BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――一般戦組も戦いは終わらない

 

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 野暮用があって、ピットに入れたのは10R終了後。ちょうど、1便で宿舎へ帰る選手たちとすれ違った。20人ほども帰っていただろうか。選手の数が少なくなったこともあり、装着場は準優へのコメントを取ろうという報道陣たちが待っている姿のみ。朝のように静けさはないけれども、選手の動きはほとんど見られなかった。予選最終日の終盤戦、まあありがちな光景ではある。

 整備室を覗くと、池田浩二がペラ調整を続けていた。池田は4R1回乗り。ということは、1便で帰ってもいいわけである。しかし池田は帰らない。居残って、プロペラと向き合ったのだ。予選突破はならなかったが、残り2日を投げるわけにはいかない。池田ほどの多くの勲章を手にした男でも、泥臭く目の前の戦いに全力を注ぐ。ペラを見つめる池田の目つきはキレッキレであった。

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 よく見ると、整備室で調整作業をしているのは、予選落ちの面々ばかりなのだった。服部幸男、菊地孝平、新田雄史。服部は10Rに出走していたので、慌てて帰ることはせず、終盤のわずかな時間を明日のために使うことにしたのだろう。もちろん、帰ろうと思えば充分間に合う。でも帰らなかった。菊地と新田は9Rに出走。もちろん帰れる。でも帰らない。気になる点があれば、そのままにはしておかないという姿勢には、ただただ敬意を表するしかない。

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 特に作業をするわけではなかったが、松田祐季の姿もあった。松田の場合、結果待ちという意味もあっただろう。終盤レースの時点で、ずっとボーダーにいたのだ。まさに相手待ち。12Rでいえば、下條雄太郎が大敗すれば、松田が圏内に浮上していた。準優組には、JLCの展望インタビューや、スポーツ紙記者さんへのコメント出しなどが待っている。準優進出の可能性があるなら、結果を待つのがよくあるパターンだ。ちなみに、得点率6・00で終えた松井繁と田中信一郎は、もし予選落ちとなった場合にはボツにしてええから、と先にJLCのインタビューを収録して、1便で帰ったそうだ。スタッフのほうから「ボツになるかもしれないけど、インタビュー録らせて」とはとても言えないだろうから、インタビュアーの青山登さんのコワモテの顔もほころぶというものである。

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 とまあ、終盤の時間帯で目にするのは、とにかく準優組以外が多かった。今日はイン11勝、もうひとつは2号艇と、インパクト大の勝負駆け成功があまり見られなかったこともあってか、ベスト18勢も満面の笑みだったり、テンションアゲアゲだったりという場面は見られなかった。10Rを逃げた湯川浩司は19位以下から圏内に浮上したのだが、表情も雰囲気も今節のこれまでとまるで変わらず。淡々としたものである。フライングの太田和美以外は全員が予選突破した大阪支部、なんて話を振ってみても、そうやね、くらいで素っ気なくもあった。

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 篠崎仁志は結果的に予選2位で、準優1号艇なのであるが、11Rは2着に終わったこともあってか、沸き立つようなところは少なくとも僕には見えなかった。エース機を手にしながら、勝利は1号艇時のみ。一方で石野貴之がぶっちぎりの独走を見せているだけに、より高いレベルを求めているとするなら(ようするに単に優出を目指しているだけではないのだとしたら)、こんなところで喜んではいられないだろう。

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 岡崎恭裕は、自分の順位(10位)を知って、顔を歪めていた。なにしろ、9Rは6着大敗だ。無事故完走で当確だったとはいえ、それこそ単に予選突破すればいいとだけ考えているわけではあるまい。12R終了時の得点率順を見て、「3着でよかったのか~」と即座に口にしたのは、さすがの理論派。9R3着なら、準優1号艇だったのだ。それをさらりと計算できてしまうのが岡崎恭裕である。

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 もし同支部の下條が大敗せずに残り、愛知のかわいい後輩である平本真之が1着なら予選突破はならなかったという、なんだか複雑な立場に置かれていた原田幸哉は、レース終了後は淡々としたものだった。そこまで細かい計算をしていたかどうかはわからないが、そこで一喜一憂するようなキャリアではない。というように、やはりなんとなく空気が淡々としているのだ、ベスト18組も。

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 というわけで、ぶっちぎり状態の石野貴之。得点率9・33は、2位の仁志7・33に2点もの差をつけている。SGでこんなにちぎって予選を駆け抜けたのは、最近では記憶にない。もちろんここで浮かれる男であるはずもなく、レース後もひたすら凛々しい石野貴之である。この男を倒す者がいるのかどうか。言うまでもなく、17人が諦めているということは絶対にありえないが、その強さに舌を巻いている部分がある選手がいたとしてもおかしくはない。石野は明日から、さらに意識を研ぎ澄ませていくことだろう。明日は今日よりも尖鋭的な石野を見ることができるはずだ。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)