BOAT RACE ビッグレース現場レポート

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THEピット――充実と痛み

10R あの頃の魚谷

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 結果的に、準優のなかでは唯一、1号艇が勝ったレースとなった。レース後のピットも、唯一といっていいほど、穏やかであった。あえて言うなら、3着に敗れた井口佳典が、珍しいくらいに顔が歪んでいたくらいだろうか。普段の井口は、表情を変えずに悔しさを内に抑え込むような印象があるが、今日の井口ははっきりと眉間にシワが寄っていた。期すものがあった準優だっただろうか。

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 勝ったのは魚谷智之。レース後も実に凛々しかった。今日は5日目、レース後にボート洗浄を選手一丸となって行なう。その間も魚谷は、力強い表情を変えなかった。他の選手との絡みで顔がほころぶ場面があるかと見ていたが、僕にはそうした瞬間は見えなかった。19号機の機力だけでなく、精神的にも充実していると見える。

 結果的に、優勝戦1号艇である。それが決まったあとも、特に表情は変わらないように思えた。優勝すれば10年ぶりのSG制覇だが、その当時の魚谷をふと思い出す。こんな雰囲気の魚谷を、毎度毎度、ピットで見ていたなあ、と。06年10月から07年8月の10カ月間で3つのSGを獲った魚谷とたしかに似たムードが今日の魚谷にはあった。

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 2着は前本泰和。勝っても負けても、あまり表情を変えない印象の人。今年オーシャンに次ぐ優出に、浮かれたり高揚したりという様子はまるで見当たらない。現在賞金ランク16位で、これでグランプリ初出場が見えてきた。それについても「正直、意識していなかった」と、淡々としたものだ。

 優勝戦で気になるのはコース。会見の時点では4~6号艇ということしかわかっていなかったが、「動かないと思う」としたうえで、「外に動く人が入ったら、外には出たくない」と言った。外に動く人が入った。さあ、前本はどうするのだろう。

 

11R 悲痛

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 初めての予選トップ。それがよりによって、進入がもっともキツい1号艇となった。それでも、乗り切るだけの力は充分にあるはずの久田敏之だったのだが……。コンマ02の勇み足。一緒に見ていたJLC専属解説者の山口雅司さんが、スリットを超えた瞬間に「アッ」と声をあげている。さすが元選手、瞬時に早すぎると察知したのだった。それから僕と山口さんは「スタート正常」が出るのを祈ったのだが……。

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 久田のこれまでのレーサー人生で、おそらくは最も痛く、重いフライングだろう。一足早くピットに戻ったときの表情は、ひたすらにカタく、競技本部に向かう際にすれ違った選手たちは声もかけられない。エンジン吊りに戻ったとき、毒島誠がそっと久田の腰を抱いた。二人は1期違いの先輩後輩。もっとも痛みを共有したのは毒島だろう。次に齊藤仁が歩み寄り、同じように腰を抱き、2度3度と優しく腰を叩いた。そうした周囲の慰めが、少しでも癒しになっていればいいのだが。今夜は久田にとって、とてつもなく苦しいものになるかもしれない。これでもろもろのペナルティを受けるわけだが、とにかく、久田には乗り越えてふたたびSGの舞台に戻ってきてほしい、と言いたい。この痛い思いは、この舞台に来られる存在となり、そこで主役を張れるようにもなれたからこそ味わうものだ。誰もが味わえるものではないし、その意味で前を向いてほしいと思う。近いうちにこのピットでまた会えると信じる。

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 勝ったのは峰竜太。2着が深川真二で、佐賀支部ワンツーだ。真っ先にボートリフトに戻り、すぐ後ろにいる深川と挙手で称え合ったときには、装着場にもハッキリ聞こえる、黄色がかった声が聞こえている。Fレースであっても、揃って優出を決めたことは、やはり嬉しいに決まっている。

 足については、「真二さんのほうが強め」とはっきり認めている。僕は、峰が足的に上位ではないことを素直に口にすることを、すごくポジティブなものだと思っている。出てなくても出てるといって自分を鼓舞するということも今までにはあっただけに、正味の足色を隠すことなく言える自然体が、レースに好影響を及ぼすのではないかと考えているのだ。つまり、峰の雰囲気は悪くない、と思う。

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 それにしても、深川が残ったことで、明日はコク深い優勝戦となった。進入、面白いぞ~。前本の「外に動く人が入ったら、外には出ない」のコメントを振られて、「大丈夫です。譲ってもらいますから」と笑った。さらに、「僕は6コース80m起こしでもかまわないんで」とも言い放った。俺に抵抗したら、全員80m起こしだぞ。いい。実にいい。これぞボートレースだ。優勝戦のカギを握るのは、まずはこの人。今夜は優勝戦の進入の話で美味い酒が呑めそうだ。

 

12R ダービージャケット

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 で、今垣光太郎が早くも悩むのである。「こ~れは、進入、難しいですねえ」。12R2着で、今垣は4号艇。外には前本泰和、深川真二で、黙っていたら6コースである。しかし、付き合えばセンターあたりの80m起こしになる。前本が引くのなら入れて5カドもあるが、前本の出方はもちろんわからない。たとえば魚谷は、何があろうとイン主張を腹を据えられるが、4号艇で枠なりなら4カドなのに、という今垣のほうが悩みは深かろう。

 機力的にも悩みは大きい。進入にも絡むことだが、チルトを跳ねれば伸びはそれなりにつくのだそうだ。しかし、今日のようにマイナスにすると、「差されないターンをしたつもりなのに、回り足が来ない」。前付けに抵抗してスローと決め打ちするなら、マイナスでなんとか出足や回り足を引き出したいところ。などなど、今垣は今夜から考え込むかもしれないし、明日はさまざまな方策を練りながらバタバタと動くことだろう。

 なお、優出会見にあらわれて、優出を祝福されて「ありがとうございます」と口にしながらも、顔は思い切り歪んでいるのであった。1号艇で2着。優出したといっても、やはり悔しさは残ったのだ。

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 勝ったのは白井英治だ。出迎えた寺田祥が右手を突き出し、白井はそれに応えてグータッチ。二人がワンツーを決めたメモリアルから、SG2節連続優出である。

 ボート洗浄の間も、白井はもちろんゴキゲンな様子だったが、しかし粛々とした雰囲気も感じられた。会心の2コース差しだったはずだが、それに酔うこともなく、高揚することもなく、風格すら感じさせるたたずまいなのだ。

 進入については、今垣のようには悩んでいなかった。基本2コースとしたうえで、「勝てるコースから」と締めた。そして、「ダービージャケットが着たい」とも言った。師匠の今村豊は、グランプリが完全に定着した今でもダービーを最高峰と考えている。「今村さんが夜な夜な言うので、ダービージャケットを着たい(笑)」なんてジョークも飛ばしていたが、師匠の刷り込みも少なからずあるに違いない。白井はこれが5度目のダービー優出。09年は予選1位通過だった(準優2着で優勝戦は4号艇)。しかし、白井のダービージャケット発言は、これまでに記憶がない。師匠がこだわったダービー制覇に、今、機が熟したということだろうか。長身の白井が寸足らずのジャケット(笑)を着るシーン、充分に想像できる。(PHOTO/中尾茂幸 池上一摩 TEXT/黒須田)