝な行動に見えたりもする。原田は今後も、愛知と東海に思い入れを抱きながら、発祥地を盛り上げることを第一に考えて戦うのだ。(PHOTO/中尾茂幸 黒須田 TEXT/黒須田)