BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット――まさかまさかの大波乱……

9R グラッツェ!

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 ボートリフトに駆け寄った大阪勢が、親指を立てた両手を勢いよく頭上に掲げる。

「グラッツェ!」

 チーム・グラッツェの旗頭が、最初に準優を突破した。意気上がる木下翔太と大阪勢。木下の顔からは、まるで張り付いたように笑顔が消えない。会心のまくり差しに、木下のテンションはアゲアゲで、出迎えた上條暢嵩もニコニコ顔だ。もちろん山崎郡も笑っている。

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 対して、片橋幸貴は、穏やかな顔ではあったが、淡々としていたように見えた。同県同期の丸野一樹が笑顔を向けると、目元は緩む。しかし、それ以上の笑顔はあまり見せてはいなかった。イースタンヤング優勝でなんとか掴んだヤングダービーの切符。そこで優出までしたわけだから、今節のシンデレラボーイだ。

「ターンには自信を持っています。だから、この中に入っても気持ちで負けたりはしていません」

 では、B1でいるのはいったい何が足りないのか。おそらくは本人も自覚しているはずだ。そのうえで、強気で優勝戦に臨めることができれば、真のシンデレラボーイ誕生も決して夢ではあるまい。

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 1号艇の村岡賢人は3着。絶好のチャンスをモノにできなかったのは、もちろん悔しかっただろうし、いろいろと思うところもあっただろう。エンジン吊りとボート洗浄を終えて、控室に向かう村岡の眼前には、カメラマンたちがレンズを向けて待ち構えていた。まるでレンズから視線をそらすように、水面のほうに目を向けながら歩いていた村岡。その視線の向きこそが、悔しさを表現していたと思う。

 それにしても、これがセミファイナル大波乱の巻の序曲となろうとは……。

 

10R 怒濤の換わり全速

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 まくられた艇が外に変わって全速で旋回し、まくった艇を追いかける。いわゆる換わり全速は何度も見てきたが、それがまくった艇を捉えてしまうとは……。少なくともSGやGⅠでは見た記憶がない。どこか2着獲りの戦法のように思いこんでいたのだが……。

 それをやってのけた中田竜太自身、「僕も驚きました」と笑う。本人も届くと確信したターンではなかったのだ。やはりテンションが上がっていた中田だが、自分でも驚く驚異的な旋回をできたことはもちろん、それを可能にした足色を実感できたことがそうさせたのだろう。今節は「自分に自信をもって走る」がひとつのテーマだった中田だが、それは近況がネガティブに考えてしまう流れだったからこそ、自らに言い聞かせてきたことだったはずだ。しかし、今日のレースで、言い聞かせずとも自信が自然と芽生えたのではないか。正直、11R発売中に中田の共同記者会見を見ながら、明日は2号艇でも優勝するのではないか、と僕は漠然と考えていたくらいだ(2コース得意だし)。

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 椎名豊の気持ちは、どちらにより振れていたのだろう。初のヤングダービーで優出した喜び。まくり切ったはずだったのに追いつかれて2着に敗れた悔しさ。まあ、どちらもあるのは間違いないが、「1マークで失敗した」そうだから、回顧し反省する気持ちが強かったかもしれない。

 11R発売中にモーター格納作業をしているとき、中田も会見を終えて整備室にやって来て、顔を合わせている。二人はとびきりの笑顔で話し合っており、関東ワンツーを喜び合っているようでもあった。ひとまず、気分を高めて優勝戦には向かえそうだ。

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 そして……まさか篠崎仁志が飛んでしまうとは……。ピットに戻ってきたときには、悔しさとかそういうものを顔に出すことはなく、ぐっと無念に耐えているように見えた。それはたとえば、本命を背負って敗れた松井繁のように。それはつまり、格上の選手のふるまい。やはりここでは篠崎仁志という存在は突出しているのだと思った。

 それでも、エンジン吊りとボート洗浄を終えて控室に戻る際には、唇を噛み締めるような表情にもなっている。やはりプライドが傷つけられた部分はあったはずだ。自分でも優出を疑わなかったと思われるだけに、そんな心境になって当然だ。僕的には、これがさらに仁志の決意のようなものを強くするとは思うのだが。

 それにしても、波乱の連鎖がさらに続いていくことになろうとは……。

 

11R これがヤングダービー

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 勝った大上卓人よりも、同期である109期生の盛り上がりが凄かった。地上波放送のインタビューを受ける大上を全員で見つめ、大上が控室へと向かうと全力で追いかけた。片橋の優出も嬉しいが、さらにもう一人、同期生が優勝戦に駒を進めたのは109期生にとっては大朗報だろう。もちろん、大上もニコニコと笑っていた。リフトに出迎えた村松修二も嬉しそうだったが、その笑顔を見ながら大上もさらに目尻を下げていた。

「師匠(西野翔太)のおかげで、調整が思い切りできている。その後押しがあって、レースに集中できている」

 同期、同県の後輩、そして師匠。周囲のエールを全身で浴びつつ、大上は若武者決戦のファイナルに向かうのである。

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 2着は仲谷颯仁だ。前半の記事で丸野一樹と話している様子を記した。去年、仲谷と同じ立場にあった丸野が、そのことを話していた……というのは、完全に僕の思い込みだった。丸野に確認したら、ぜんぜん違ったのだ。だが、結果は丸野の再現となった。

「なんかあるんですかね、ヤングダービーの18位には」

 丸野が笑う。なにかあるのかどうかはわからないが、丸野にせよ、仲谷にせよ、これだけの仕事をやってのけるだけの力はもちろんある。

 11Rには福岡勢がほかに2人いたので、仲谷を出迎えた同県の先輩は塩田北斗だけだった。なにしろ福岡のエース級がまさかの敗退となっているので、いろいろ複雑なものもあるかもしれないが、しかし塩田は優しい笑顔を仲谷に向けて、仲谷もその祝福に少年のような笑顔で応えていた。童顔というのか何というのか、ただただ「若い!」と言いたくなる表情なのだが、その底力やポテンシャルはもちろん高い。明日、一気にスターダムに駆け上がることがあっても、なにも不思議ではないだろう。

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 それにしても……前田将太まで飛ぶのか! 同期でもある平見真彦が、「こんなこともあるんですねえ」と溜息をつく。1号艇が全員、準優で敗退するなんて、ビッグではいつ以来なのか。ひとまず調べはしないけれども、まったく記憶の引き出しから出てこないのだから、珍事であるのは間違いない。大上にまくられた前田、岡村慶太、遠藤エミの3人が輪になって、首をひねりながら視線を交わす。スローの3人は内からコンマ24、23、25。ほぼ横一線で、後手を踏んだのだ。それが本人たちにも不可思議な出来事だったのだろう。予選トップ、序盤3連勝、エース機の女流トップが、まとめて新星にまくられた。前田も岡村も遠藤も、信じがたい出来事だっただろう。見ている僕らだって、にわかには信じがたい事態だ。

 選手たちがみな引き上げていったあと、ペラ室に向かう途上で松田大志郎が言った。

「これがヤングダービー」

 前年度覇者の言葉だけに、含蓄に富んでいると言うしかない。(PHOTO/中尾茂幸 TEXT/黒須田)