シリーズのほうで守田俊介の整備について書いたが、グランプリ組では石野貴之である。インを活かせなかった昨日を経て、やはりというかなんというか、本体に手をつけたのだ。
整備室を覗き込んだときにたまたま目が合ったが、その目つきは実に鋭いものだった。別にこっちを睨みつけたわけではなく、必死の整備中に向けた視線がこちらを捉えたものだろう。整備士さんに見守られながら、極限の集中力でパワーアップをはかる。先ほど、４Ｒ発売中には試運転に出ていたが、今日はひたすら機力を引き上げる作業を続けるのだろう。
で、グランプリ組でも対照的にゆったりな人がいて、こちらは原田幸哉。１Ｒ発売中の間はずっと、笑顔を絶やすことなく関係者と話し込んでいた。間違いなく、雑談だと思う。原田もそれなりの手応えを得ているということか。まあ、この人は実に話好きである。あれはいつのＳＧだったか、優勝戦の直前に原田のほうから話しかけられたことがあって、そのときもずいぶん長いこと話し込んだものだった。もうすぐ優勝戦なのに、こんなにリラックスして話し込んでいていいのか、とかなり気を遣ったほどだ。原田の場合、こうして会話を交わすことが、リズムを作ることにつながっているのかもしれない。
ペラ室には本当に多くのグランプリ組の姿があった。そのうち、森高一真とは目が合って、「おぅ」と目配せを送ってきている。こちらも「どもども」と返す。森高は機力的には決して優勢ではなく、今日も外枠で厳しい戦いが続いているわけだが、しかしグランプリという最高峰の戦いを楽しんでいるように見える。どんなレースよりも最も過酷で、気合も入り、精神的にも追い詰められるのがグランプリだと思うが、そうした戦いが森高に合っているということだろう。デビュー以来の目標だったグランプリ出場、それをかなえて森高は「また出たい」の思いをさらに強くしたはずだ。
白井英治もペラ調整。プロペラを見つめる目は厳しいが、時折ピットに姿をあらわすときの表情は穏やかだ。充実した表情、と言ってもいいだろう。気合が乗りすぎず、緩め過ぎずの絶妙な感じ。同様なのが桐生順平で、いい具合に肩の力が抜けているように見える。初戦をまずまずの成績で乗り切ったことも大きいだろうか。アドバンテージを得て２ｎｄから参戦しているベスト６組だが、初戦を経てメンタル的にもアドバンテージがあるように思えた。（ＰＨＯＴＯ／中尾茂幸 池上一摩 ＴＥＸＴ／黒須田）
