BOAT RACE ビッグレース現場レポート

BOAT RACE ビッグレースの現場から、精鋭ライター達が最新のレポートをお届けします。

THEピット@グランプリ――すでにゴングは鳴っている

 最初に言ってしまうと、優出した選手たちはすでに決意あふれる表情をしている。優出を決めた安堵みたいなものは、あまり感じられない。ここは誰にとっても超えなければいけなかったハードルなのであって、優出が決まった瞬間に優勝戦は始まっている。

f:id:boatrace-g-report:20180117110300j:plain

 ただ一人、異彩を放っていたのが峰竜太である。誤解される可能性があるが、あえて峰の発言を記そう。

「今年はチャンスがなかったですね。2着でお腹いっぱい。流れが来たときにそれをしっかり掴みたいですけど、今年は順平に流れが来てるんじゃないですか」

 勝つ気がないのかよ! そんなふうに聞こえても仕方ないだろう。峰が言う「チャンス」とは優勝戦1号艇。それが手に入らなかった時点で、チャンスがなかったと峰は言ってしまうのだ。会見場は、そのコメントの瞬間、大爆笑でした(笑)。

 僕は、それが本音中の本音だとはまったく思っていない。このところとみに感じるのだが、どうもこの人は質問に対して脊髄反射的に答えてしまうところがあるようで、それがどこか違和感のある“天然系”の言葉になりやすいようだ。先の芦屋周年、優勝戦1号艇の前日のJLCインタビューで、インタビュアーが深い意味を込めて「いよいよあと1走になりました。どんな心境ですか」と尋ねたときの答えが傑作だった。当然、「全力を尽くして優勝したいです」的な言葉が模範解答だと思うのだが、峰は「あと1走したいな、って感じです」。そりゃしますよ(笑)。というか、したくなくてもするんだよ、あと1走!(笑)

f:id:boatrace-g-report:20180117110312j:plain

 だから、峰のコメントを翻訳すると「このメンバーで1号艇を獲れなかったら厳しい戦いになると思う。1着はなかなか難しいし、流れの来ている順平は強敵だと思います。でも、足は万全だし、いい結果になればいいと思います」とでもなろうか。実際、最後に「いい結果になれば」という意味の言葉を出している。そう考えると、峰竜太のコメントは本当に味わい深い!

「みんなすごく気合が入ってると思います。でも、僕みたいにこの舞台を楽しめているような人がいてもいいんじゃないですか」

 気合パンパンの5人のなかに、緊張しながらも楽しんで戦っている男がいる(それも完全な本音ではないような気もするのだけど)。これ、けっこう怖いと思うのだが、どうか。

f:id:boatrace-g-report:20180117110414j:plain

 というわけで、他の5人はそれぞれ勝負がかった雰囲気を醸し出していたけれども、それぞれが微妙に違うのもまた当然。たとえば、優勝戦1号艇を手にした桐生順平からは、絶対逃げるとの思いは見えたけれども、やや苛立ちも伝わってきたように思えた。12R、1号艇で敗れたわけだが、結果として優勝戦の1号艇も守れたのである。しかし、それよりも敗れたことに対してのネガティブな思いが強いように思えた。実際に1号艇で敗れたのだから、優勝戦1号艇が安泰ではないということでもある。また、2周1マークで寺田祥と茅原悠紀の競り合いがなければ、優勝戦1号艇も手放していた、という局面だった。浮かない表情なのも当然か。

f:id:boatrace-g-report:20180117110438j:plain

 菊地孝平の場合は、まず「反省してます」と言っている。11Rを終えて21点を獲得して相手待ちになっていた菊地は、もし寺田が2番手競りを制していたら、次点に泣くところだった。「仲良くしている寺田くんが頑張らないように、なんて思ってしまった。それを反省しています」が菊地の弁だ。いざ自分が優勝戦に残れたときに、そんな自分を恥じたくなってしまったのだろう。

 だが、それほど優勝戦に乗りたかったのだ! そんな思いが無限大に爆発するのがグランプリなのである。もちろん、11Rでひとつ着順が上だったらそんな思いもしなかったし、最初からそうしておかなきゃいかんという気持ちもあるだろう。しかし、あの聡明な菊地でさえそんな考えになってしまったことがグランプリの重みだし、そして菊地がそう考えたことも崇高だと思う。それを恥じるのなら、明日は寺田の思いも背負って走ればいい。何しろ、進入のカギを握る6号艇だ。菊地の高性能コンピュータがどんな答えを弾き出すのか楽しみだ。それだけでも、菊地が残った意味は、ファンにとっても大きい。

f:id:boatrace-g-report:20180117110450j:plain

f:id:boatrace-g-report:20180117110459j:plain

 桐生と菊地とは違い、思いがただただ前に向いて強く押し出されていたのが井口佳典だ。あの勝ち方=5コースまくり一撃で優勝戦好枠まで決めたのだから、テンションが上がるのも自然なこと。エンジン吊りを終えて控室に戻る際には、カメラマンに向けて左手を高く掲げてみせてもいた。

 スタートタイミングはコンマ01! ぶち込んだぞ! その手のスタートに対して、やや恐縮するコメントもよく聞かれるが、井口は悪びれずに「全速です。ギリギリかなと思って行きました」と言い切った。舟券を買う側にとって、なんと心強い態度! まあ、明日は本当に気をつけてもらいたいわけだが、井口は「遅れることはまずないし、失敗はないと思います」と断言しちる。こういうモードに入った井口はただただ強い。明日見せてくれるであろう強烈な表情も楽しみだ。

f:id:boatrace-g-report:20180117110508j:plain

 毒島誠は、チャレンジカップ優勝戦の前日とよく似た雰囲気である。準優をクリアしたことで、透明感も漂わせながら視線が力強くなっていた1カ月前。会見での言葉も、淡々としていながらも、口調にやや重厚感が伴う感じ。トライアル1stを切り抜け、2ndも乗り切って辿り着いた真の黄金のヘルメット争奪戦。その事実が、毒島に敬虔とでも言えるような背筋が伸びる感情を生んだように思えた。

 今日の毒島は、辻栄蔵も真っ青の“ギリペラ”で臨んだ。完全なぶっつけ本番、それはリスクを伴うものでもある。実際、今日は調整を外していたそうである。あのギリペラがマイナスに働いたか、そうでなくとも奏功しなかったということになる。ただ、それが毒島にある感触を与えたようだ。それもふまえての調整。明日もまた、最後の最後まで死力を尽くす毒島が見られるだろう。ちなみに、時折見せる「スーパーピット離れ」については、明日は繰り出されない可能性が高い。「ここの水面でバナレを飛ばしたら、道中の足がひどいことになると思う」とのことだ。もし飛んだら、「ひどいことになる」という部分を克服した、つまりは鬼に金棒になっているということなのだが。

f:id:boatrace-g-report:20180117110520j:plain

 それにしても石野貴之の勝負強さは究極的である。5カドまくり一撃で勝負駆けを突破するとは! 現代ボートレースでは、内枠が前付けに抵抗する場面が実に多い。「譲らず深くなって負けるより、譲って負けたほうが悔しい」という言葉を選手から何度も聞いてきた。気持ちはわかる。そうすると、2号艇で5コースに出るのはまさに一か八かの勝負だ。「みんな殺気立っていたので、これは深くなると思ってダッシュに決めた」とのことだが、それをグランプリの、勝負がかったトライアル最終戦でやってのける石野の肚の据わり方はもはや究極である。こうした芸当をやってのけられるのが、石野の強さ、あるいは石野の気持ちの強さだ。感動的な5カドまくりだと思う。

f:id:boatrace-g-report:20180117110535j:plain

 そうして勝ち抜いた高揚感は、石野からはまったく感じられなかった。「このために1年間頑張ってきた」と開会式で石野は言ったが、「このために」はグランプリで優勝するために、である。つまり、このまくり一撃も「このために」に含まれる。そのチャンスを掴んだ以上、12Rの勝利はもう過去のものだ。今はただ、明日の夕刻にどう戦うかを考えるのみ。なお、あれだけ苦しんだ7号機だが、「伸びも出足もハマった」そうだ。それがどのレベルなのかは明日の足合わせやスタ展などを見るしかないが、少なくとも出ていないエンジンを相棒にしているというネガティブな感情は石野にはない。勝つことしか頭にはない。

 さあ、泣いても笑っても優勝戦。我々ファンの戦いもすでに始まっている! 今宵はアツい時間を過ごせそうですね!(PHOTO/池上一摩 TEXT/黒須田)